始まりの朝

近里 司

第1話 始まりの朝



「ふわぁ」

 あくびとともに大きく背伸びをする。


 さんさんと降り注ぐ太陽の光。

 外で聞こえる小鳥たちのハミング。

 遠くで聞こえる学校のチャイム。


 うーん、清々しい朝。

 今日も一日頑張れそう!


 ……ん? チャイム?

 慌ててデジタル時計を確認する。


 ――8時16分。


「……やっば!?」


 急いで支度をしなきゃ!

 このままでは反省文はまぬがれない。


「いやっ、今のは予鈴……のはず」


 門が閉まるのは本鈴が鳴ってからだ。

 そして、その本鈴までに、わずかな猶予が残されている。


「閉じる前にすべりこめば……」


 いけるだろうか……

 あまり考えている時間はない。

 寝ぐせを直す時間も惜しいくらいなのだ。

 

「そりゃ頑張るって言ったけどさぁ……」


 目覚めの言葉に後悔しつつ、階段を駆け降りる。


「ちょっと!? アンタ、もう――」


 お母さんの呼びかけを無視して玄関を出る。

 ――もう遅い? 諦めるにはまだ早いよ!!

 出かかった主張を飲み込む。

 今は時間が惜しい。

 そう、これからは時間との勝負なのだ――




 ------------------------------------




「はぁ、はぁ」


 ――く、苦しい。

 

 すでに脇腹が悲鳴を上げている。

 普段、どれだけ運動していないかが分かるものだ。

 

 ただ、もう学校は近い。

 このままいけば間に合うかも……?


 キーン、コーン、カーン、コーン


 直前に抱いた淡い期待を一撃で打ち砕く、なじみ深い音が聞こえた。

 

 お、終わった……

 そう思いながら、角を曲がったところで――


「ッ!」


 門が閉まってない!


 そうだ、ウチの学校は、本鈴が鳴り終わったその直後に門を閉めるんだった!

 

「うりゃりゃりゃりゃ~っ!」


 気合とともに加速する。

 ――まだ間に合う!

 先ほど砕かれたはずの希望が再び満ち溢れてくる。


「ちょっ、ちょっと待ってぇぇぇ!!」


 走りながら叫ぶ。

 門に手をかけていた先生が、こちらを見てギョッとしている。

 叫び声に驚いたことで、門を閉めるスピードが少し落ちた。


 おかげで、わずかな隙間に体を滑り込ませることができた。


「はぁはぁ……ま、間に合ったぁ」


 間に合った……

 途中、何度も挫折しそうになったけど、諦めないでよかったよ……

 これからはダイエットもかねて運動をしよう。

 

「ふぅ、危ないとこだった」


 ひとまず乱れた呼吸を落ち着かせる。


「お、おい……」


 落ち着いたところを見計らったのか、先生が声をかけてくる。


「あ、先生。おはようございます!」

「あぁ、おはよう。いや、挨拶はいいんだが……」

「えっ、遅刻ですか!?」


 精一杯走ったのに、これで遅刻なんて報われないよ……


「閉まる前に入ったじゃないですかぁ!」

「いや、そういうことじゃなくてだな」


 なら、何だろう。

 本鈴までってこと? でも、遅刻とみなされるのは、あくまで門が閉まった後だったと思うけど。


「なら、何ですか? 早くしないとHR始まっちゃいますよ」


「はぁ……」


 あきれたような顔つきでため息をつく。

 しばらくしてから、先生が口を開いた。




「お前、昨日卒業式だったろうが……」

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始まりの朝 近里 司 @chikasato

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