第47話二つ目の山
《十文山》
スズと出会ってから、三日で流氷山を抜けた僕たちは流氷山を少し超えた先にある十文山に向かって馬車を走らせていた。
アクアは相変わらず僕の横に座っている。
「アクア、隣にいるのはいいけど眠たくなったら後ろいけよ、ここで寝たら危ないから」
そう、アクアは僕の隣に座るのはいいけれど、馬車の中で一番風が気持ちいい場所だからか、アクアはいつも寝てしまうのだ。
「フェルトが支えてくれるからいいでしょ」
アクアはそう言って笑う。
「でもな」
僕が喋るのを遮るかのようにアクアは。
「フェルトは私を守ってくれるんでしょ?」
「それとこれとは話が別な気がするが。・・・・・もういいや」
僕がそういうとアクアは蔓延の笑みを浮かべて。
「やったー!」
アクアは嬉しそうに笑う。・・・・・もうこの笑顔のためだったらなんでもいいや。
「そういえば、スズの能力ってなんだ?」
僕はアクアと少し話をしてから、後ろでムイと水で遊んでいるスズに尋ねる。
「見ての通り、水を操る能力ですね。技によっては威力が結構あるので超異能力の部類になると思います」
スズがそういうとジルが。
「今思ったけど、この馬車に乗ってるのって超異能力者だけじゃない?」
ジルは思い出したようにそういう。
「そうだね」
僕はジルが言ったことに返事をする。
「超異能力者は数少ないはずだけど、こんな一箇所にいていいもんなの?」
ジルが訪ねてくる。
「この馬車にいる超異能力者なんてほんのごく一部なんだから問題ないでしょ」
僕が言うとジルは納得したのか『へぇー』とだけ言って自分の荷物をあさりだした。
「そういえばスズちゃんって狼になって十文山通ったんだよね、どんな山だったの?」
アクアがスズに尋ねる。
「私も無我夢中で逃げていたのであまり覚えてないのですが、かなり険しい山だったことは覚えてます」
スズは申し訳なさそうに言う。そして今度はスズが僕たちに質問してきた。
「一つ聞きたいんですけど、アクアさんたちの中に回復の能力を使える人はいるんですか?」
僕はこの時『そういえば説明してなかったな』と思ったが丁度いいタイミングなので話すことにした。
「スズの傷を治したのは僕だよ」
僕がそういうとスズは目を大きく見開く。
「えっ、あなたの異能力は炎と時を操る異能力ではないのですか?」
スズは驚いているのか距離がやや近い。
隣ではアクアがむすっとしてスズを見ているがそのことに僕は気づかない。
「えっと、なんて説明したらいいのかわからないけど。僕は色々な能力を使えるみたいなんだよね」
記憶の図書館のことはアクアたちのも言っていないため伏せることにした。
「そうなんですか。それは自分でも使える能力がわからないということですか?」
スズはまるで、自分の知りたいことをもう少しで知ることができる時の学者のように興味津々に聞いてくる。
「まぁ、そうなるかな」
僕がそう答えるとすぐにスズが。
「じゃあ他には何か使えるんですか?」
やはりそう聞いてきた。
「僕はそれぐらいしかまだ使えないよ」
僕がそういうとスズは、『そうなんですか』とだけ言ってまたムイと遊び始めた。
それから少しして。
「フェルト、前! 前から大量の獣がきてる」
アクアがそう言って前を指差す。そこには、30いや、50体はいるであろう獣の大群が押し寄せていた。
「なにあれ?」
アクアが僕に説明を要求してくるが僕にもわからない。
「わからない、でもこの量は尋常じゃない。ひとまず壁を作ろう。アクアも手伝ってくれ」
「わかった」
僕とアクアは炎と氷の壁を馬車の前に生成する。
「加勢します。土の
後ろからハイドがそう言って炎と氷の壁にさらに土の壁を混ぜる。
