サバイバルインザフォレスト!
南の森の道なき道を歩くことどれくらいだろうか、とにかくずっと歩いていた。
飯などはほとんどなかったので、その間自給自足の生活が続いており、リリィちゃんの毒に対しての知識が異常に役に立った。
「その木の実は生だと毒があるので食べられませんが、その毒が熱に弱いので熱すれば食べられますよ。
また見た目の燃えるような赤色からは想像できない甘さが特徴ですので、お菓子にもなります」
「じゃぁリリィちゃん、この随分とかさの大きなキノコは食べられるのかい?」
「あ、それは近づくのもお勧めしません、触る前でよかったです。
基本的にキノコ等の菌類は菌をばらまいています。胞子をばらまいていると言えば伝わり易いでしょうか。
胞子や菌は空気中に散布するものなのは知っての通りですが、それが身体に無害で無いという可能性の方が高いのですよ。
ですので、キノコには触らない、近づかないが基本ですよ。
また、知っているキノコだから大丈夫だと思っても、こんな山奥です、酷似しているキノコなんかも多いですので、一度必ず私に確認を頼んでくださいね」
なんとも力強いリリィちゃんの言葉に感心する。
なんだかいつもよりリリィちゃんも大きく見える。
ん、なんだか皆も大きく見えるな、どういう事だ。いや、確かにリリィちゃん以外は俺より背が高いんだけど、なんだこの違和感は……
「あ!! アーリンさん、足元にあるキノコは、ちっちゃくなるダケじゃないですか!!」
「えー!! ちっちゃくなるよだけだって!?
てか声高っ」
何という事だ、ちっちゃくなる毒キノコとは、なんて典型的な毒キノコの餌食になってしまったんだ。
「しかもまずいですね、まさか空気感染でちっちゃくなる程強力な毒性が有るのは私も始めてみました。
文献では見たことあるのですが、これはキングちっちゃくなるダケです!!」
「なんかキングという冠にふさわしくない名前だね」
「ぶふっ、アーリン、本当に小っちゃいね、俺の肩に乗るレベルだよ」
「おい! 笑うな、クルアてめぇ!!
あぁ、肩に乗せるな!」
「クルアが楽しそうで、何よりだね」
「おい、コールそんなのんきな事言ってないで、ちょっとは助けてくれよ!!
今の俺じゃこの高さは、教会の十字架の上並には高く感じる!! 実際その場所に行ったことはないけど!!」
まずい、クルアとコール相手でもこの有様だ、現在今日野営する予定の場所で見張りをしているサラに見つられたら自分の存在意義を見直したくなるほどには虐められるだろう……
「リリィちゃん、元に戻る方法は無いの!?」
「それは普通ですと、おっきくなるダケを摂取して効果を相殺するのですが……
今回は、キングちっちゃくなるダケの影響ですので、エンペラーおっきくなるダケを発見しない限り、戻らないと予想できます」
「嘘だろ……キングちっちゃくなるダケが珍しいのなら、エンペラーおっきくなるダケも珍しいんじゃ……?」
「その通りです。正直簡単に見つかるものではないですし、
正直私でも、エンペラーかそうでないかは見分けがつかないのです、ですのでおっきくなるダケを発見次第それに近づくしかありません」
「野営地へ戻るまでに見つかると良いね!」
「コール何故他人事なんだ、コールも探すんだぞ!」
「それじゃぁ今日のご飯が無くなっちゃうでしょ。
とりあえず僕は一人でもお肉でも採りに行くよ」
「う、確かに……じゃぁコール、今日のご飯は全てコールにかかっている事をゆめゆめ忘れるなよ!」
「んじゃ、行ってくるね。戻ってきても小さいままである事を期待してるよ」
「そんな事期待するな!!」
そう言ってコールは森の中を飄々と駆け抜けていった。
クルアを取り戻して早々こんな羽目にあうなんてかなりついていないと言っていいだろう。
「大丈夫だよ、アーリン、小っちゃいアーリン可愛いよ!!」
何故かクルアのテンションが上がっていて少し引いた。
「とりあえず、おっきくなるダケを探さないといけない訳だけど、おっきくなるダケの特徴とかは無いのか?」
「良い質問ですね、アーリン君」
いや、誰、これツッコむべきなのかな。
「あ!! すみません、なんというか良い質問が来たのでつい口調が……」
「可愛いから無罪!!」
そもそもリリィちゃんに罪など一つもないがついそう口走ってしまう。
