第82話夢の中
《夢》
僕は誰か聞き覚えのある声に起こされて目を覚ます。
「フェルト、起きてってば。今日はハルトと一緒に山に行って低級獣を倒すんでしょ。早くしないと、待ち合わせの時間に遅刻しちゃうよ」
ネイの声だ。
僕はそのままベッドから起床し、ネイに『起こしてくれてありがとう』と言って、クローゼットの中から服を取り出し、部屋の中に設置された更衣室に入る。
僕はいつもの朝を迎える。
僕はこの時、何かを忘れている気がしたけれど思い出せなかったので無視をすることにした。
「ねぇ、フェルト」
僕が服を着替えていると、ネイが僕に話しかけてくる。
「なんか雰囲気変わった?」
「そうかな?」
ネイにそう言われ、自分でも考えて見る。確かに、テンションが下がったと言うか、冷静になったと言うか。自分でもよくわからないが、あまりはしゃごうと思わなかった。
この歳でそう思うことはあまり良く無いとは思ったけれど、もうめんどくさいので考えるのをやめた。
僕は運動用の服に着替え、更衣室を出る。
僕が更衣室を出ると、ネイが朝食をあまり大きく無いテーブルの上に並べていた。
「フェルトのお母さんから朝食をもらってきたから、一緒にここで食べよ」
ネイに言われ、僕はテーブルの前に座る。
「早く食べないと時間間に合わないよ」
ネイに言われ、僕は食べるスピードを上げる。
それから少しして、朝食を食べ終わり僕とネイはリビングルームに歩いていく。
「「ごちそうさまでした」」
僕とネイは台所にいる僕の育ての母親に食べ終わった後の食器を渡す。
僕の育ての母親は、孤児院から僕を引き取り自分たちの本当の子供のように育ててくれた。身長は女性にしては大きい方で160センチぐらいはあり、黄色い髪と黄色の瞳を持つ、胸が大きい28歳の綺麗な人だった。
母が言うに、学生時代の頃はめちゃくちゃモテたんだとか。……今でもたまに告白してくる人もいるんだとか。
僕は母に学生だった頃の写真を見してもらい、学生の頃と今とで全く姿が変わってないことに驚いき、同時には入ったことが嘘では無いとわかった。
「フェルト、あまり危険なことをしたらダメよ。危なくなったら無理はしないこと。いくらフェルトたちが天才だからと言ってもまだ子供なんだから」
母は僕にそう言う。僕は『わかった』と返事をして、玄関からネイと一緒に外にでる。
「フェルトとネイちゃん。ちょうど今から近くの村まで行くけど、途中まで乗って行くか?」
僕とネイが外に出ると、若く見えるひょろっとした男の人が馬車に乗りながら手を振ってくる。
「あ、父さん。今ちょうど急いでたところだからお願い」
そう、僕の育ての父親だ。父は色々な事業を成功させ、元々は小さい貴族の家を大きくした人だった。父は時々家の周りの貧しい村に食べ物などをおすそ分けしている。今日もどうやら今から行くようだ。
「じゃあ、早く乗りな」
僕はネイの手をとり、馬車の荷台の中に入る。
僕がネイの手を引っ張った時にネイの顔が少し赤くなったのは気のせいだろう。
僕とネイはハルトと待ち合わせをしていた、獣山の麓につく。
「遅い、どれだけ待ってたと思ってるんだ」
ハルトは明らかに苛立っていた。
「ごめんって、でも、異能力の練習するのにこの山はでかいんじゃ無いか? 頂上の方へ行けば行くほど強い獣も出てくるし」
「何言ってんだよ! 強い獣を倒せば、街で獣から取れる素材を売れば小遣いにもできるし、異能力を使えば使うほど威力も上がるんだぜ。こんな一石二鳥の条件に何か不服でもあるのか?」
確かにハルトの言い分は正しいと思った。多分、いつもの僕ならそれに賛同し、今頃ハルトと一緒に山を駆け巡っていただろう。
だが、今はなぜかそう言う気にもなれなかった。
「じゃあ、あまり山を登らないことが条件ね」
僕がハルトに言うと、ハルトは嫌そうにへぇーいっと答えた。
「じゃあ、早速獣を狩ろう!」
ハルトはそう言って、山の頂上へ向かって進んでいく。
「だから山を登るなって!」
僕はネイと一緒に暴走したハルトを追いかけた。
《夢はまだ終わらない》
「・・・・みんなどこ行ったんだろう?」
僕は暴走して山を頂上に向かって突っ走るハルトをネイと追いかけていて、ハルトを探していたらいつの間にかネイともはぐれてしまっていた。
ネイとはぐれたところは、獣山の下の方だからあまり強い獣は出ないとは思うが、心配だった。
「やっぱり、少し下山してみるか」
僕はくるりと体を動かし、方向転換する。そして、山を下山する。
『ガサガサガサ』
何か強い殺気と敵意を感じてすぐに音がした林をみる。
「グルゥゥゥ」
