第86話力試し



 エルたちは限界をすでに超えているが獣を狩り続ける。

 だが、人間は脆い。

 もうすでにエルたち全員神級の獣と戦ってから攻撃の鋭さが落ち始めていた。


『ドシン、ドシン、ドシン』


 獣の群れの奥の方で大きな地響きがした。エルたちは同時に目線を獣の群れの奥へと向ける。


 ・・・・・


 そこにいたのは、さっき倒した像に似た神級の獣の大群だった。

 それ以外にも像に似た神級の獣と同じぐらいのサイズの狼や鳥、次第には龍までも大群をなしてエルたちに向かって行く


「なんだよ、あれは。あんな数俺たちだけじゃあどうしようもねぇ」


 エルは神級の獣の大群を見て戦意を喪失させる。エルだけではないジルたちもだ。

 だが、ただ一人、神級の獣に炎の鳥に乗って立ち向かって行く少女がいた。ムイだ。

 ムイは白虎、青龍、玄武、朱雀を連れて神級の獣の大群に突っ込んで行く。それを阻止しようと低級から上級の獣たちがムイを襲う。

 だが、ムイは白虎を体に纏いどんなものでも切り裂いてしまいそうに鋭い白い爪で斬撃を放ち、襲ってくる獣たちを殺していきながら神級の獣の大群にどんどん近づいて行く。


「・・・・・ムイ」


 エルはそんなムイを見て。


『自分より年下の子があんなに頑張っているのに、自分はもう諦めていいのか? それに、フェルトに任されたじゃないか。こんなところで諦めたらダメだな』


 エルはそう思い、ムイの後を追いかけるように剣を右手で握り走る。道中襲ってくる獣は全て斬り伏せながら。


「「ムイに続くぞ!」」


 ライとスイが二人同時にそう言うと、ジルたちも一斉に獣へと向かって行く。

 ムイは後ろでジルたちが戦い始めるのを確認するとさらに加速して神級の獣の大群に向かって行く。


「私は強くなるって誓ったんだ。強くなってみんなを守るって誓ったんだ。だから、こんなところで負けるわけにはいかない!」


 ムイは白虎の他に玄武を纏う。

 ムイの白虎の爪が白く輝き、白虎の爪と同じ色の二刀の刀になる。そして、ムイの体にまとわりつくようにしている1匹の緑色の蛇が現れる。


「玄武、行って」


 ムイがそう言うと、無為にまとわりついていた蛇がムイから離れ近くにいた像に似た神級の獣の足に噛みつき、そして、バキッという轟音を立てて蛇は神級の獣の足の骨を肉ごと噛みちぎったのだ。


「ウガぁぁあぅぅ」


 神級の獣は相当痛かったのか叫びながら地面に倒れる。そして、ムイは二刀の刀で神級の獣を切り裂いた。


「まずは一体・・・」


 ムイはそう呟きながら仲間が一瞬でやられたのか警戒してこちらに進んでこない神級の獣の大群を見る。


「朱雀、纏い」


 ムイの少し上を飛んでいた朱雀がムイに向かって急降下し炎となってムイに当たる。だが、ムイの髪が燃えるわけでも、肌を火傷するわけでもなく、ムイは朱雀の炎を纏う。

 ムイの背中には炎でできた大鳥のような綺麗な翼が生成される。


炎翼槍えんよくそう


 ムイの背中に生成された炎の翼から炎でできた羽が大量に放たれ、神級の獣たちにどんどん刺さって行く。


「玄武も行って」


 ムイを守るようにムイの周りをウロウロしている蛇がムイの言葉とともに神級の獣の大群の中に入って行く。


「グルゥゥゥ」


 ムイは新しい異能力の使い方をしたので体力が極端に減っていた。そのためか、ムイの後ろにいきなり現れた人間を一口で飲み込めそうなぐらい大きい狼が手で吹き飛ばそうとしている事に気づけなかった。


「キャッ!」


 ムイは狼の攻撃を瞬時に防御し、致命傷は避けるがムイはそのまま獣の大群の方へ吹き飛ばされて行く。


「ううぅ」


 ムイは周りを見る。

 ムイの周りにはムイに殺意と敵意を向けている神級の獣たちに囲まれていた。


「グラァァウ」


 ムイの背後から又しても狼が現れ、ムイの背中を切り裂く。


「うぅ、また私の後ろから。・・・もしかして、これがあの狼の異能力?」


 私はそう考えるのに0.3秒使ってしまった。その一瞬の隙を神級の獣たちは見逃さなかった。

 獣たちは連携のとれた攻撃をムイに仕掛ける。


「ガァァァウゥ」

「しまった」


 ムイは反射的に目を瞑ってしまう。そして、ムイに無数の攻撃が・・・当たらなかった。

 なぜなら、ムイの立っている周りの地面から先の尖った氷が地面から突き上げ、獣の攻撃ごと獣を吹き飛ばしたのだ。


「ムイ、大丈夫?」


 ムイの目の前に悪魔の腕のような形をした右腕をしているフェルトがムイの目の前に立っていたのだ。


「フェルトお兄ちゃん?」

「アクアの遺体を守ってくれていてありがとね。あとは僕に任してくれていいから」


 ムイはフェルトの言葉を聞いた直後、安心したのか地面にへたり込む。


「ムイはそこで見ていてよ。さて、新しい異能力を試すには十分な敵かな」


 フェルトはそう言って、右手にヒビが入った刀を持ち、左手には雷を纏う刀を持つ。

 そして、神級の獣を睨みつける。





 僕はまず近くにいた像に似たお城と同じぐらいの大きさがある獣の足を切断する。

 そして、次に雷を纏う刀で獣を刺し、体の中に高圧電流を流し込む。


「がっ」


 獣は動かなくなった。

 僕は標的を次に変えようと、今度は空を飛んでいるさっき倒した像になた獣と同じぐらいの大きさで鋭く尖った爪と嘴を持つ大鳥をみる。

 だが、いきなり後ろから気配が感じられ僕はすぐに振り返り氷で防壁を貼る。


『ガシャーン』


 氷の防壁に当たったのは他の神級の獣と同じ大きさの狼の爪だった。


「へぇ、そういう異能力があるんだ。じゃあ、僕も使わせてもらおうかな」


 僕はまだうまく使えないが、前世の記憶を全て思い出した事によって使えるようになった僕の異能力の本当の使い方、一度見たい能力を使うことができるを発動する。


 僕は狼と同じ異能力で狼の背後を取り、今度はヒビの入った刀で狼の首と胴体を切断する。狼の首と胴体の切断口から氷が生成され、その氷が徐々に伸びていき狼の体全身を包み込み、結晶となってバラバラに崩れ落ちる。


「やっぱり異能力を投影できるのも強さによって難易度が変わるんだな」


 僕は今の感覚を確かめるように、今度は空を飛んでいる大鳥の背後を取る。

 大鳥はさっきの戦いを見ていたからか、僕が刀を突き刺そうとすると体をよじり僕の攻撃をかわす。だが、僕は足の裏に炎の爆発を起こしその威力を使って大鳥に向かっていき雷を纏う刀を頭部に突き刺し高圧電流を流すと、大鳥は地面に急降下する。

 僕はあの狼の異能力で違う獣の背後を取り、その獣を殺してから地面に着地した。

 どうやらこの異能力で落下ダメージも殺せるようだ。


 僕は警戒して攻撃を仕掛けてこない獣たちを笑いながら見る。獣はそれを見た瞬間、一目散に森の方へ逃げて行ってしまった。


「すごい」


 ムイはそんなフェイテを見て改めて格の違いさを思い知らされた。




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