第89話少女が住んでいた村



 僕たちは馬車の中の簡易ベッドで寝ている少女の看病をしている。まぁ、看病といてもほとんどはムイが率先してやってくれて、僕とエルとスズと龍人姉妹は完全に蚊帳の外の状態なのだが。

 ついでに、ジルは二階の僕がつい先ほどまで寝ていたベッドでハイドに看病されながら寝ている。

 そして、看病すること4時間。ベッドの上で静かに寝息を立てていた少女が目を覚ます。


「んんっ」

「あ! フェルトお兄ちゃん起きたよー!」


 ムイは少女が目を覚ますと、急ぎ足で馬車の外で待機している僕に知らせに来た。


「本当!?」


 僕はムイからその知らせを受け取り、馬車の中に入ろうとする。


「・・・・・・・」


 何か冷たい、金属のようなものが僕の首元に背後から当てられる。


「いきなり失礼な挨拶だね」


 僕の首元に当たっているのは少女の所有物っぽいから、馬車の隅の方に置いておいたはずの刀だった。


「まずはあなた達の目的を聞かせて。いきなり空から島ごと浮遊して来て、私たちの村を黒い生物で襲った理由は何? それに、攻め入った私をなんらかの防壁ではじき返し、気を失った私を殺す風でもなく看病なんかして、それに私の服まで変えて・・・何がしたいの?」


 少女は刀を僕の首から離すこともなく、質問ぜめにしてくる。


「話すのはいいけど、まずは僕の首に当てている刀をどけてくれないかな? 落ち着いて話もできないから」


 僕は彼女にそう提案するが、彼女は黙る。刀を退ける気配もない。どうやら、このまま話を進めろと言いたいようだ。


「はぁ〜、わかったよ。まず一つ目から答えるよ。僕たちの目的はルトバーを殺し、研究所に捉えられ今も実験を繰り返されている人狼たちを解放すること」

「ルトバーっていうのは誰?」

「ルトバーは僕の父親であり、僕の大事な人を二度も奪った仇であり、この世界を壊そうとしている男のことだよ」


 僕がそういうと、彼女はなんの躊躇もなく刀をふり首を落とそうとしてくる。

 僕は異能力で彼女の背後へと移動し、今度は僕が彼女の首元に刀の刃を当てる。


「やっぱり刀を振ったね」


 少女は刀で僕の首を完全には寝るつもりだったのだろう。一瞬で背後に移動し首元に刀の刃を当てた僕を見て明らかに表情に恐怖が浮かぶ。


「信じてもらえないかもしれないけど、僕は本当にルトバーを殺そうと思っている。それがたとえ叶わないことだとしてもね」

「信じない! 私の住んでる村を滅ぼした奴の子供なんて信じることなんてできない!」


 少女はそう言って、なんらかの異能力で僕を後方へと吹き飛ばす。そして、さらに刀を振り上げて追撃をしてくる。

 僕は追撃から身を守るために刀を構え直す。


「それ以上動くと首が飛びますよ」


 追撃は行われなかった。その代わりにムイが白狐の爪を手にまとい少女の首に当てていた。それだけじゃない、ムイは少女の体を玄武の蛇で拘束し、僕を守るように朱雀と青龍が召喚されていた。

 僕はムイの恐ろしいほどの状況判断能力に恐怖を覚えた。おそらく、この状況を目の当たりにした少女も同じく恐怖を覚えただろう。多分少女の方が年上なのにもかかわらず少女の体は震えている。


「っ、君みたいな小さい子もこいつの仲間なの?」


 少女はムイにそう尋ねる。


「そうだよ」

「なんでこんな奴の仲間になろうと思ったの?」

「あなたはさっきの話をちゃんと聞いていたんですか? それに、もし私たちがルトバーの仲間だったとしたらあなたが争ったところで意味のないですよ」


 ムイは冷たく低い声で少女に告げる。ムイからはその年齢にはどうしても合わないほどの殺気を放っていた。

 流石の僕でもムイの歳ではこれほどまでに冷たいさっきを放つことはできなかった。


「・・・わかった。あなたの言ったことを信じる。だからこれを退けて」


 少女は刀を地に置き、両手を広げて言う。


「ムイ、もう爪を退けていいよ」


 僕は無為に爪を退けるよう促す。

 ムイは纏を解除して僕の方へと寄ってくる。


「じゃあここで立ち話もなんだし馬車の中で話そっか」


 僕はそう言い馬車に戻る。



「じゃあ、まずは君がいた村に何があったのか聞かせて欲しいな」


 僕は冷たい水をコップの中に入れ少女の前に差し出し尋ねる。

 ムイは護衛と言って僕の横に座っており。上で寝ているジルと看病をしているハイド以外は馬車の外で待機していた。


「わかった。今から3日ほど前のことになる・・・

 私は親に頼まれたものを買いに村の外に出かけていたんだ。

 そしていざ村に帰ってみると、そこには地獄のような光景があった。

 村は全焼していて、よくわからない黒い物体が村の人たちの死体を食べていてあたりは血と炎でいっぱいになっていたんだ。

 だから私は、村人たち、お父さんお母さんたちの仇を取るためにあの空中都市に1人で突撃したんだ」


 少女は泣きながら話を続ける。多分、相当辛かったのだろう。少女の面影がネイが死んだ後の僕の面影と似ていた。


「じゃあ、とりあえずその村まで案内してよ。今聞いた限りじゃ村の人たちのお墓も作ってないんでしょ?

 黒い何かを倒すのも手伝うから早くお墓作ってあげよ」


 僕は少女にそう言い、馬車の外にいるエルたちに馬車の中に戻るよう促す。


「ちょっと待ってくださいよ! 私は案内するなんて一言も・・・」

痕跡調査マークスゲンション


 僕は抗議している少女を無視し、前世の僕が使えた異能力で彼女の来た道を探す。

 痕跡調査マークスゲンションは小さな痕跡や目に見えない跡などを見つけることができる異能力だ。


「見つけた。ムイ少し白虎を借りていいかな?」

「いいですよ」


 僕はムイから白虎を借りると、白虎の指示して少女が言っている村に向かうことにした。




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