獣がいた。それも、中級の獣だ。だが、少しおかしかった。今僕がいるのは低級の獣しか出ない場所なのだから。
「なんでこんなところに中級の獣が、それに、こいつは中級の獣の中でも上位に入る土竜じゃないか」
僕は近くに落ちていた片手剣ぐらいのほと目の木の棒を手に取り、土竜に向けて構える。
「グラァァァ!」
土竜は僕の敵意に気づいたのか、僕に向かって鼓膜が破れそうになるぐらいの雄叫びをあげて突進してくる。
「
僕は土竜の時間を止め、すぐに走って逃げる。だが。
「キシャァァァ!」
空から僕に向かって飛んできていた飛龍に攻撃され、体のバランスをくづし、地面に倒れ込んでしまう。
「やばい!」
僕は死を悟った。なぜなら、土竜の時間も動き始め、こちらに突進してきているからだ、それに空からは飛龍の攻撃、そして、今の僕には2体の龍の動きを止めることはできないからだ。
「はは、こんなとこで死ぬんだ」
僕が諦めた瞬間。脳裏に知らない画像が浮かぶ。そして、一瞬で違う画像に入れ替わる、それが高速で行われる。
不思議な感じだった。高速で入れ替わってい画像のどれにも見覚えがあった、それに、どの画像にも僕に似た人と女の人が写っていた。
「・・・・・・」
僕の目から涙が流れる。
「これは、あの悪魔が作った偽物の夢か。・・・人の記憶を好き勝手いじりやがって、あの悪魔は絶対に許さねぇ」
僕の脳裏に最後の画像、アクアの一番の笑顔の画像が流れ、僕の目の前に一本の刀が現れる。その刀はヒビの入った僕の、大事な、大事な刀だ。
「お前らになんか負けないんだよ!」
いつの間にか僕の姿も、幼初期の頃から今の姿に変わっている。
僕は刀を振りかぶり、刀を地面に向かって振り下ろす。
『パキパキパキパキ』
あたりの景色が一気に崩壊を始める。もちろん、偽りの夢の中に出てくる龍もだ。ネイとハルトと離れるのは少し抵抗があったけれど、本物のネイの魂の一部は自分の中にあり、ハルトは空から僕を見守っていることを噛み締め、僕はそんな考えを捨てる。
「早く、ここから出ないとな」
僕は夢世界を壊したのはいいけれど、さっき大悪魔と喋っていた空間に出ただけで今大悪魔が自分の体を使って何をしているのかわからなかった。
「パチパチパチ」
どこからか拍手をするような音が聞こえる。
「まさか、あの大悪魔の異能力を破れる人間がいたなんて驚きだなぁ」
僕の目の前に真っ白な髪、真っ白な瞳を持つ白のローブを着た青年が現れる。
その青年は人間のような姿をしている。ただ一点を除けば。なぜなら、青年の背中から大きな天使のような羽が6枚生えているからだ。
「お前は誰だ?」
僕は青年から敵意を感じられなかったため、なんの構えを取らないが一応警戒はする。
「僕? 僕は今君が探している運命を操る神だよ」
僕はそれを聞いた瞬間、あっけにとられ頭が回らなくなる。
「何か僕に頼み事があったんじゃないの?」
僕の頭はその言葉を聞いた直後、動き始めた。
「アクアの運命を変えて欲しい。そのためだったら僕はどんな条件でも飲む」
僕はすぐに地面に手をつけ、土下座をする。
「へぇ、どんな条件でも飲むんだ」
青年・・・運命を操る神はニヤリと笑みを作る。
「じゃあ、これを頼もうかな」
僕のひたいから冷や汗が流れ落ちる。
「大悪魔を助けてやって欲しい」
意外だった。なぜなら、大悪魔を封印したのは運命を操る神本人だと思っていたからだ。それに、神と悪魔は敵対関係にあると神話で読んだことがある。
「大悪魔は敵じゃないのかって聞きたそうな顔をしているね。実のところ、神がたちが本気を出せば悪魔や獣、それどころか全生物を相手にしても傷一つつけることはできないんだ。
それなのになぜ悪魔を生かしているかというと、全悪魔が住む魔界の環境を守るためなんだ。魔界がなくなると、下界は大変なことになるからね、だけど、大悪魔は下界を滅ぼそうとした、だから僕は大悪魔を封印したんだ。
でもね、僕は同時に大悪魔に同情しているんだよ。彼は最初は人間の必要とされたい気持ちと欲望によって作られた悪魔で、最初の方は人の助けになりたいと思って色々な行動をしたんだ。
ところが、人間は悪魔だからといって、気味わるがったり、いじめたり、駆除しようとしたりして、次第に悪魔が持つ人の助けになりたいと思う心がなくなっていった、そしてからは大悪魔を名乗り魔界で悪魔たちを集め下界に進撃しようとしたんだ。要するに、彼が封印されているのは人間のせいでもあるんだ」
僕は勝手に記憶を変えられていた恨みもあったが、今の話を聞いて大悪魔に同情できた。同時にそういう人間に怒りを覚えた。
