SALUTE ~日常の愛おしさを思い出すために~

snowdrop

卯月廿五日 木曜日

01『旅の過程にこそ価値がある』

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 ア・ヴ・スウェ、ア・ヴ・ザモール、ジュ・ヴ・ベニーセ。

 三度いわれなければ妖精になるという。であるならば、ヘイフィーバーにかかれば妖精に変身できるじゃないか。

 ……なんて、そんな価値のない世迷い言ばかり並べても、心は気持ちよくなりはしない。形骸化された伝承は記憶に残るアクセサリーに過ぎない。この国では、噂されていると囁くのが記号であるかの如く。

 どうせならなってみたいと呟いて、夕部サクヤはエアポート・リムジンバスの車窓に目を向ける。

 朝日を浴びて輝きだした街が遠ざかっていく。眩しさに鼻がむず痒さを覚えたと思った瞬間、反射的に目を閉じてへくしっとしてしまう。

 サクヤは誰からも、「お大事に」と言ってもらえなかった。


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