第4話浅草濁点倶楽部
次の金曜日の夜、俺は老婆に言われた浅草濁点倶楽部の事務所にいた。
平日の昼休みにあらかじめアポイントを取っていたおかけで、すんなりと面会する事が出来た。
事務所には俺を含めて3人の男がいるのみで、
1人は辛子色のジャケットを羽織った七三分けの中年男性で、もう1人は特に特徴の無い学生だった。
「粗茶ですが」と、学生が出してくれたお茶がジャスミン茶だった為で、ここが浅草濁点倶楽部の事務所という事が裏付けられた。
挨拶もそこそこに魔法少女になりたい旨を伝えると、彼らはゆっくりと「まほうしょうじょ」と復唱した。
そして嚥下するようにそれを確かめると、急に笑顔になった。
「素晴らしいじゃないか」と中年男性の方が立ち上がり拍手をした。
学生も釣られて拍手した。
俺が驚いていると、中年男性が再び腰掛けて浅草濁点倶楽部という団体について語り始めた。
「我々、浅草濁点倶楽部は濁点がつく物をこの上なく愛する団体でね。主な活動として
は、ビリヤード、ダーツ、ボルダリング、ゴルフ等々、とにかく濁点がつく事をしているんだ。勿論好きな漫画はボボボーボ・ボーボボだ」
中年男性の方からボーボボが出るとは思ってもいなかった俺が呆気に取られていると、学生がすかさず本棚からボーボボを持ってきた。
鼻毛のくせに思いの外懐かしかった事が少し悔しい。
「そうですね。ボーボボを全巻購入したら、魔法少女になる為のマジカルロッドを差し上げましょう。」
「マジカルステッキじゃないんですか?」
俺が尋ねると学生が割り込んできた。
「ロッドの方が濁点が多いだろう」
学生は少しムッとしていた。
中年男性はまぁまぁと言いながら、ボーボボ全巻28巻を袋に詰め始めていた。
俺はまだ返事してないのに、と思いながらもお金を払いボーボボとマジカルロッドを手に入れた。
「ありがとうございます。これでまた1つ魔法少女に近づけました」
「いやいや、実を言うとたまに魔法少女志望の人が来るんだよ。君みたいな男性が来るのは初めてだけどね」
他に魔法少女になろうとした人がいたとは…。
「志村さん(中年男性)、今度この方にもうちの活動に参加してもらってはどうですか?」
学生が思いついた様に提案したが、今さら志村さんと判明した中年男性も満更ではないようで、いいですねと頷いていた。
俺は慌てて断った。
こんなマイペースな連中に付き合ってはいられない。
それに俺はまだこの団体を信用した訳ではないのだ。
「お誘いありがとうございます。でも早く魔法少女になりたいですし、なってからも沢山修練を積んでいつかはマジカルプリンセスになりたいのです。だから…」
俺が皆まで言う前に、ドン!という音で言葉は遮られた。
それはどうやら志村さんが机を蹴り飛ばした音だった。
「プリ…プリンセスだぁ!?」
志村さんの怒号が飛び、学生が咄嗟に静止した。
「我々、浅草濁点倶楽部にとって半濁点は禁句中の禁句なんです!」
静止する学生をずるずると引きずりながら、志村さんが向かってくるものだから、俺は慌てて事務所を出た。
家に着いた途端妙な疲れが襲った為、マジカルロッドを試してみるのは明日に回し、俺はボーボボを読む事にした。
ボーボボはとても面白かった。
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