第23話


 俺たちは冒険者達に周りを取り囲まれた状態で屋外にある練兵場なるリンチスペースへと連行されている。俺たちを逃がさない様に取り囲んでいる連中はヨシエの陵辱ショー目当ての連中ばかりで、妄想逞しく試合展開を予想している。


「思ったより人気があって良かったなヨシエ」


「素直に喜べないです」


 野次馬達の試合展開予想が耳に入ってきているのだろうか、珍しく不機嫌な顔付きでヨシエが唇を尖らせる。


 最初ヨシエと出会ったドタバタを思い起こせば、とんでもないザコキャラ筋肉女が強制オプションとしてビルトインされたのではないかと頭が痛くなったものだが、ヨシエが強いられていた境遇を聞くにあたり「コイツ戦い方を強制されなければ強いんじゃね?」と考えを改め、試しにバールの様な物を与えたところ大化けに化けたのだ。


 当初バールの様な物は重さがネックになっていたが、アケミが施した魔方陣により「軽い状態で加速して、インパクトの瞬間に重くする」と言うコツを掴んだ途端。ヨシエの世界は無限に広がり、野生のゴリラにウイスキーでも飲ませたかの様な手のつけられないパワーと危険性を彼女は手に入れたのだ。


 和やかなエロ話に花を咲かせた一行に連れて来られた練兵場は地面に杭を打ち込んで、横板を打ち付けただけの粗末な囲いでまるで馬の調教場の様だった。


 丸く囲まれた練兵場に鈴なりの野次馬が集まり、柵に近付けば間違いなくなんらかの妨害が予想されるアウェイ丸出しの空間だ。


「さあて、採用試験会場に到着だ。お嬢ちゃん」


 練兵場の真ん中で大男とヨシエの二人が並び立ち、周囲の野次馬達に今回のリンチはあくまでも採用試験だという事を大声で説明を始める。


「よがり死ぬ前にその細っこい首を締めて殺してやるから安心しな! さあ、試験官として胸を貸してやろう。遠慮無く打ち込んで来い! 後で俺もお前の胸を存分に借りさせてもらうがパっっっっっっっ!」


 大男のセリフの途中でヨシエが遠慮無く振り下ろしたバールの様な物が大男の口元にめりこんだ。


「じゃあ、遠慮無く」


 大男は無言で膝をつき、血の滴る口元を左手でおさえながら利き腕である右手をヨシエに向けて攻撃の制止を懇願した。


「利き腕は要らないんですか? それとも魔法でも発動するのですか?」


 ヨシエのバールの様な物は許しを請う様に掲げられた右腕にむかって容赦無く叩き込まれる。


「ううううううううう! ううううううううう!」


 ひしゃげた腕をかばう様に倒れ込み、地べたに頭を擦りつけて悲鳴をあげる大男にむかってヨシエはゆっくりと歩を進める。


 口周りの流血からくる呼吸困難と、ありえない方向にひしゃげた右腕の激痛で動きの止まった大男にとどめを刺そうとする為に、ヨシエはバールの様な物を大きく振り上げた。


 誰もが潰れたスイカの映像を頭に思い浮かべた瞬間。ヨシエが予想外の動きをして観衆があっけにとられてしまう。


 パリン!


 うずくまった大男に突然背を向けて振り下ろしたバールの様な物は、背後から乱入して来た別の男の片手剣を砕き割っていた。まるで皿が割れる様な鋳造鉄が砕ける音が木霊するまで、男の乱入にはまったく気付けていなかった自分にあらためてぞっとする。


 気配を消して乱入した男は自分の剣が砕かれた事に驚愕したようで、一瞬動きが止まってしまった隙にヨシエの痛烈な一撃が男の鎖骨部分に叩き込まれる。


「ぎゃああああああ! 待て! 待ってくれ! 降参だ! 頼む! 頼みます!」


 肩をおさえて尻餅をつき、無様に後ずさる男が大声で懇願する。


「公衆の面前で陵辱した後に殺すとまで公言した相手に何故手心を加えないといけないので? しかも卑怯にも立ち会いの最中に気配を消して、剣を突き込んで来る乱入者に対して会話をする気などさらさらありませんね」


 座ったまま後ずさる乱入男のひざ関節を容赦無くバールの様な物で叩き潰すヨシエ。


「ぎゃああああああああ!」


 ヨシエさん怖いです。


 二度、三度とバールの様なものを振り下ろされた乱入者のひざ関節は、開放場所から夥しい量の血液が噴き出し、ニコリと微笑むヨシエの顔にいくつもの赤い斑点を張り付けて行った。すっかり雑魚キャラ認定をしていたヨシエ監修のスプラッタショーを目の前にして、俺は「知ってましたよ当然でしょう」の表情を顔に貼り付ける事に必死になっていた。


「待て待て待て! 俺はギルドマスターだ! 全て謝るからもうやめてええええ!」


 声を枯らして叫ぶ乱入者の言葉に練兵場の時が止まった。


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