それ


 俺は普通だった。

 普通に産まれ

 普通に育ち

 普通に世界の流れについていった。


 俺の世界の普通はそれを殺すことだった。

 それを殺され

 殺したそれを殺して

 殺されたそれのそれがそれを殺して。

 無限に続く円環の理。


 やがてスパイラルは

 海を越えて

 山を越えて

 世界中の世界が殺すことを始めた。


 だから殺した。

 たくさん殺した。

 殺されたくなくて殺した。

 悪意などなく

 善意の欠片もなく

 あるのはただ一つ。

 俺が生きるために殺す。

 

 たくさん殺した。

 産まれた時にはきれいだった

 手は赤く

 いつしか

 赤は黒になった。


 いつしか俺は

 英雄だと言われるようになった。

 神様だと言われるようになった。

 天使だと言われるようになった。

 悪魔だと言われるようになった。


 気が付けば世界には誰もいなかった。

 気が付けば目の前に美しいなにかがいた。


 俺はこれも殺すのだろうか?

 それともこれに殺されるのだろうか?


「俺はどうなるんだい?」

 これは首を振る。

 そして手を伸ばしてきた。

 その手を握った。


 その手は白く

 俺の手は黒く

 気が付いた。


 世界には誰もいないのではない。

 セカイが壊れてしまったのだ。

 俺のセカイが壊れてしまったのだ。

 これのセカイも壊してしまったのだ。


 だから落ちていく。

 これは俺の手を握ったまま

 俺もこれの手を握ったまま。


 そうしていつか。

 彼女は歌っていた。

 彼女は泣いていた。

 彼女は笑顔だった。


 それを聞いた俺は

 その歌声を聞いた俺は

 その歌に込められた彼女の心を知った俺は


 永遠を彼女と生きることを悟った。


 それが俺と彼女に与えられた酬いなのだと。


 いつか

 それが笑いあい

 抱きしめあい

 愛し合う

 世界を見たとき


 俺は初めて涙と血を流した。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Fallin` Angel 璃央奈 瑠璃 @connect121417

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る