第85話湖の外では



 フェルトが湖に入ってから数時間後、エルたちは森や空から大量に迫ってくる獣を対処していた。

 襲ってくるどの獣も目が赤く光っていて、エルたちをこの森から排除しようとしているようにも見えた。


「みんな大丈夫か?」


 エルはそれぞれ少し離れたところで獣と対峙しているムイたちに尋ねる。


「私は新しい異能力の練習にもなりますし、強くなって言っているきがするので大丈夫です」


 ムイは白虎、朱雀、玄武、青龍に命令しエルたちとは比べ物にならない量の獣を狩っていた。

 それにもかかわらず、ムイはやけに静かで大人びていた。逆にそれが獣の血が体や服に付着しているからか、エルはムイのことを一瞬だけ怖いと感じた。


「僕はこの鎧があるので傷は追っていませんが、やっぱり鎧が重いのもあり結構体力が減っていきますね」


 ジルはそう言うが、実際は息一つ切らさず獣と対峙している。ジルはキルの異能力で剣を作り、獣を狩り、剣の刀身が綻びてきたら新しい剣を生成し獣をまた狩っていく。


「私も大丈夫です、襲ってくる獣は弱い獣ばかりですし何かあったら霊体化するか岩で壁を作って身を守れますから」


 ハイドはそう言って次々に低級獣を狩っている。上級獣も襲ってきてはいるのだがハイドを襲おうとする中級以上の獣は全部ジルによって進行を止められていた。


「「我らにかかればこれしきのこと疲れにも感じないわ!」」


 ライとスイが二人して自信満々に言うが、動くたびに長い技名などを喋ったりしているので息が上がっていた。


「私は未来を予知しながら動くので、切れ味のいい武器があればそれだけで対処できます。それに、何回も使っているおかげで5秒先の未来まで見えるようになりましたから」


 エトはスズが襲ってきた獣たちの角や牙を異能力で合成して作った刀身が黒で掴も黒色の剣を振るい、獣を狩ながら話す。だが、攻撃系の異能力や身体能力をあげる異能力が使えないためエルたちよりかは狩った獣の数は少ない。


「私は湖の水があるのでなんとかなっています。まぁ、危ないときは無敵の異能力を使えばいいですから、あまり気にしないでください」


 スズはそう言って剣を振ったり、水を固めて獣の心臓を貫いたりしながら獣を狩っていた。


「よし、このままフェルトが戻ってくるまで耐えるぞ」


 エルはムイたちに向かってそう告げると自分の戦いに集中した。





 エルたちの体力は限界・・・完全に限界を超えていた。

 なぜなら、フェルトが湖に入ってからすでに二日がたち休む暇もなく獣たちは襲ってきたからである。

 途中から四人、四人で二つに分かれて片方が休憩して片方が戦闘すると言う千歩を取っていたが、それでも体力は消耗されていく。


「エルさん、あれ見てください」


 ムイが獣の群れの奥の方を指差してエルに言う。

 ムイが指をさした先にいたのはそこそこ広いお城より大きい像によく似た獣だった。

 像に似た獣が動くたびに地響きが起きているため、スズたちもすぐに気づく。


「あの獣って獣の一番上の神級しんきゅうの階級に入る獣ですよね。あれはさすがにみんなで力を合わせないと勝てないと思うんですが」


 ムイはエルに尋ねる。


「そうだな、それに周りの獣たちも全滅させなきゃダメだしな。少し待ってくれ作戦を考える」


 エルは頭の中で数十通りの策を模索する。そして、作戦が決まったのかエルはムイたち全員に作戦内容を伝える。


「まずはスズが神級の獣までの道にいる獣を無敵の異能力で倒せれるだけ倒してくれ。俺たちはスズが作った道を走って神級の獣に近く。さすがに、スズの異能力だけでは神級の獣の足元まで行くことは難しいだろうからジルがスズの援護をして。

 神級の獣の足元まで着いたらライとスイとエトが龍化して俺とムイ、ハイドを神級の獣の頭上まで運んでくれ。

 神級の獣の頭上に着いたら俺が全能力を強化するから、その後に最大出力で神級の獣に向かって異能力を放って。

 作戦の合図は馬車とアクアちゃんの体を獣の攻撃から守るためにみんなで防壁を貼ったら作戦開始だ」


 エルはそう言って神級の獣の方を向く。スズやハイド、ジル、ライが馬車とアクアの体が入った氷の塊を包み込むようにして防壁が貼られ、最後にスイの異能力で馬車とアクアの体が入った氷の塊を防壁ごと隠す。


「いまだ!」


 スズが神級の獣に向かって一直線に無敵を発動させて走る。

 そして、無敵が切れた後にジルが大量の剣を生成し更に神級の獣へと行くための道を切り開く。

 そして、龍人三姉妹が龍化しムイ、エル、ハイドを神級の獣の頭上に運ぶ。

 エルはすぐに自分とムイとハイドに全能力強化を与える。


「朱雀、白虎、玄武、青龍。お願い、力を貸して」


 ムイの言葉に応えるようにそれぞれ4体の神獣たちの力がムイの両手に集まる。そして、両手を神級の獣に向けて、赤、青、緑、白色の波動を放つ。

 ハイドは自身の右腕に岩を纏わせ、巨大な岩の腕を作り神級の獣に向かって右拳を振り下ろす。

 エルは一本の剣を神級の獣に向かって力一杯投げる。


「うガァァウゥッゥ」


 神級の獣は大きな雄叫びをあげて地面に倒れた。中級獣以下は大体、体の大きい神級の獣の体に潰された。


「よし、あとは周りの獣を倒すだけだ!」


 エルはそう言ってさらに気合いを入れる。

 ムイたちもようやく終わりが見えてきたので、疲れてはいるが頑張れないことはなかった為、すぐに獣を狩ろうとする。

 だけど、現実はそううまくいかない。



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