第60話『恋人初夜』

 お風呂から出て寝間着に着替えるとき、沙奈会長から勝負下着という名の黒い下着姿を披露された。それはとても大人っぽく、艶やかに見えた。

 姉さんに一声かけて、僕は沙奈会長と一緒に自分の部屋に戻った。


「お風呂気持ち良かったね、玲人君」

「そうですね。髪を乾かしましょうか。姉さんや琴葉に何度もやったことがあるので任せてください。ここまで長い髪は初めてですけど。それに、髪を洗ったり、背中を流してくれたりしてくれたお礼もしたいですし」

「じゃあ、お願いしようかな」


 沙奈会長からドライヤーとくしを受け取り、彼女の髪を乾かし始める。

 会長の髪、サラサラとしているけど艶やかさもあって。長いのにこの状態を保つためには、色々と気を遣わないといけないだろう。


「ねえ、玲人君。気になっていたんだけど、玲人君の誕生日っていつ? もし、近ければプレゼントを考えたいなって思ってさ」


 住所を知るために見た家庭調査票には、僕を含めて家族全員の誕生日も書いてあったはずだけれど。


「4月4日が誕生日なので、今年はもう過ぎちゃいました」

「4月4日か。年度が始まってすぐなんだね。学年の中では指折りのお兄さんだ。ちなみに、私は10月10日生まれなの」

「僕と半年違いですね」


 如月という苗字なので2月生まれだと勝手に思い込んでいた。それか、沙奈という名前から3月7日生まれとか。


「ということは、今は私と同じ16歳なんだね。ねえ、一回、私のことを呼び捨てしてほしいな。どんな感じなのか体験してみたい」

「えっ? じゃあ、一度だけですよ。……沙奈」


 呼び捨てで会長のことを呼んでみると、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべる。


「キュンとなったよ。……玲人」

「呼び捨ても悪くないですね」


 僕もキュンとなった。普段と違う呼び方だからなのか。それとも、沙奈会長が可愛いからなのか。


「今年の誕生日過ぎちゃったのか。ゴールデンウィークの間に何かあげたいな」

「今はそのお気持ちを受け取っておきます。それに、沙奈会長からは既にたくさんプレゼントをもらっていますよ」


 高校に入学してから色々なことがあったけど、菅原達と決着を付けて平和な高校生活を送ることができそうなのは、沙奈会長が側にいてくれたからだと思っている。きっと、会長が恋人になったことで、これからも楽しい日々を送ることができるだろう。


「私だって、玲人君から色々なものをもらっているよ。だから、玲人君に私の色々な初めてをあげるからね」

「有り難く受け取りますよ。……こんな感じでいいですか?」

「うん、ありがとう。玲人君、上手だね」

「ここまで長い髪は初めてでしたけれど、できて良かったです」


 最初は姉さんにやらされていたことだったけれど、その経験がこうして活かすことができて嬉しい。


「玲人君。お風呂を上がったらやっぱりマッサージだよね。体もそうだけれど、心のマッサージもしてほしいなぁ。玲人君も一緒に気持ち良くなれそうな方法があるんだけれど、それは私も初めてなんだよね……」

「沙奈会長が何をしたいのか、だいたいの予想はつきましたよ。でも、沙奈会長……忘れていません? 僕を盗撮するためのカメラ」

「わ、忘れて……ないよ」


 沙奈会長の視線がちらついている。これは忘れていたな。


「さあ、盗撮カメラを回収してこのテーブルの上に置いてください」

「……はい。全部で3つなんだけど……」


 沙奈会長は盗撮用に使ったカメラを回収していく。3つもあったのか。

 どこに隠していたのか見て見てみると、勉強机とベッドの近く、そして本棚の隅だった。部屋の中を一通り見るのにはいい配置かな。


「これで全部ですか?」

「……はい。盗撮してごめんなさい。カメラの映像はスマートフォンを使って見ていました。玲人君の様子を見ながらニヤニヤしたり、1人で……したり」

「なるほど」


 沙奈会長の娯楽として使われていたのか。今みたいにニヤニヤしながらこの部屋での僕の様子を見ていたのだろう。それにしても、10日くらい設置されていたのに全然気付かなかったな。


「でも、楽しむだけじゃないよ。お姉様以外の女性が玲人君の部屋に入ってきて、玲人君に迫ってきてイチャイチャしてくるかもしれないし。あのときはアリスさんのことも警戒していたから、玲人君が彼女に何かされちゃうんじゃないかって心配だったから」


 なるほど、僕を守るためというのも理由の一つだったのか。

 それでも、盗撮をしたことには変わりない。ここはきちんと叱らなければ。


「いたたっ」


 僕は両手で沙奈会長の頬をつねる。結構柔らかいな。


「いたいよ、れいとくん……」

「盗撮したことのお仕置きですよ。それにしても、つねり心地のいい頬ですね」

「ううっ……」


 僕にとって心地よくても、沙奈会長にこれ以上痛い想いはさせられないな。


「もう、玲人君ったら」

「ごめんなさい、つねってみたらあまりにもいい頬だったので」

「玲人君だからいいけれどさ。でも、ほっぺだけじゃなくて、もっと全身を感じてくれてもいいんだよ? 私は玲人君のことを体でも感じたいな」


 上手に話をそっちの方向に持っていくなぁ、沙奈会長は。ただ、今の状況を考えれば沙奈会長が「マッサージ」をしたくなる気持ちも分かる。


「僕達、恋人同士ですもんね。僕も男ですから、お風呂から出たときに会長が勝負下着姿を見せてくれたときにドキドキしましたし。実際はお風呂に入っているときから、ずっとドキドキしていますけど。……僕にプレゼントしてくれるんですよね。沙奈会長の色々な初めてを」

「……うん、もちろんだよ」


 そう言うと、沙奈会長は僕のことを抱きしめてキスしてくる。温もりに乗せてシャンプーの甘い匂いが香ってくる。


「玲人君と確かな繋がりがほしい。玲人君を感じたい。だから、キスよりも先のこと……しちゃう? 必要なものはちゃんと持ってきたし。今まで一度もしたことないから、上手くできるかどうか分からないけど」

「……そこは試行錯誤しながらやっていきましょうか」

「……うん。じゃあ……しよっか」


 もう、沙奈会長への欲望には敵いそうにないな。ただ、沙奈会長に辛い想いをさせないことだけには気を付けよう。



 僕と沙奈会長はベッドの中でたくさん愛を確かめ合った。

 沙奈会長から感じる温かく、柔らかく、甘い感覚はとても愛おしいもので。数え切れないくらいに好きだと言ってくれた沙奈会長も、同じように感じてくれていると嬉しい。



「しちゃったね、玲人君。しかも、たっぷりと」

「……ええ」

「素敵な時間になったよ」

「僕もです。忘れられない時間になりました」


 気付けば、お風呂から出てからかなりの時間が経っていた。

 ベッドライトに照らされる沙奈会長はとても美しく、可愛らしく、艶やかで。僕のことを見つめながら笑顔になる彼女があまりにも可愛かったので、額にキスをした。


「沙奈会長、体は大丈夫ですか?」

「うん。痛いのは最初だけだったし、心地いい疲れのおかげで、こうして玲人君と寄り添っているのがとても気持ちいいよ。玲人君こそ大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「それなら良かった。玲人君と深い関係を持てて嬉しいよ。たくさん感じて、繋がりを持てたと思う。それに、玲人君のことが大好きな気持ちや、幸せな気持ちに包まれた感じもして」

「僕も同じ気持ちですよ。沙奈会長、ずっと一緒にいましょう」

「……うん。ところで……私、できるだけ大きな声を出さないようにはしたけれど、隣の部屋にいるお姉様に聞かれちゃっているの……かな?」


 恥ずかしいのか、沙奈会長はふとんの中に潜った。あの姉さんのことだから、聞き耳を立てていた可能性は高そうだ。


「聞かれてしまったかもしれませんが、過ぎたことは仕方ありません。それに、姉さんはニヤニヤしながら、自分のことは気にせずに会長とイチャイチャしてって言ったんですよ。こうなったらいっそのこと、堂々としていましょう」

「それなら……いっか。玲人君、頼もしいな」


 すると、首元まで姿を現して沙奈会長ははにかんだ。今の会長も含めて、このベッドの上で可愛らしい沙奈会長の姿をたくさん見たな。


「玲人君、普段は落ち着いてクールなのに、イチャイチャしているときはたまにSになるよね」

「そうでしたか?」

「うん。これが玲人君の本当の姿なのかなって思ったくらいだよ。でも、そのギャップがいいなって思ってる」

「きっと、会長が可愛いからSだと思える態度になったんだと思います」


 そもそも、自分がクールだと思ったこともないし。あと、僕に比べたら、沙奈会長の方がよっぽどSだと思わせる態度や行動を見せている気がするけど。


「……責任取ってよね、玲人君」

「唐突に言ってきますね。もちろん取りますけど」

「嬉しいな。実は、玲人君と最後までしたら絶対に言いたかったんだ」


 あまりにも嬉しいのか、沙奈会長は僕と腕を絡ませてきて、満面の笑みで僕の頬にキスをしてきた。きっと、僕と一緒にやりたいことをたくさん頭の中で思い浮かべているんだろうな。


「玲人君と恋人として付き合えるようになって良かった。恩田さんがあなたに告白してキスをしたとき、玲人君が遠くに行っちゃった気がして。自分の体がボロボロと崩れ落ちていく感覚になって。凄く辛かったんだ」

「会長……」

「でも、私達が恋人同士になったことを笑顔で祝福してくれた恩田さんは今、玲人君と付き合えないことで辛い想いをしているかもしれない。だから、彼女のためにも、これからもずっと一緒に幸せになろうね」

「……もちろんですよ」

「うん。じゃあ、約束のキスしよっか」


 そう言って、沙奈会長は僕のことを抱きしめ、優しくキスをしてきた。これからも色々なことがあると思うけど、いつまでも優しく温かな気持ちを胸に抱いて、沙奈会長と一緒にいたいと強く思う。


「玲人君、汗を結構掻いちゃったから、シャワーを浴びても大丈夫かな?」

「大丈夫だと思います。明日も祝日でお休みですけど、ここまで遅い時間ですから両親もとっくに入浴したと思いますし。僕も浴びようかな」

「じゃあ、一緒にシャワーを浴びて寝よっか」

「ええ、そうしましょう」


 予想通り、家の中は静かになっているので、僕の家族はみんな眠ったようだ。

 その後、沙奈会長と一緒にシャワーを浴びて汗を洗い流した。そのおかげで、ほどよく体が温まった状態になり、気持ち良く眠りに落ちることができたのであった。

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