第27話アクアの願い3



 私は聖霊殿に戻ると、みんなが深刻な顔をして動いていた。


 ムイちゃんは、フェルトに呼びかけている。


 エルは、必死に自分の能力を行使している。


 ジルは、薬の精霊が出している指示通りに動いている。


 ハイドちゃんは、ジルの手伝いをしている。


 ムイちゃんが私を見るなり、泣きながら言った。


「アクアお姉ちゃん、フェルトさんが、ちょっと前からフェルトさんが、息をしていないんです」


 ムイちゃんの言っている意味がわからなかった。


「ムイちゃん。冗談、だよね?」


 ここの空気が、冗談を言えるような空気じゃないことはわかっていた。

 だけど、信じれなかった。いや、信じたくなかった。


 私は、フェルトの口の上に手をかざす。

 ・・・・・・フェルトは、息をしていなかった。


『お主、早く熊の血をよこさんか』


 薬の精霊が、強めに言い放った。

 私は、熊の血を薬の精霊に渡した。


『薬を作るので、ちょっと下がってください』


 そう言って、薬の精霊は血の入った瓶に、ムイたちが集めただろう素材を何らかの方法で小さくして入れていく。


 薬は、たったの10秒でできた。

 でも、息をしていない人には10秒は長かった。

 フェルトの心臓は止まってしまった。

 薬をフェルトの口に入れても、飲み込まずに口から出されるだけだった。


「フェルト、お願い。戻ってきて!」


 私は、泣きながら考える。

 考えて、考えて、考えた。


 私は、薬を口に含み、寝ているフェルトにキスをし喉に流し込む。


『お願いフェルト、戻ってきて』


 私は願う。


 薬を流し終わった後、私は、フェルトの心臓が動き出したのを感じた。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 フェルトの心臓が動いている。


「んん、ここは?僕は何して」


 久々にフェルトの声を聞いた。

 私は、たまらなくなってフェルトに抱きついた。そして、泣いた。

 私は確信した。フェルトは無事なんだと、目を覚ましたんだと。


「フェルト、フェルト」


 私は何度もフェルトの名前を呼ぶ。

 何度も、何度も。

 私の目からは、涙が溢れてくる。多分、私は今、とてもだらしない顔になっているのだろう。

 でも、この気持ちは抑えられない。

 私は、泣きながらフェルトにしがみつく。


「フェルト、良かった、帰ってきてくれて。本当に良かった」


 私はフェルトに感謝の気持ちを伝えた。


「ア、アクア。みんな見てるからそろそろ離れて」


 私は、フェルトの言葉で我に返る。

 私の顔の体温が上がるのを感じた。


「今離れるから」


 私はすぐに離れる。


「いいよ、いいよ。僕たちは、気にしないから」


 エルさんがニコニコしながら言う。


「その、あの、頑張ってください」


 顔を赤くしながらムイが言った。


「参考になりました」


 ジルが頭を下げながら言う。・・・なんの参考!?


「私、初めてその。・・・き、き」

「うゎぁぁぁぁ!」


 私はハイドの口をふさぐ。・・・何を言おうとしてるのこの子。しかも、本人の前で!

 フェルトは知りたそうな顔するし。


「まぁ、この話は置いといて。おかえりフェルト」


 エルがにっこりと微笑みながら言う。


「フェルトさんお帰りなさいです」


 ムイが、微笑みながら言う。・・・まだ、顔は赤い。


「フェルトくんおかえり」


 ジルが微笑む。


「・・・・・・」

「ほら、ハイドちゃんと言って」


 ジルがハイドちゃんの肩に手を置く。


「あの、助けてくれてありがとうございます。後、私を仲間に入れてください」


 ハイドが、頭を下げながら言う。


「いいよ」


 フェルトは優しい口調で言った。


 この後、フェルトはさっきまで眠っていたとは思えないほど外で動いていた。





「はぁー、やっぱり運動の後の温泉は最高だ」


 僕は精霊の神殿の近くに沸いていた温泉に入っていた。


「フェルト、僕も入らせてもらうよ」


 エルがそう言い、温泉に入ってきた。


「僕も一緒にお願いします」


 ジルもそういい温泉に入ってきた。


「・・・・・・ありがとうね、助けてくれて」


 僕は、エルとジルに頭を下げて感謝の言葉を言う。


「別にいいよ。それに、フェルトが死んだら僕の目的も果たせないしね」


 エルが笑いながら言う。


「僕も、フェルトくんに助けられたんでそのお返しということで」


 ジルが言う。


「ありがとう。・・・そういえば、ハイドちゃんが言っていたキの続きってなんなの?」


 僕はエルたちに尋ねる。


「それは、アクアちゃんに直接聞いて」


 エルが気まずそうな顔をする。


「そうですね、アクアちゃんから聞いてください」


 ジルまでも気まずそうな顔をした。


「わかったよ、アクアに直接聞くことにする」


 僕がそう言うと二人はホッとする。


「そういえばフェルト、なんか体の異常とかないのか?」


 エルが聞いてくる。


「体に異常はないが、多分、時間を操る能力が上がってる」


 僕は、第六感が感じたことを二人に話す。


「時間を操る能力が上がるってどう言うこと?」


 エルはさらに聞いてくる。


「わからない、まぁ、そのうちわかるでしょ」


 僕は、今の考えを言う。


「そう、じゃあわかったら教えてくれ」


 エルがそう言って、温泉を出る。

 ・・・エルって温泉にあまり浸からなかったっけ?

 ちょっとしてからジルも温泉を出て行った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る