そしてリリィちゃんは咳払いをして気を取り直してから言葉を続けた。
「えっとですね、おっきくなるダケはちっちゃくなるダケの生えている場所から半径五メートルの円周上のどこかによく群生しています。
逆にちっちゃくなるダケもおっきくなるダケの半径五メートルの円周上の何処かに群生しています。
時にちっちゃくなるダケとおっきくなるダケの芸術的な円周群生地帯があったりするのですよ。
何が芸術的かと言われるとですね、円状に群生した二種類のキノコが幾重もの円を描くのですが、その円と円が重なる部分はどちらのキノコも生えないのが素敵なのです!!」
「あーうん……」
「あ、すみません、つい熱くなってしまいました」
「うーん、可愛いからおっけーだね」
「お、よくわかっているな流石クルアだ」
「可愛いは正義……」
「そう言って下さるのは素直に嬉しいのですが、少し恥ずかしいです。
と、とにかく、このキングちっちゃくなるダケから半径五メートル離れて、ぐるっと囲むように歩いてみるのが一番手っ取り早いです」
「難しいかもと思っていたが、割とすぐにみつかりそうで何よりだ……」
「人生ってそう上手くいかないよね」
「深そうに浅い事言うなよ……」
そして、キングちっちゃくなるダケを中心に半径五メートルの地点をぐるっと回ってみたのだが、クルアのいらない予言通りおっきくなるダケすら見つからなかった。
「ありませんね……やっぱりキングと冠するだけあって普通の種類とは違うのでしょうか、完全に私の知識不足ですね……」
「大丈夫そんな事ないよ、リリィちゃんを頼りすぎている俺たちからのプレッシャーでそう思ってしまうかもしれないけど、今でも十分に役に立っているから、知識が不足しているなんてことは無いと思うよ。
そしてお兄さんが良い事を教えてあげよう、本当に大切なのは知識ではなく、知識を使う事でもないんだ、知識を練る事が大切なんだよ」
「知識を、練るですか」
「そう、知識と知識を繋ぎ合わせて、練って練って練りまくるんだ、するとあら不思議絶対の確証はない物の、十人いたら七人程度は納得しそうな理論がでてきたよってな感じで、まぁやってごらん。
例えば、今リリィちゃんが言った知識と、キングちっちゃくなるダケの知識、それからエンペラーおっきくなるダケの知識を練るのもいいかもね」
「クルア……お前まともな事言えたんだな……」
「割とひどい事言うよね、まぁ仕方ないか」
舌をペロリと出しながらそう言うクルアの姿から、ついこの前まで死刑囚だったなんて予想もつかない。
実はそこまで心配しなくてもこいつ一人で死刑を回避できたのではと疑問を持つ程だ。
ついでに今リリィちゃんはクルアのアドバイスを受け、頭をぐぅ~っと捻らせているが、これは比喩では無く、実際に両手で頭をもってぐ~っとずらしている。
痛くないのか心配だ。
リリィちゃんに頼るしかないのは申し訳ないが、リリィちゃん以外にエンペラーおっきくなるダケの発見方法を思いつく人間はいない。
この森の中をただ闇雲に探すのは無謀である。それに夜から朝まで寝ても体力が万全と言えるまで回復しない野営では体力の浪費をどうにかして避けたいのだ。
なんとかして、リリィちゃんの助けになるようなことができないものかと思っていた俺に、さっきリリィちゃんが言っていたことを思い出した。
「あ、そうだ、クルア少し火を付けれないか?」
「火? 別にいいけど、どうして?」
「あの、さっき採った赤い実があるだろ、それを焼くんだ。
甘いものは思考力と集中力を促進させるからな、糖質不足だと尚更なんだ。
脳内の色んな伝達機能が低下するんだよ。現在の俺たちが糖質不足なのは確定的に明らかだろ、だから糖分を摂取するんだよ。
まぁ、この赤い実を熱して出る甘味が糖質によるものかは知らないけど、それでも良いだろ。
リリィちゃんが甘いんですよと言っていた時の目が、私これ好きなんです言っていたしな」
「よしじゃ、やるよ。んーそうだな、火をどうやって起こそうか。
あー魔撃でも久々に使うか」
「魔撃ってなんだ」
「なんていえばいいかな、そっちで言う精霊感知みたいなものだよ、まぁ原理が全然違うから説明は難しいんだけど。
とりあえず、不思議な現象を自発的に引き起こせるのは一緒なんだよ。
しかも魔撃は免許がないと使えない上に、技術の発達で現在ではかなり廃れてきているから知らなくても良いような事でもあるね。
