第81話試練4



 俺はフェルトを背にどこまでも続く真っ白な空間を奥に進んで行く。

 なぜなら、次に人生に魂を送る必要があるからだ。そのためには今の魂の入って

 いる肉体からできるだけ術者が離れないといけない。


 普通に時間が経てば魂は勝手に次の肉体に行くが、それだと、生まれ変わるのにかかる時間がかかりすぎるし、こちらから通信することや、力を貸すことなどがしにくくなる。そのために、俺は人為的に転生させる必要があった。この魂がずっと抱えている目的のために。


「おい、待てよ」


 後ろからフェルトの声が聞こえる。それどころか、俺のひたいから冷や汗が流れ出るほどの殺気を感じる。


「フェルトなのか?」


 俺はフェルトを見る。見た目はフェルトそのものだったが、眼球の色が光を一切通さない漆黒の黒になっていた。


「そうだが、と言っても。お前たちが神の決めた運命を壊そうとしているのを知った神に恨みがある大悪魔、今は封印されて魂だけになってるけど、が神に復讐するためにこの肉体に大悪魔の力のほとんどを入れたんだけどな。そして生まれたのが俺だ。要するに俺は大悪魔の分身だな」


 フェルトの体を使った大悪魔の分身がフェルトの体を使ってニヤリと笑う。


「そして、大悪魔の力は生まれ変わるたびに弱くなる。だから、俺はそれを止めるために表に出てきたわけだ。一回、お前とフェルトの通信も切ったことがあるんだけどな」


 俺はフェルトがルトバーと戦っていた時にフェルトとの通信が一時的に切られたことを思い出す。


「あの時のやつはお前か」

「そうだ、それより始めようぜ。お前を倒せばこの体はさらに力を手に入れれるんだろ?」


 フェルトの右腕が黒い影で生成される。だが、その形は悪魔の腕に似ていた。


「まだまだ、行くぜ」


 フェルトの体を使っている大悪魔の力がそう言った直後、フェルトの体が黒い影のマントに覆われる。


「ルトバーとかいう野郎のおかげで、この体もだいぶ力に馴染んできたからな。本来の力のほとんどが使えるはずだからな」


 大悪魔の力はフェルトの口を使って高笑いをする。


「ひとつ聞いていいか?」

「なんだ?」

「お前に操られてる間、フェルトの意識はどうなってるんだ?」

「真っ暗な空間で体が動かずに浮いてるだけ、あと、たまに夢も見るかな」

「ならいい」


 俺は水色の剣を構える。


「お、やっと始める気になったか。じゃあ、早くお前を倒して、神に復讐しに行くとしますか」


 俺は右手で水色の剣を持ち、左手でさっき生成した光る剣を持つ。


「フェルトが正気に戻る時まで、相手してやろう」

「おお、いいのか? お前が先に死んじまうかもしれないぜ」


 大悪魔の力はフェルトの口でニヤリと笑う。


「いい加減にしろよ。俺が鍛えてやってるのはフェルトであって、お前じゃない」


 俺はフェルトを睨む。正確にはフェルトの中にいる大悪魔の力を睨む。


「この体はフェルトのものなんだけどなぁ〜」


 大悪魔の力がフェルトの口を使って喋った一言が勝負の始まりだった。


 この戦闘が始まったと同時に、フェイテに弾き飛ばされた、ヒビの入った刀が青く光ったことには誰も気づかない。





「・・・ここどこだ?」


 僕は辺りを見回す。が、どこを見ても同じ黒色の空間だった。


「さっきまで、真っ白な空間にいたのに、今度は真っ暗な空間かよ」


 僕は真っ暗な空間でそう叫ぶ。そして、なぜここに自分がいるのかを考えることにした。


「僕は今フェイテと戦ってたはずなんだけどな。この空間のどこを見てもフェイテの姿は見えないしな」


 僕が悩んでいると、目の前の空間が歪み、そこから一体の悪魔が出てくる。

 僕はその悪魔を知っていた。


「お前、僕がルトバーに負けかかった時に僕に力が欲しいか訪ねてきた奴だな?」


 僕の問いに悪魔は無言で首を縦に振る。


「お前はなんなんだ?」


 僕は質問を続ける。


「俺は大悪魔。訳あって肉体は封印されて、魂だけの存在になっている」


 大悪魔と名乗る悪魔が枯れた声で言う。


「お前の目的はなんだ? なんのために僕に力を貸した?」


 僕は大悪魔から情報を引き出すために尋ねる。


「俺の目的は、運命を作っている神を殺すこと。運命を作っている神を殺すと言うことは、これから生み出される魂が運命に縛られず、今生きている魂たちも、来世からは運命に縛られなくなる。まぁ、俺は運命を作っている神を殺せればなんでもいいんだがな」


 確かに大悪魔と同じような目的だが、僕はアクアの運命さえ変えれれば神を殺す気などない。

 それに神と戦っても勝てる気がしないから、できれば戦いたくない。

 だから僕は、大悪魔に伝える。


「僕は神を殺す気は無いし、ましてやお前と協力するつもりもない」


 僕がそう言うと、大悪魔は殺気をこちらにはなってきた。


「お前、誰に向かって反抗してるんだ? これは命令であって、お目に拒否権はない」


 大悪魔は僕を睨む。


「僕は悪魔の命令には従わない。でも、ルトバー戦で力を貸してくれたことはありがたく思ってる。だけど、僕は誓ったんだ、アクアだけは絶対に僕が助けると。

 だから、僕はお前の力を今後一切使う気は無い。早く僕の体から出て行け!」


 僕は怒気を込めた声で大悪魔に言い放つ。大悪魔はそれを聞いた直後、こちらにさっきよりも強い殺気を向けてくる。恐怖で体全身が震える。だけど、僕は震える足でなんとか体を支える。


「それがお前の言い分か。俺に従わないのなら、この体を使わせてもらうだけだ」


 大悪魔は黒い球体を僕に向かって放つ。


ナイトメア


 僕の体は大悪魔の放った黒い球体に吸い込まれる。


「お前はそこで一生悪夢を見続けろ。この体は俺が有効に使わせてもらうから安心して悪夢を見続けな。まぁ、夢の中で一生を送りな」


 大悪魔の声がそれ以上聞こえなくなる。

 僕の意識が遠のいていく。


 僕の意識が完全に闇の中へと消える・・・・






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