第12話
メニュー越しにタジマの様子をうかがう。タジマはどこか緊張した面持ちで、メニューを覗き込んでいた。
(どうしてこうなったんだ。)
タジマの感情なんて無視してさっさと帰ればよかったのか?そもそも図書館で勉強しようなんて考えたことが間違いだったのか?
俺は自らの不運を嘆く。しかしいつまでも過ぎていたことに思考を割いても仕方ない。今はこの時間をどう切り抜けるかが問題だ。俺は不満を飲み干すかのごとく、水を一気にあおると覚悟を決める。さあ、もうどうにでもなれ。
「俺は決まったんだけど、タジマさんはどう?」
「ごめんなさい…まだ。」
「そ、そうなんだ?謝らないで、ゆっくり決めていいよ。」
「スドウさんは…何を食べるんです?」
「え?俺は日替わり定食だけど。」
「私も…それにします。」
「同じでいいの?」
「何を選んだらいいのかわからないので…。」
タジマ気まずそうな表情でそんなこと言う。どれを選んだらいいかわからないとだと。主体性のない奴だ。まあそんなこと俺にはどうでもいいけどな。
俺は店員を呼ぶと二人分の日替わりランチを注文する。
店員が去ると再びタジマと二人っきりになってしまう。共に語ることなどなく静かに見つめあう俺とタジマ。
(気まずい。)
重い沈黙に耐えかねた俺の選択は、またも逃げの一手だった。
「俺飲み物取ってくるよ。何がいい?」
「?」
タジマから離れる口実にセルフサービスのドリンクを取りに行こうとする。タジマの分も取ってくれば一人になれるであろうという俺の企みは、不思議そうな顔するタジマによって阻まれた。
「どうしたのタジマさん?」
「飲み物…。」
「飲み物?」
「自分で取ってくるの?」
タジマの一言に俺は衝撃を覚える。ドリンクバーを知らないだと?もしかしてファミレスになんて来ることがないお嬢様なのか?でも、お嬢様なら金に困って、俺に借金なんてししないよな?いったいどうゆうことだ?
「そ、そうだよ。ドリンクバー。知らない?」
タジマは顔を赤らめ恥ずかしそうにこくんと頷く。
(マジかよ…。)
いまどきどこにでもあるサービスだろ。コイツいったいどんな生活をしてるんだ?俺はタジマの生活スタイルについて疑問を抱くのだった。
「それじゃ…。」
適当に取ってくるよ。そう言おうとした俺の言葉は、上目づかいに、ついて行きたいというタジマの無言だが必死のアピールに行き場を失う。
「いっしょに取りに行こうか…。」
タジマは笑顔になると立ち上げる。こうして俺たちは二人仲良くドリンクを取りに行く羽目になったのだった。
「ここにおいて、飲みたいヤツのボタンを押す。簡単だろ?」
俺はタジマにそう説明し、実演してみせる。グラスにジュースが注がれていく様を、タジマの奴は食い入るように見てきた。
(純粋…なのか?)
俺も面白いもの見るかのように、タジマの様子に窺う。
「やってみな。」
「はい。」
俺が促すとタジマは鼻息荒く返事をし、おっかなびっくりといった手つきでジュースを注ぐ。
(面白い奴だ。)
グラスの中身を見ながら、何度もジュースのボタンを押したり、引っ込めたりするタジマの姿を見て、俺は少しだけ微笑ましい気持ちになるのだった。
「できました。」
「そりゃ、よかった。」
「でも、ほんとにこれタダなんですか?」
「実は、ボタンを押した回数だけ金をとられるんだ。タジマは何度ボタン押したから、結構な金額取られるぞ。」
「そうなんですか!?」
俺のからかいの言葉を本気にしたタジマは驚き青ざめる。素直な奴だな。からかいがある。
「冗談だよ、冗談。料金は日替わりに含まれるから、安心して。」
「からかわないでくさい。」
驚きのあまり大きな声を上げたことに恥じているのか、タジマは目をそらしながら照れたように俺のことを非難してくる。
「ごめん、ごめん。軽い冗談のつもりで、まさか本気にするとは思わなかったんだよ。」
「しりません。」
「そんなに怒らないでよ。タジマさん。」
「怒ってないです。」
恥かしさをごまさすようにプリプリと怒ったタジマは、俺のこと置いてさっさとテーブルに戻ってしまう。
(さて、どうやって機嫌を直してもらおうか?)
そんなこと考えながら俺はタジマの後姿を追いかける。なんだか少しだけ、タジマと一緒にいるのが苦ではなくなっていた。
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