ただ、日常生活には便利なんだよ、昔は戦争に使われていたけどね」
そう言うと、クルアは右の拳に力を入れながら、自分自身の胸の前に持ってきた。丸めた右の拳を親指が上になるように立たせ、その次に左の手を大きく広げてその下に添えたと思ったら、なるほどの動作をした。
すると、ポンっという音と共に、左の掌の上に火が付いていた。
「一体、どうなっているんだ……」
「なかなか面白いでしょ、ただ、この状態だとこの炎は熱くないんだよ、枯れ葉を少し集めて……よいしょ」
枯れ葉の中に火を放り投げるとあら不思議、確かに火がすぐ近くにあると実感できる熱気が伝わってきた。
「ますますどういうことなんだ」
「まぁ原理は置いておいてさ、それ焼くんでしょ?」
「あぁそうだった。
リリィちゃん、いったん考える止めて、今からこれを焼くから、それ食べてから考えよう、それくらいの時間はある」
「あ、良いんですか、ていうかいつの間に火が!」
クルアの一連の動作に気づかないほど考えていたのだろう。なんて健気な子なんだ、よしよししたくなる。
……ちっちゃすぎて無理だった。
「本当に甘くて美味しいので、ここでこっそり三つ焼いてしまいましょうか、この実ならすぐに採りに行けるので別にいいでしょう、皆さんで食べましょう!」
「まぁリリィちゃんがそこまで言うなら食べるしかないな」
「アーリンってリリィちゃんに弱いね」
「この前コールにも言われたよ、クルアとコールって本当に似ているんだな」
「それはね、まぁ仕方ないよね、血も繋がっていないし、法的にも無関係だけどコールは本当に俺の弟みたいな感じだもん、今では背こそあっちの方が高いけど、それでも弟と感じるのは変わらないよ、向こうも向こうで昔と変わらず構ってちゃんだしね」
「何もかもクルア譲りか……」
本当に驚く程クルアとコールは中身が似ているのである、それ程コールの過去が無であったのだろうか、そう考えるとぞっとする。
クルアと話している内に、砂糖を焼いたような甘い香りが漂ってきた。
「皆さん、そろそろですよ!」
「うわ!! 美味しそう!!」
「それにしても、予想以上に甘そうだな、香りがすでに甘い」
「山で糖分に困ったらまずこれを探すべきなんですよ、赤くて目立つのも素晴らしいですよね、まさに山のオアシスといった感じです、喉は乾くのですけど……
少し焦がすくらいが美味しいので本当にあと少し待って下さいね」
「でも実際、味があって美味しいと感じるものを摂取するって大切だよね、生きた心地がしないもんね」
確かにそうだ、俺は捕まった時の事を思い出してそう思った。
「んふふ、では頂きましょう!!」
元気いっぱいに赤い実を口に運ぶリリィちゃん、それに続いて俺も食べる。
「美味しい……」
感想。非常に美味でした。
というのは、冗談で、いや美味しいのは冗談ではないが、ちゃんと解説する。
赤い実を齧った瞬間トロリととろけながら出てくる蜜が芳醇な香りと共に甘さの暴力を振るって来るのだが、ここで少し焦がした意味が出てくるのだ、外側の焦げがこの甘さを緩和してバランスを取ってくる。
このままでも少し甘すぎるのだが、皮をかんでいく内に苦みが湧いてくるのだ。苦みを感じた瞬間は甘いお菓子の後に、お茶を飲んでいるような感じがするが、苦みを感じて少し経つと、まだ口内に残る甘い蜜と味が絶妙に混ざりあって、まさに美味しい味というものを再現する。一度ここまでくると後はずっとひたすら美味しい。
一つの木の実で、ここまで複雑な味をものの見事に操るのは称賛以外無い。
「うわぁ、ここまで美味しいとは思いもしなかったよ。
これはちょっと、止まらなくなるね……あ、喉は乾くけど」
そう、ただ一つ、欠点があるとすれば喉が渇く……
しかしリリィちゃんはろ過の方法にもやたら詳しくて、水も驚く程用意できたので、喉が渇いても大丈夫なのは有難い。
それにしても何故リリィちゃんはここまでサバイブの為の知識に明るいのか疑問でしかない。
聞いてみたいけど、そこには想像よりも重い話が待ち受けていそうで簡単には踏み込めないのだ。
この前も実感したがリリィちゃんも女性の冒険者なのである。
「うーん、甘くて美味しいです!」
