異世界転生禁止ッ!!~トラック乗りが不本意に異世界転生したからテンプレ全部ブッ飛ばす~

タカナシ

プロローグ

第1話「異世界転生禁止」

 真っ白な空間に男は佇んでいた。


「あ~、こりゃあれだな。異世界転生でお決まりの神との遭遇ってやつだな」


 男は短髪の頭をボリボリッと掻きながら独り言をつぶやく。


 少しすると、その空間の上の方から巨大な光が降りて、うっすらと人型をとる。


佐藤正義さとう せいぎ、15年で幕を閉じたお主の人生には続きがある。お主にはこれから異世界に転生し、我が世界、『マヒア』を救う勇者となってもらう」


「おいおい、俺はただの人間だぜ」


 男はあえて決まりきったセリフを吐き出す。


「案ずることはない。これより我がお主にチート能力を授けよう。お主には最強の身体能力・最強の魔力・最強の頭脳、この中の1つを与えよう」


「なるほど、わかった。でも、その前になんで俺が選ばれたんだ?」


「ふむ、それはお主が心のどこかで異世界転生を望んでいたからじゃ。多くの異世界転生者は成功を収めておる。そして強くなった異世界転生者の思念は様々な世界へ伝播していくのじゃ。そして感度の良い作家という人種がその思念を受け止め物語へと変えていく。お主の世界に異世界転生モノの娯楽が多いのはそういう訳じゃ」


「そうかい。合点がいったぜ。なら俺は最強の身体能力を選ぶぜ。ただ、ちょっと待ってほしい」


「なんだ?」


「これから転生するとはいっても、今の身体でどれくらい動けるか知っているほうが後々スムーズにことが運ぶと思うんだ。だから、その力をここで試させてもらえないか?」


「それくらいならいいだろう。では最強の身体能力をお前に与えよう」


 神が手をかざすと男は眩い光に包まれた。

 光が溶けるように粒子となって散らばると、そこには先ほどまでと特に変わりのない男の姿があった。


「特に変わりはないみたいだけどな。ちょっと試してみるか」


 男は軽くジャンプを試みると、それだけで有に2Mは跳んだ。


「おおっ! すごいな! 良しっ! これでっ!!」


 男はそういうと思いっきり跳躍した。

 全力の跳躍は10Mを越し、神の位置と肉薄した。


「これでテメーをぶん殴れるぞ。ゴラァァァ!!」


 ブンッ! と振りかぶった拳は神を捉え、空中から叩き落とした。


「えっ、ええええええっ!?」


 神は頬を撫でながら、困惑の声を上げた。


「おい、異世界の神よぉ! お前がこうやって何人も異世界転生させるから!


 !!!!!!


 おい、ちゃんと聞いてんのか。黙ってちゃわかんねぇだろうが! こちとら仕事が大変なんだよ!」


「し、仕事? 佐藤正義は高校生のはず……」


 男は神を蹴飛ばしながら答えた。


「俺のどこが高校生に見えるってんだよ」


 男は短髪にジーンズのジャケット中には汚れたタンクトップが見え隠れする。上と合わせた様にズボンは裾がボロボロのジーパンにサンダルという出で立ち、顔も眉間に皺がより、高校生どころかカタギの人間にすら見えない形相だった。


「お、お主はいったい……」


「俺は銀河イスズ、トラック乗りだ!」



 イスズが白い空間に来る前、彼は自前のトラック『ジョニー号』を気分良く運転していた。

 意外かもしれないが、彼は今まで一度も交通違反で捕まったことのない、優良ドライバーであり、この日も信号をきっちりと守り運転していた。

 

 交差点の信号は明らかに青を指し示していた。イスズはさっさと通ろうとアクセルを軽く踏む。


「っ!?」


 しかし、そのとき、一人の学ランを着た高校生が飛び出してきた。

 イスズは咄嗟にハンドルを切り、トラックは横転した。


 イスズの判断の正確さにより、その事故での死亡者はイスズ一人だけだった。

 イスズは横転したトラックの中、薄れゆく意識で、歩行者の信号が青だったことをぼんやりと見ていた。


「ふざけんなよ。クソがっ……」



「お、お主、佐藤正義の代わりに誤ってここへきたというのか……」


 神は驚きの表情を浮かべ、イスズをまじまじと眺める。


「ああ、半分不本意ながらな。まぁ、だがいい機会だ。俺はここで異世界転生への憧れってやつを全部ぶっ壊してやるよ!」


「そ、そんなことをしたらっ!」


「俺の元いた世界のトラックでの事故率が下がるな」


 イスズは神へと顔を近づけると、とても人とは思えない凶悪な顔で、


「さて、まずは手始めにお前だな」


「い、いったい何を」


「これから転生してくるやつにチート能力を与えるのをやめろ。いいな!」


 神はガクガクと頷く。


「それから俺を転生させるな。この身体のまま、『マヒア』っていうテメーの世界に送れ。それから愛車の『ジョニー号』も一緒にだ! いいな。わかったな」


 神がどうしようか決めあぐねていると、ガンッと顔の真横に足が振り下ろされた。


「わかったな?」


「わ、わかりましたっ!」


「良し、それじゃ、行ってくるわ」


「あ、あの~、最後に1つよろしいですか?」


 神はすっかり及び腰になり敬語でイスズへと尋ねる。


「能力を与えるとき、我よりは強くならない最強の身体能力にしているのに、なぜそんなに強く?」


「はぁ!? んな分かりきったこと聞いてんじゃねぇよ。漢が限界超えて強くなるのは気合と根性だろうがっ」


 背中を見せながら銀河イスズは異世界へと降り立った。

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