第57話『生の方が』
夕ご飯のとき、事件の解決と沙奈会長との交際スタートを家族から盛大に祝福された。母さんの炊いた赤飯も、父さんが腕によりをかけて作った鶏の塩鍋も美味しかった。
「たくさん食べちゃった、玲人君」
「沙奈会長は本当に食べるのが好きですよね」
「……美味しいと食べちゃうんだよ」
えへへっ、と沙奈会長ははにかんでいる。ご飯を美味しそうに食べていた彼女はとても可愛くて、そんな彼女を見ていると僕まで幸せな気分になる。
「スキあり」
気付けば、沙奈会長からキスされていた。僕の唇を包み込むようにして。2人きりになった途端、会長はキスの頻度が急激に増える。
「何か、いつもよりも旨みを感じるなぁ」
「鍋のスープの影響じゃないですか。鶏肉の旨みたっぷりでしたから」
「なるほどね。美味しいキスってあるものなんだね」
「食べ物みたいに言われるとほっこりとした気分になりますね」
「ふふっ、確かに」
できれば、この先ずっと沙奈会長と一緒にほっこりと過ごしていきたい。
──コンコン。
ノック音がしたので、僕が扉を開けるとすぐ目の前には姉さんが。
「お風呂に入って大丈夫だってさ」
「そっか、ありがとう。姉さん」
「今夜は付き合い始めてから初めての夜だし、お姉ちゃんのことは気にせずに思いっきり沙奈ちゃんとイチャイチャしていいからね」
僕をからかいたいのか、姉さんはニヤニヤしながらそう言ってくる。部屋に遊びに来ることはなさそうだけど、聞き耳を立てたりして僕らの動向を伺いそうだな。
「はいはい、お気遣いありがとうございます。沙奈会長との夜を思う存分に味わうよ」
「うん、それがいいと思うよ。お風呂から出たらあたしに一声かけてね」
じゃあね、と姉さんは隣にある自分の部屋に入っていった。
「お風呂に入っていいんだね」
「ええ」
「……この前は一緒に入らなかったら、今日は玲人君と入りたいな。髪も体も私が洗ってあげちゃうよ?」
「一緒に入ろうとは思っていますけど、そこまでしてもらうと会長に悪い気がしますね」
「玲人君がそう思う気持ちも分かるけど、これは私のわがままなんだし……玲人君にはもっと甘えてほしいなって。いや、甘えるべきだよ! だって、私の方が年上なんだし!」
沙奈会長は大きな胸を張ってそう言う。
出会った当初から比べたら、だいぶ甘えているような気もするけど、会長にとってはそういう風には受け取られていないのかな。会長がやりたいと言っているのだから、今夜はそのご厚意に甘えるとするか。
「じゃあ、お願いします」
「そうそう。甘えられるときには甘えたほうがいいよ。それに、もっと玲人君に触れていたいし……」
家に来て早々、僕のことを手錠やロープで縛り付けた状態で堪能したくせに。僕に対して深すぎる欲があるのが、彼女らしさの一つと考えておこう。
「了解。玲人君の髪と体を洗ってあげるね」
「お願いします。じゃあ、さっそく入りますか、会長」
「うん、そうだね。楽しみだなぁ」
僕も、楽しみじゃないと言ったら嘘になる。ただ、夜といってもそこまで深い時間ではないので、沙奈会長の姿を見て欲に溺れないように気を付けないと。
着替えなどを持って、僕は沙奈会長と一緒に脱衣室に行く。
「まさか、玲人君と付き合うようになって一緒にお風呂に入れるときが来るなんてね。私は幸せ者だ」
「よっぽど、僕と一緒に入りたかったんですね」
「……うん!」
年上なのに物凄く幼く見えるな。
姉さんと琴葉の影響で、女の子と一緒にお風呂に入ることに慣れているとはいえ、さすがに沙奈会長が相手だと緊張する。姉さんとは違って立派な体だと思うし。
そんなことを考えながら、沙奈会長と背中合わせの状態でシャツを脱いでいるときだった。
「玲人君の体は生で見る方がいいね。お姉様の言う通り、脱ぐとやっぱりいい体をしているんだって分かるよ」
「……何だか気になる言い方ですね。生で見る方がいいって。まるで、これまで生じゃない方法で何度も見てきているように聞こえますが……」
