短い短い お話

akari

第1話 6月のリリコ<童話系>

リリコは6月になるとショートパンツを穿く。

毎年の決まり事。

どんなに暑くても5月には穿かない。

朝早くに軽くなった足で近くの海岸まで散歩する。

海岸には甚兵衛姿のお兄さんがいる。

これも毎年の決まり事。


「おはようございます」

「おはようございます」

「今年も来ましたね」

「はい」


そして、この一年にあったことをお兄さんに報告する。

お兄さんの名前は知らない。

住んでいるところも知らない。

リリコが小学校に入学した年に初めて会った。

6月1日に、この海岸で。


その時、リリコは学校に行きたくない気分だった。

ランドセルを背負って海岸に来た。

岩に腰掛けて海を見ているとお兄さんが話しかけてきた。

「おはようございます。素敵なランドセルですね。一年生ですか?」

「おはようございます。知らない人と話をしてはいけないのです」

「私が恐い人に見えますか?」

「いいえ、でも決まりですから」

「私をあなたのお兄さんだと思ってください。ほら、もう知らない人ではありませんね?」

「う~ん。じゃあ、お兄さんって呼んでいいですか?」

「いいですよ。何でも話してください、お兄さんだから」


それから、学校の話や、友達のことで悩んでいることなどを話した。

全部話すと、なんだか元気が出てきた。

別れる時にお兄さんが言った。

「君はショートパンツが似合うね。とっても元気そうで。

 ぼくは明日から遠くに行かなければならないんだ。

 来年の今日、また帰ってくるから、ここで会えると嬉しいね」

「うん、きっと来る。約束だよ」


それ以来毎年6月1日に海岸に来る。

ショートパンツを履いて。

来年は中学生になる。

リリコは今から悩んでいる。


「来年は中学生、大人だよ。ショートパンツどうしようかな」

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