箱庭シリーズ(戦の箱)

とりなべ

奴と俺とあの人の箱庭




「喜べスパイ君 国が君に選択肢を与えた」


急に開いた鉄格子。拘束されてからそれほど時間は経っていないと思うが、それでも僅かな光が目にしみた。大袈裟に両手を広げながら入って来たのは、俺に手枷を嵌めた張本人だ。


「本国に返してくれるのか」

「其れは君 虫が良すぎないかね 我が国の機密情報を流しておいてさ」

「プラスお前の拳銃コレクションから兵士数人暗殺しただけだろ」

「おいこら其れ初耳だぞ まあさっさと処刑しろとの お偉いさん方は仰っておりましてね」


眉を下げて哀れみを示すが、口角はいつも以上に上がっていた。後ろに居た兵士を下がらせて、近付き、目線を合わせてにたり笑う。


「この場で処刑されるか 俺に飼い殺されるか選べ」


此処にスパイとして潜り込む日、あの人が送り出してくれた。月に1度連絡を取り合う日は、必ず俺の身体を案じてくれた。これはあの人の為に自ら志願した潜入で、失態すれば切られるとも分かっている。此処に連れられる前に鳥を飛ばしたからもう、彼方の国には連絡出来ているだろう。

けれども今ももがきたいと、思うのは。


「お前は優秀だし 同時に脅威だ しかし答えはまあ 明白 だが」


いきなり口許を掴まれ、顔を持ち上げられた。手枷が擦れる。ちゃちな鎖の音がした。彼は高圧的に再び「選べ」と。このまま縦に頷けば文字通り飼い殺されるだろうし、かと言って横に触れば即座に処刑されるだろう。死ぬ訳にはいかない。


「   」


奴の手が離れたと同時に鉄の味。本当は噛み切りたかったが、やり過ぎてはいけないと我慢。口許を吊り上げて睨らみ付けた。


「ご命令を 我が主」


そう吐き出せば至極満足気に笑い出し、外に待たせてあった兵士に枷を解く様に命じる。奴の血を拭い、立たされて、改めて向かい合った。分かっていた、奴に仕える為には、従順な犬では駄目なのだと。


「お前等 首輪(GPS)付けておけ この狂犬は俺が飼う」


今は耐える。必ず本国へ帰還する為に。

細心の注意を払え、心を殺せ。





死ぬ時は、願わくばあの人の許で。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る