「え、ええと……」
振り返ると、水色の下着姿の沙奈会長が視線をちらつかせている。この様子だと、僕に何か隠し事をしていそうだな。
「沙奈会長。正直に訊きます。僕に何か隠し事がありますね?」
「べ、別にないよぉ? あぁ、いい体だね! 惚れ惚れしちゃうなぁ。舐め回したいなぁ」
沙奈会長は僕の体を触ってくる。
「沙奈会長。何もないなら僕の目をしっかりと見て、可愛らしい笑顔で言ってください」
僕がそう注意すると、沙奈会長は僕のことをチラチラと見ながら作り笑顔で、
「……何もない、よ」
小さな声でそう言った。これは絶対に何かあるな。
僕は沙奈会長のことを壁まで追い詰めて、
「たぶん、怒ると思いますけど……正直に話してください」
「う、ううっ……」
「正直に話してくれたら、何かご褒美をあげようと思っていたんですけどね」
「玲人君の部屋に小型カメラを仕込んでいます! そのカメラの映像をたまにスマートフォンで見ていました!」
ご褒美として口づけをしてもらおうとしているのか沙奈会長は目を瞑る。ご褒美の力って凄いんだな。
なるほど、僕の部屋に小型カメラを仕込んで、スマートフォンで部屋での僕の様子を見ていたのか。だから、服を脱いでいる僕の状態を知っていたと。
「いたっ!」
沙奈会長の頭に軽くチョップ。
「ううっ、ご褒美ってこれなの……?」
「そうですよ」
「これじゃ罰だよ……」
「後でちゃんと盗撮用のカメラを外してくださいね。僕が立ち会いますので」
「……分かった」
カメラのことがバレてしまい叱られてしまったことがショックだったのか、沙奈会長はしょんぼりとしている。
それにしても、今までカメラがあるなんて全然気付かなかった。1カ所だけなのか。それとも、複数仕掛けられているのか。いずれにせよ、沙奈会長も僕の知らないところでよくもやってくれたな。色々な意味で底知れぬ女性である。
「でも、きちんと話してくれて良かったですよ。それに、これからはそんな隠しカメラは必要ないでしょう? 僕の体は生で見る方がいいんですよね?」
「上半身裸の玲人君に壁ドンされながらそう訊かれたら、映像で見なくていいと思うよ。生の方が断然いい」
沙奈会長はうっとりとしながらそう言うけど、今の言葉を誰かに聞かれたら絶対に誤解されると思う。
「そう思っているなら、後でしっかりと隠しカメラを回収しましょうね。それでも、まだ盗撮し続けるなら、今後のことを考え直す必要がありそうです」
「ううっ、反省していますし、絶対に全てのカメラを回収するのでご勘弁を……」
沙奈会長は悲しそうな表情をして、段々と目が潤んできている。キツく叱りすぎてしまっただろうか。
「絶対にですよ」
「……うん」
沙奈会長が頷いたところで僕の方からキスをする。
「今のは約束のキスですからね」
「……分かった」
僕は会長の頭を優しく撫でる。
何だか、小さな子を叱っているような感じだったな。会長の行動には頭を抱えるときもあるけれど、叱ってちゃんと直るならいいのかな。それだと甘いのかな。それはこれから沙奈会長と付き合っていく中で考えていけばいいか。
「……あっ、そうだ」
「どうしたの、玲人君」
「こうして沙奈会長の下着姿をしっかりと見るのは初めてですけど……似合っていますね。綺麗ですよ」
高校2年生とは思えないくらいに大人っぽくて。この前、姉さんと一緒にお風呂に入ったときに姉さんの下着姿を見たけれど、姉さんよりも年上に思える。
「……ありがとね、玲人君。凄く嬉しいよ。ちなみに、替えの下着は勝負下着だから、今の下着姿よりもいいと思ってくれると嬉しいな」
「そ、そうですか。楽しみにしていますね」
勝負下着を着るって事前に言う必要はあるのかな。でも、沙奈会長がそれだけ僕を意識していることは分かった。
それから程なくして、僕は沙奈会長と一緒に浴室に入るのであった。
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