第8話 風とどんぐり<童話系>
小春日和の気持ちのよい昼下がりの事。私は公園の雑木林の中を散歩していた。かさこそと落ち葉を踏んで、時々止まって秋の匂いを嗅いだ。
その途中でどんぐりに会った。低木に引っかかった枯葉の上で、ポツリと一人思案顔。
「こんにちは。良いお天気ですね」
「風さえあればね」
「お困りのご様子ですね? お手伝いしましょうか?」
「う~ん、いや、いい。困っているけど、あなたに解決出来ることではないのですよ」
「それはそれは。何をお困りですか?」
「風が来ないんですよ。約束したのに。僕の新しい家まで連れて行ってくれる約束なんです」
「気まぐれな風のことだから何時来るか分かりませんよ。どうです? 私が連れて行ってあげましょうか?」
「い、いや、風が来た時に僕がいないとがっかりするといけないから遠慮する」
「そうですか。風が来るといいですね。ではさようなら」
翌日も、同じ場所にどんぐりはいた。
「おや、まだおいでですか? 風は来ませんか?」
「そうなんだ。何をしているんだか」
「ここのところ、穏やかな日が続いていますからね」
「この間の風の日に誘われたんですよ。とっても柔らかくてふんわりとした家を見つけたから連れて行ってあげようって。僕の友達をたくさん案内して、みんな大喜びだって」
「そうですか。その場所が分かれば私がお連れするのに」
「僕も知らないんですよ。風しか知らないのですよ。もう少し待ってみます」
「そうですか。ではお気をつけて」
その翌日もどんぐりはいた。
「こんにちは。相変わらず風は来ませんか?」
「さすがの僕も、ちょっと泣きたくなってきたところです」
「この辺りの落ち葉の下にはどんぐりがたくさんいますよ。その辺りでよかったらお連れしますよ」
「でも、僕の友達がいるところかどうかわかりませんよね。僕たちは一旦家を決めると引っ越せないですからね。やはり、風の言った場所に行きたいんですよ」
「長い人生、いや木生ですからね、友達は大切ですね」
「そうなんです。一緒に枝を伸ばしたり、風に揺れたり、どんぐりだった頃の思い出を語ったりしたいですから」
「では、私は今日はこれからお寺参りに行くのです。門のところに風神様がおいでですからお願いしてあげましょう。あなたが風を待っているから来て欲しいと」
「本当ですか? お願いします。是非お願いします」
「それでは、楽しみに待っていてください」
翌日、どんぐりはいなかった。
枯葉が一枚低木に引っかかっているばかり。
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