「ジル、壁の上に乗って馬車が通る道だけでいいから獣を倒してくれ。ムイも白虎を使って獣を頼む」
僕がそう言って、ジルとムイに頼むと。
「任せて」
ジルが言った。
「任せてください」
ムイが言って二人は炎氷土でできた壁の上に乗ると。
「
「
ムイの髪の色は黒と白色になり、手足からは真っ白なトラの爪が生えていて、ムイの服は黒い模様ができていた。
ジルは腰から剣が大量に出ており、その剣たちが四つの狐の尻尾のような形を作っていた。
「
「
ムイが鉤爪を直線に振り下ろす。それと同時にジルが大きな鋭い一本の剣を振り下ろす。
二つの斬撃波が目の前の獣たちを左右へ吹き飛ばし倒していく。
「よっと。二人は馬車に運んでおくぞ」
エルがそう言って倒れかかった二人の体を持ち上げ馬車に戻ってくる。
馬車の横側を通った獣たちは馬車には目をくれず走って行ってしまった。
「なんだったんだ、今の?」
僕は一人そう呟いた。
日付は変わって次の日。
「おい、なんなんだよこれ」
僕たちは二つ目の山、十文山に越えるために十文山があるはずだった場所にいる。
だが現実は違った、十文山は無くなっていた。・・・正確には、焼け野原になっていた。
「もしかして昨日獣がたくさん向かってきた理由ってこれ?」
アクアが僕に尋ねる。
「多分そうだろうな。いったい誰がこんなこと」
僕は少し考える。
「ここら辺は不用意に人が入れる場所じゃないから、獣討伐体待機場所のリーダー、もしくはキラーズの王かキラーズの一員の仕業だろうね」
エルがこの状況を分析したのかそう言う。
「キラーズは一体何を考えてるんだ」
僕は一人呟く。
「ねぇ、あの黒い生き物なに?」
僕が考えこもうとした時、アクアがそう行って焼け野原の方を指差す。
そこには、黒い人形の何かがこちらに向かってきていた。
「
僕はすぐに敵対意志を感じ、人差し指を黒い何かに向けて、その先端から炎の弾丸を放つ。
炎の弾丸が一瞬で黒い何かに当たる。だが、炎の弾丸は黒い何かに当たった瞬間黒い何かに吸い込まれてしまった。
「な、どうなってんだ」
僕は黒い弾丸を2発、3発と打っていく。だが、結果は最初と同じく吸い込まれていくだけだった。
「フェルトさん、多分打っても無駄です」
スズが僕の肩の手に乗っけてそう行ってくる。
「なんで?」
僕はスズにそう聞くとスズは嫌なことを思い出すように。
「あれは多分、実験の失敗作たちです。失敗作は共通して能力を吸収して自分の力を高めるんです。そして、あたりのものを片っ端から壊していくんです」
僕は実験の失敗作と聞いてスズがなぜ嫌な顔をしたのか察する。
「あれを倒すことはできるのは能力を使わない物理攻撃だけです」
スズがあの黒い何かを倒す方法を教えてくれる。僕は少し考えてから。
「エル、馬車の中に武器ってあった?」
「いや、ないな。武器を作るための素材ならあるんだけどな」
エルは僕の質問に答える。だが、質問の返答はあまりいい返答ではなかった。
「あの、フェルトさん。私に少し任せてくれませんか?」
スズが僕にそう言ってくる。
「何か策があるの? あいつらこっちに走ってきてるからあまり時間ないけど大丈夫?」
僕がスズにそう聞くと。スズは自信満々に。
「大丈夫です。ただ武器を作るために獣の討伐品をくれませんか?」
スズは申し訳なさそうに僕に聞く。
「別にいいよ。それに、今この状況を打破する策はスズしか知らないんだし」
僕がそう言うと、スズは頭を下げる。
「ありがとうございます。アクアさん少し手伝ってくれますか?」
「いいよ」
アクアとスズは馬車から武器の材料を取ってくると何かをやり始める。
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