第18話 バードリバーの王と王妃
ガルフとティアは、まっすぐ王コルドの下へと向かった。王の間ではコルドとシルフィが二人を迎えた。
「父さん、母さん、ただいま」
急に返ってきたガルフに驚いたのはコルド。
「どうした? いきなり帰ってきて。まさかお前、ティアちゃんに変な事して追い出されたんじゃないだろうな?」
とんでもない事を言う父親である。バードリバーの王としては良い王だというのに、父親としては実に残念である。ガルフは思わず言い返してしまった。
「そんなわけ無いだろ! ティアならココに居るよ!」
ティアはガルフの後ろに立ち、挨拶するタイミングを測っていたのだが、コルドが変な事を口走ったものだから出るに出られず固まってしまっていた。しかも顔は真っ赤になっている。おそらくコルドの言う『変な事』を色々想像してしまったのだろう。しかし、ガルフに『ココに居る』と言われた以上、挨拶しないわけにはいかない。本当はガルフがシルフィにちゃんと紹介した上で挨拶する予定だったのだが、コルドのせいで台無しになってしまった。
「……コルド様、お久しぶりです。お母様ですね、ドラゴニアのティア・ドラゴニア・シュナイゼルと申します」
ティアは、口上を色々考えていたのだが、頭が真っ白になってしまって最低限の挨拶しか出来なかった。そんな彼女をシルフィは優しく迎える。
「ティアさん、はじめまして。ガルフとメアリーの母、シルフィ・ウェンガーです。メアリーを助けてくれて本当にありがとう。遠いところ大変だったでしょ? ガルフはまだ半人前だから」
半人前だと言われて拗ねるガルフ。しかしティアは彼がまだ半人前の風使いだからこそ彼の腕に抱かれて空を駆けれたのだ。それはそれで良かったのかもしれない。
「それで、どうしたの? 急に帰ってきて」
シルフィの質問にガルフはメアリーが母に会いたがっている事を伝えた。すると彼女はコルドに怒り出した。
「だいたいあなたが一人で勝手に行っちゃうのがいけないのよ。私だってメアリーの顔を見に行きたいのに。そもそもドラゴニアなんてそう簡単に行ける所じゃ無いでしょ。それをあなたは隣町へ行くぐらいの感覚で行っちゃうんだから。だいたい先方に失礼でしょ……」
「わかった、俺が悪かった。ティアさんもいるんだから、そうエキサイトするんじゃない」
止まらないシルフィを止めようとコルドが頭を下げる。するとシルフィもなんとか落ち着いた様で、大きく息を吸い込み、長い溜息を吐いた。
「ティアさん、ごめんなさいね、恥ずかしいところを見せちゃって。せっかく来てくれたんだからゆっくりしていってね」
シルフィの言葉にガルフがジェラルドから泊まりの許可が出ている事を告げると、シルフィは意味深な目でガルフを見て言った。
「言っときますけど、部屋は別ですからね」
「か、母さん、何言ってるんだよ!」
「ふふっ、冗談よ。それよりティアさん、お腹が空いてるでしょ? 今、用意するからちょっと待ってね」
ほとんど彼女を連れて来た息子とお母さんの会話である。ティアは笑いながら返事をした後真面目な顔になり、シルフィに、いつぐらいにドラゴニアに来ることができるか尋ねたところ彼女はティアとガルフがドラゴニアに戻った日の翌日の昼頃と答えた。もちろんシルフィは今すぐにでも飛んで行きたいのだが、コルドと違って分別がある人間の様だ。そして「ティアさん、お父様お母様によろしくお伝え下さい」と、さっきまでとは別人の様にティアに頭を下げると、ティアもそれを受けて「承知しました。しかとお伝えしておきます」と大人の対応で返した。
そうこうしている間に食事の準備が整い、料理が運ばれてきた。ガルフにとっては懐かしい味、ティアにとっては初めて見るバードリバーの料理。
「口に合うと良いんだけど」
シルフィの言葉にガルフが緊張した面持ちでティアをちらっと見る。ドラゴニアの料理はとても美味しかった。まさか不味いと口に出すことは無いだろうが、ティアはバードリバーの料理をどう思うだろうか?
「わあっ、美味しそう! いただきます」
まずは百点と言って良いティアのリアクション。そして彼女はスープに手を付ける。
「美味しい!」
彼女の表情を見る限り、お世辞とか社交辞令では無いと思われる。ほっとして、胸をなでおろすガルフ。別に自分の国の料理を卑下しているわけでは無い。ただ、バードリバーは文字通り『鳥と川の国』、クセのある川魚の料理がティアの口に合うかどうか不安だったのだ。しかしよく考えてみればドラゴニアには湖が有る。つまり淡水魚は食べ慣れているという事だ。ちなみにティアが作ったスープにも湖の魚が使われていた。ガルフが初めて食べるドラゴニアの料理をなぜか懐かしく感じたのはこの為だったのだ。
食事を終えたティアは、せっかく来たのだからとガルフにバードリバーを案内してもらう事になった。ガルフは風に乗って山や川、風光明媚な観光スポットを何箇所か回るが、ティアは他に見たいものがあった。
「綺麗な景色も良いけど、ガルフが普段暮らしてる町を見てみたいな」
ティアが小さな声で言うと、ガルフは尻込みしながらも町に飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます