第23話黒き炎の使い手



 僕とアクアは、研究所の最深部にあった部屋にいる。


「やぁ、初めまして諸君。私の名前は、ガルベルだ。

 ここの研究所のリーダーをやっている。君たちは、愚かにもキラーズにはむかったものとして、ここで、死ななければならない」

「僕たちは、ここでは死なないよ」

「いいえ、ここで仲間割れをしてもらいますから」


 ガルベルが、言った瞬間。氷の塊が飛んできた。


「な、アクア?」

「フェルト、助け、て」

「お、お前アクアに何をした!」

「君の仲間を操っているだけですよ。さぁ、仲間割れをして、面白い場面を見してください」


 アクアの目は、光をなくした、操り人形のようになっていた。


「アクア、聞こえるか?」

「フェ、る、と?」

「そうだ、フェルトだ。絶対に自我は持てよ」

「お、おね、がい。私の、意識が、あるうちに、逃げ、て。」

「そんなことできるわけ」


 氷の塊は、次々に飛んでくる。


「お願い、フェル、ト、逃げ」


 それ以降、アクアは話さなくなった。


「これは、面白いですね。それでは、あなたがここから逃げれば、彼女は、こちらの実験材料として、使わせていただきます」

「僕が、命を絶った場合は?」

「それでは、面白くないので、却下です」


 アクアが生成する、氷の塊が飛んでくる。

 しかも、徐々に生成スピード、飛んでくる速さが、上がっている。


「あ、言い忘れていましたけど、その子を操りながら、その子の生命力も一緒に吸い取っているので、早めにどうにかしないと、その子死んじゃいますよ」


 ガルべルが笑いながら言った。


ファイヤ


 炎が、ガルベルに飛んでいく。

 けれど、アクアが体を盾に、ガルベルを庇おうとしたから、炎を消した。


「どうしたんですか?あの攻撃を当てれば、僕を殺せましたよ」

「アクアを盾にしやがって」

「ああ、それを気にしてたんですか。はぁ、君はもっと自分の目的のためなら手段を選ばない人だと思ってたんですけどね」

「そうだな、少し前の僕だったらそうしていたかも知れない。だけど、アクアたちが僕に仲間の大切さを教えてくれたんだ。だから、僕は、アクアを助ける」

「そういう割には、さっきから、避けてばかりですね」


 僕は、氷を避ける、避ける。


 三十分ぐらいは避けただろうか。


「君、何で攻撃しないの。面白くないじゃん。・・・そうだ、いいこと思いついた」


 ガルベルはそう言うと、指を鳴らした。

 その瞬間、


「フェルト」


 アクアの声が聞こえた。


「フェルト、何で逃げてないの!」

「どうかな、彼女の精神だけを呼び戻してみた。だから、彼女は自分の意思に背きながら、君を殺しに行かなければいけないんだ」


 ガルベルは、笑っていた。


「フェルト、お願いだから逃げて。私の意思じゃあ止められない」

「そんなことできるわけないだろ!」


 僕はすかさず否定する。


「嫌なの、フェルトを殺したくないの」

「俺は、そんな簡単にしにはしないよ」

「そんな事言って、もう、息が上がってきてるじゃん!」


 確かに息が上がってきてはいる。でも、アクアの体力がなくなれば攻撃は止むはず。


「あ、ついでに言っとくと。操られている人は、自分のいつもの体力を無視して動くから、体が壊れるまで動き続けるよ」

「な、なに」

「あはは、もしかして、体力が尽きればとでも思っていた?それだったら、ものすごいおめでたい奴だな君はー」


 ガルベルが言っていることは否定できない。


「フェルト、お願い。逃げて!」


 アクアが泣きながら言ってくる。

 でも、僕はアクアを助けたいんだ。


「それはできない。だって、僕は欲張りな男だからね」


 僕は笑顔で返す。


「僕は、君がなんて言おうと助けるだから、君も僕を信じてほしい」

「でも、どうやって」


 そうだ、今こうして喋っている間でも、アクアの命は削られて言っているんだ。

 そんな時。


『よぉ、』


 頭の中に声が流れてきた。


『今、ここで俺様を使ったらいいんじゃないか』


 声の主は、黒い炎だった。


『まぁ、この後死ぬかもしれがないがな。でも、俺ならあの能力を焼き尽くせるぜ』


 焼き尽くす?何を言っているんだ?


『あの、能力は見えない糸で体を操っているだけだ。だから、その糸を焼けば、あいつの能力は解除される』

「それは、本当なのか?」

『ああ、でも、糸は人間以外の者にしか見えない。お前が、俺を使うのならば、視覚を貸してやる』

「そうか、じゃあ頼む」


 僕は黒い炎に告げる。


「さっきから何を言っているんだ。いい加減くたばれー」


 ガルベルが、そう言い放った瞬間、氷がものすごいスピードで飛んできた。


「フェルト、ごめんね」


 アクアが、自分の頭上にも氷を作っていた。


「な、何で動けている!」

「能力を、自分の頭上に使っただけだから」


 アクアの頭上にある氷がそのまま落下する。


「フェルト、ありがとう。短い間だったけど楽しかったよ」





 僕は、アクアに向かって走る。


『準備は整った、始めるぜ』


 体が、黒い炎に包まれる。


「黒炎よ、氷を焼き尽くせ」


 黒い炎が、アクアの頭上の氷を焼く。

 僕は、アクアの体に触れる。

 見える、さっきまで見えなかった糸が。


「炎よ、糸を焼き尽くせ」


 糸は、焼け消失した。


「アクア、目を開けろ!」

「ん、え、何で、私、助かってる。体の自由になってる」

「アクア、良かった。無事でよかった」

「フェルト・・・ごめん、操られていたとはいえ、フェルトに酷いことばかりしてた」

「別にいいよ、アクアが無事ならね」


 黒い炎が、告げる。


『後残り、五分だ』

「わかった」


 僕は、静かに返事を返す。


「アクア、ちょっと待ってて」


 僕は、アクアにそう言うと、ガルベルの方を振り向く。


「お前は、ここで死ぬ」


 僕は、黒い炎を纏う。




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