「どうやら君は種族なんて気にしない人みたいだね。よかったよ、君なら大悪魔を救ってくれそうだ」
「それができれば本当にアクアの運命を変えてくれるんだよな?」
僕は運命を操る神に尋ねる。
「約束しよう」
「わかった、じゃあ、僕を大悪魔の前に飛ばしてくれないか? それぐらいできるでしょ?」
「ばれてたんだ」
運命を操る神はそういって、手に持っていたボールを地面に投げつける。
『パリン』
ボールは割れ、そこから煙が出てくる。僕は目を瞑る。
僕が目を開けると、目の前に大悪魔がいた。
「どうやってここにきた?」
大悪魔は会って早々殺気を放って聞いてくる。
《悪魔の力と天の力》
「運命を操る神が送ってくれた」
僕がそう言うと、大悪魔からさらにピリピリとした殺気が放たれる。
「大悪魔、お前の過去は運命を操る神に聞いた」
大悪魔から放たれる殺気が少しだけ和らぐ。
「それで、お前もあいつらと同じように俺を笑いにきたのか?」
「違う、僕はお前と仲間になりたい」
「は、お前、本当に悪魔と仲間になれると思っているのか?」
「思ってる。じゃなきゃこんな提案なんて出さないよ」
僕は即答する。
「僕はお前を受け入れる。僕だけじゃなくて僕の仲間たちもきっと受け入れてくれるから」
悪魔から殺気が放たれなくなる。
「本当に・・・本当に受け入れてくれるんだな? 違う人間たちみたいに差別したり、気味わるがったりしないんだな?」
大悪魔は今まで放っていた殺気が嘘のように消え、大悪魔の姿が人に似ていく。
「今まで寂しかったんだろ?」
大悪魔は完全に人間と同じ姿になり、首を縦に振る。
「お見事!」
いきなり運命を操る神が出てくる。
「これで、大悪魔も救われ、アクアちゃんの運命も来世から変わります。まぁ、変わったとしてもどうなるかは最初の人生にかかってるんですけどね」
運命を操る神はにこにこと笑いながら大悪魔に近づいていき。
「じゃあ、僕と友達になってください。そして、色々の魔界の話を聞かせてください! あ、その前に封印してすいませんでした。大悪魔君の体は封印がかかってるからどうやっても元に戻ることはないけど。よかったら僕と一緒に天界に聞いてよ!」
なんか色々と忙しい神様だった。大悪魔も運命を操る神の異様なテンションについていけていない様子だった。
「えと、俺はフェルトの目的を達成させるために力を貸そうと思ってるんだけど・・・そのあとじゃダメなのか? てか、俺が天界に行っていいのか?」
「その辺は大丈夫、僕は神の中でも上位に入るから特別な権利を使うから」
僕は権利の悪用っと喋ってしまいそうになるのを必死で止めた。
「でもそうかぁ、フェルト君の目的、まだ全部達成できてなかったんだ。・・・・じゃあ、僕の力も持って行って。それでもフェルト君が倒そうとしている敵は勝てるかどうかわからないけどね」
僕は運命を操る神が喋ったことに疑問を抱く。
「神様が本気を出せば、全生物に勝てるんじゃないの?」
「それはあくまで、常識的な力を持った人たちに限る。でも、確かルトバーだったっけ、ルトバーの異能力は神をも殺す邪神とほぼ同じ異能力。それも、使いやすさで言ったら邪神より使いやすい異能力だ。いくら神とはいえ全異能力で攻撃でもされたら無傷ではいられないだろうな。最悪死だね」
運命を操る神がそう言うと、大悪魔は運命を操る神に尋ねる。
「でも、俺がフェルトの体を操って戦った時は腕を切り落とせたよ」
「多分、遊び半分で戦っていて油断して担だと思う。僕も一部始終を天界から見てたけど、まだまだ本気は出していなかったかな」
僕はルトバーが戦闘中に行った言葉を思い出し、運命を操る神に尋ねる。
「でも、ここからは本気だとか言ってたけど」
「それはなんでかわからないなぁ。でも、ルトバーに勝つためにはフェルト君が強くなる必要があるかな」
「それはわかっている。だから、今こうして試練に挑んで・・・・・・今試練どうなった!?」
僕は大悪魔に尋ねる。
「大丈夫だよ、今はなんとか動きを止めてもらってるから」
大悪魔は人間の姿になったからか表情がわかりやすくなった。
「じゃあ、時間もないからフェルト君の前世を僕と大悪魔君の力の試し打ちにしよう!」
運命を操る神はそう言って僕の左腕に綺麗でなんの汚れもない真っ白な模様になって僕に入っていく。
「じゃあ、俺も」
大悪魔は一点の光をも通さない黒い悪魔のような腕になり、僕の右腕につく。
「じゃあ、大悪魔、僕の意識を戻して」
「任せろ!」
僕の意識は肉体へと戻される。
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