ただ、リリィちゃんのこの幸せそうな笑顔を見ているとこっちまで幸せな気分になる。今はそれだけで十分で、リリィちゃんの過去なんて本人が知ってほしいと思わない限り、俺は知らなくても良い。勿論俺だけではない、万人が知らなくていいのである。
……掘り返し、笑いものにしたり、蔑んだりなどはあってはならないのだ……
「あっ!! そうだこれは割とありかもしれません!!」
「何か思いついたのか?」
「はい、ちっちゃくなるダケとおっきくなるダケは非常にメジャーな毒キノコなんですけど、キングちっちゃくなるダケとエンペラーおっきくなるダケは私が言った通り文献でしか知らない程には珍しいのですよ、最早幻です。
実は培地と共に瓶詰してしまいました」
「……いつの間にそんな事やったんだ? てか、なんでちっさくなっていないんだ?」
「自分で言うのもなんですけど私は毒のスペシャリストです。対策の講じ方くらいはわかります」
「あ、そうなんだ、まぁ持つのは良いけど、くれぐれも開け放たないでね……」
「はい、厳重に保管するので安心してくださいね!!」
コールとはベクトルの違う殺人スマイルが今日は炸裂していて、俺のライフはもうゼロに近い。
「あ、すみません、話が逸れました。
それでですね、幻なんで、普通の探し方しても見つからないのは当然でした……かと言って闇雲に探す訳ではないので安心してください」
「じゃぁ具体的にはどうするんだ?」
「キングちっちゃくなるダケの毒が大体キングちっちゃくなるダケを中心に半径二メートルに効果が有るという事がさっき頑張って調べて分かったのですけど。その外周から五メートル離れた付近にあると予想しました。
しかし、エンペラーおっきくなるダケもおよそ同範囲の効力があると推定するとそこからまたさらに二メートル離れた場所に生る可能性に直面しました」
「なるほど、結局キングちっちゃくなるダケを中心とした、半径九メートルの円周上にエンペラーおっきくなるダケは生えている可能性が高いのか」
「そうですね、多分そうだと思います。それより内側にはこれは勘ですが無いと思われます。外側を意識してぐるりと回ってみましょう」
有るか無いかはおいといて、有りそうならば探すしかない。俺はアーリンの肩に乗ったまま必死になって探した。
半周くらい歩いただろうか、そこになんと、一本だけそれはそれは立派なキノコが生えていた。
「リリィちゃん……これは」
「えぇ、おっきくなるダケに酷似しています、それに一本だけ生えているのがキングちっちゃくなるダケと同じで、唯一の上位種かすでないかの見分け方だと思います。
とにかく可能性が高いと思います、是非近づいてください、もし違うかった時の保険として絶対に一メートル以上近づかないでくださいね」
そう言われ、俺は慎重にキノコに近づいた、すると見る見るうちに体が大きくなり、すぐに元の大きさに戻ることができた。
「おぉ!! 戻ったー!!」
「「ちっちゃいアーリン(さん)も可愛かった(のですけど)」」
「そこ、はもるんじゃない、小さいと移動が大変なんだぞ!」
とりあえず、サラの下に戻る前に元に戻って良かった、本当に良かった。泣きそうだ。
「おーい、アーリンちゃんはどう? ってあれアーリンに戻ってるじゃん」
「おぉ、いいタイミングだったな、今戻ったばかりだ。あとちっちゃかったからってちゃんってよぶなよ、恥ずかしいだろ!」
「あ、恥ずかしいんだ……」
「それでそっちの成果は?」
「とりあえず、ボアーを二頭狩れたから食べられる部分だけ取ってきたよ」
もう解体もしている辺り、コールは本当に何でもできる。
「俺の体も戻ったし、コールはしっかりご飯を確保したし、サラの下に帰っても文句は言われないし、虐められることもないな!!
あの赤い実だけもうちょっと採ってから帰るとするか」
「そうですね、赤い実は沢山採ってから帰りましょう」
リリィちゃんはこの赤い実が本当に好きなようだ。
こんな感じで、森の中の生活は色々と大変だが、生きている内には森を抜けてミディアムヴァルゴに到着できそうだ。
帰ってから、凄い申し訳なさそうにサラが言ってきたのだが、野営地が余りにのどかすぎて見張りの為に残っていたのに爆睡していたらしい。
いつになく、可愛いので許そう。
現状は間違っているに違いない 大宮 真晴 @tassi15
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