Balloon
紅音さくら
1.
返ってきた模試の結果は、またE判定。こんな酷い成績を見るのも何度目だろう――とにかく予備校に行きたくなくて、俺は散歩に行こうと思い立ち机を離れた。一人暮らしの俺がふらふら外出することを咎めるやつなどいない。
現役の時から大して成績も良くないくせに医学部を受験し、案の定失敗して浪人するも、モチベーションが続いたのは最初の半年程度だった。結局親に志望を変えると言い出せず、気づけば浪人生活も三年目だ。最初の年は予備校に行ったものの途中で挫折し、二年目は宅浪で案の定だらけてしまい過去最低点を次々に更新した。今は一年目とは違う予備校に入り、いい加減浪人を終わらせなければと気だけ急いている。
アパートを出てすぐのところで何か色鮮やかなものが落ちていた。しぼんだ風船だ。紐の先に風船と同じ色のカードがついている。
「この風船をひろってくれた人へ この住所にお手紙をください」
あどけない字で綴られたその住所は随分な田舎町で、ここから電車を何本も乗り継いでやっと辿り着くような所だ。カードの端っこには知らない小学校の名前があった。何かの悪戯かと思ったが、書かれた住所にもその周辺にも一切心当たりはない。悪戯される心当たりも勿論ない。小学校の名前で検索すると、一学年に一人か二人しかいなさそうな小さな学校がヒットした。本当に偶然、この小学校から飛ばした風船がアパートの玄関先に落ちてきたということでよさそうだ。
まぁ、勉強の息抜きがてら返事でも書くか……気づけば俺は家に戻り、勉強机に向かっていた。何故か親に持たされたそっけない便箋と封筒が、こんなところで役に立つとは思いもよらなかった。
「初めまして。風船を拾ったのでお手紙を書きました、佐々木悠哉といいます。もしよかったらお返事いただけますか?」
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