第10話
「それでは、美少女カレンちゃんとぼんくらひねくれ男メノウ君の復縁を祝して乾杯!」
「乾杯!」
「おいなんだよその挨拶は?」
俺の突込みは、二人の能天気な声にかき消され、誰の耳にも届くことなかった。
「ぐびぐび…ぷはー。苦い!もう一杯!」
「ぐびぐび…う…。勢いで飲んだけど。そういえば僕、炭酸苦手なんだよ。」
「聞けよ二人とも…おいヒラガ、なに口を手で押さえてるんだよ?冗談だよな、おい?ま、マジなのか?おい、いいからこっちこい、絶対手で押さえろ!絶対だぞ!!」
「あはは、ヒラガ君たら、もうだらしないんだから。」
「ははは、めんぼくな…うっぷ。」
「おい、止めろカレン。ヒラガを煽るな。もうこいつは限界だ。ヒラガも相手するな!」
「ははは、冗談だよ。冗談。そんなにあわてるなよスドウ…おえぇ。」
「おい、なんか出てるぞ。まじでヤメロ。お願いだヒラガ。トイレに一緒に来てくれ。」
「おいおい、恋人の目の前で男をトイレに誘うとか、マジかよこの男。素敵!抱いて!もうめちゃくちゃにして。」
「うるせえぞカレン。っておい、おまえもう3本もビール開けたのか?飲んでないでこっち手伝え。」
「いやーん3P?私はメノウ君とのダブルプレイしか対応してないのよ。ポッ。」
「好きなだけビール開けていいから、そのふざけた口を今すぐ閉じろ。」
「それじゃ、僕はシングルプレイってところかな?う…」
「ヒラガ…。頼むいまはその芸人根性は引っ込めて、おとなしくしてくれ…。」
カレンとの仲直りしたその当日の夕暮れ。俺のアパートはカレンとそのお供(ヒラガ)の襲撃を受けていた。
なぜ、俺はドアを開き、こいつらを招き入れてしまったのか?10分前の自分にありったけの怨念を送りつけながら、ヒラガの背を摩るのだった。
ヒラガはしばらく青い顔していたが、ひとしきり吐いて落ち着いたのか先ほどの痴態が嘘のように、さわやかな顔になると。しみじみといった風で俺とカレンに話しかけてきた。
「いやー、でもよかったよ。スドウとカレンが仲直りして、二人の知り合いの僕としては気が気でなかったんだぞ?」
「その説はご迷惑おかけしました。お詫びに私とメノウ君のラブラブっぷりを好きなだけ見て、嫉妬に悶え苦しむといいですことよ。」
そう言うとカレンは、俺の腕にしがみつき胸を寄せてくる。
「別にヒラガに心配されることじゃ…って引っ付くなよカレン。」
「やーん照れてる?可愛いんだから。」
「はあ、まったく見せつけてくれるね。」
ヒラガは降参とばかりに手を広げる。カレンはそれを見て楽しそうに笑う。俺も思わずつられ笑みを浮かべていた。それから先はよく覚えていない。それぞれ、好きな酒を片手に思い思いの話を勝手に続けるまとまりのなり時間が過ぎてった。
**********
「やっぱり、喧嘩してたんじゃないか。」
時刻が翌日に変わったころ、ヒラガはポツリのそんなことを言った。カレンの奴は既に酔いつぶれて、俺のベッドに眠りこけていた。
「なんでもないって言ったくせに。」
「そうだったか?」
「そうだよ。」
とぼける俺に、ヒラガはすかさず
「なんで言ってくれなかたんだ、友達だろ?」
「恥ずかしいだろ、友達とは言ってもさ。」
「そういうものか?」
「そういうもんだ。」
「それでも…。」
ヒラガはへらへらしていた表情を引き締めるとこちらに向き直る。
「それでも、相談してほしかったな。」
「…。」
ヒラガの真剣な態度の思わず何も言えなくなる。
「すまん。」
「…。」
しばらくしてようやく出た俺の謝罪にヒラガは何も答えなかった。
「次からはちゃんと相談する。」
気まずい沈黙に耐えかね、俺はそんな白々しい言葉を口にしていた。
「信じるよ、スドウ。」
ヒラガはなにか確かめるように俺の瞳を覗き込むと、静かに頷く。
「なんか変な空気になっちゃったな…。まあ飲みよ。スドウ。」
ヒラガが差し出した酒を受け取ると、俺はそれを一気に煽る。おそらく、守らないであろう約束をした自身の後ろめたさを隠すように。
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