ゲーム育て屋さんの最後の大仕事
ちびまるフォイ
そこは育てなくていいよ
社会人になるとゲームの時間が作れなくなる。
「最大級のやりこみ要素!」
「本編クリア後からが本番!」
「裏ボス、隠しアイテム多数!」
こういうのはほとんどできない。
コンプする前に次の欲しいゲームが出てきてしまう。
「なんかいい方法ないかなぁ……」
ネットをあさっていると、小さな広告を見つけた。
『 ゲーム育て屋さん 』
―レベルアップ代行
―クリアまで進行
―アイテムコンプリート
「俺の代わりにゲーム進めてくれるのか。これは便利だ」
さっそく積みゲーのひとつを育て屋さんにお願いした。
名作RPGの続編と聞いて衝動買いしたまではよかったものの、
VRMMOのゲームが同じタイミングで出たのでプレイしてなかった。
しかも高難度がウリということでますます敷居が高い。
育て屋さんに依頼してから数日後。
VRゲームをいったんおいて、RPGのゲームをプレイしてみた。
「え!? すごい! 全部やってくれてるじゃん!!」
アイテムも、武器も、ボスも、図鑑も何もかも完璧。
スキルだってすべてそろえられている。
面倒なレベル上げも全部やってくれていた。
それでいてダンジョン攻略は避けているので、
高難度ゲームもイージーモードでプレイできる。快適だ。
「はぁ堪能した。育て屋さんはいいなぁ、こっちも依頼しよう」
すっかり味をしめたので、今度は進行中のVRゲームの育成を依頼。
MMOなだけあってアイテム数も膨大で時間が足りていなかった。
「……でも、全部コンプしているのに、
腕前は初心者だったらちょっとダサいかな……」
最強の武器を持った素人になるのだけは避けたかったので、
サブアカウントを作ってゲームで腕を上げていた。
ちょうどそのとき。
『 フフフ、私はゲームマスター・サイアーク。
お前たちはこのゲームからログアウトすることはできない。
ゲームを終わらせるにはクリアするしかないぞ 』
ホログラフで表示された人間が言い出した。
それにひとりのユーザーが食って掛かる。
「貴様! このゲームはユーザーを閉じ込めるのが狙いだったのか!!」
『 ククク、そう思うか? 』
人間はにやりと笑った。
『 これはただの不具合だ!!! 』
「「 ええええ…… 」」
ユーザーは制作側の不具合でゲームクリアしない限りログアウトできない。
しかも、途中でゲームオーバーになるとブラックアウトして戻れなくなるおまけ付き。
「やべぇ、俺サブアカのままじゃん……!」
せめて育て屋さんが鍛えてくれているアカウントなら良いものの、
作り直したアカウントなのでほとんど貢献できない。
「あ、待てよ。ラスボス倒せばクリアアイテムもらえるわけだし、
そうなると育て屋さんが倒してくれるはず。俺いらねーじゃん」
今まで育て屋さんがやったゲームでアイテム1つの取りこぼしもない。
となると、ラスボスを倒すこともしてくれるだろう。
のんきに考えていると、予想通り初日にしてラスボス討伐の知らせが入った。
「やったーー! これで自由になれる!」
ユーザーは誰もが喜んでいたが、ゲームは終わらなかった。
不思議に思ったユーザーは不具合連絡をスパム報告しまくった。
まもなくホログラフ人間が引きずり出された。
『 あの君たち、ログアウトできないけど
運営へメール送れるからって、メール送りすぎ。
こっちのサーバーパンクしたわ 』
「おい! 魔王の城にクリア判定出てるのにゲーム終わらないぞ!」
『 そんなはず……あ、あれれ? 本当だ…… 』
人間側も驚きを隠せないでいる。
『 クリアして、ゲームを終了できるのに、
それを押さないでゲームを継続している奴がいるんだ。
そのユーザーが最初の攻略者だから、そいつじゃないと終わらない 』
映し出されたユーザーIDは俺の本アカウントにして、育て屋さんのアカウント。
いったいどうしてクリアしてくれないのか。
「かまわねぇ! クリアしたそいつをぶっ殺して、
アカウント権限を奪っちまおうぜ!!」
「そうだそうだ!」
血の気の多いユーザーは育て屋さんに挑戦しに行った。
このVRゲームでは相手を倒すと、その権利を奪取できる。
所持している武器や道具はもちろん、
ギルドリーダーといった権限すらも手に入れることができる。
「まさか、それすらもコンプするつもりなのか!?」
育て屋さんを倒しに行ったユーザーが消えたのはそれから数分後。
最後の言葉は
「なにあのチート……強すぎ……」
だった。
聞けば挑んだユーザーはこのゲームの世界ランク1位ということで、
それをものの数分で破ってしまった育て屋さんは銀河1位になってしまう。
もちろん、もう誰も挑戦する死にたがりはいない。
「もうこのまま生産職でも極めて、慎ましい生活をしようかな……」
ユーザーの中では奴隷根性をすでに芽生えさせる人も出てきた。
それでも、俺は現実の世界に戻りたかったので、すべてを明かした。
「みんな聞いてくれ! 実はあのユーザーは俺が依頼した育て屋さんなんだ!
倒さない限りここから出られない!!
生産職を極めたところで、権限コンプのために、育て屋さんに殺されるかもしれない!」
「そんな……じゃあどうすればいいんだ……」
「俺に秘策がある! みんな! 薬剤師になるんだ!!」
俺の計画を知ったみんなは、戦闘職ですらない薬剤師になった。
そのまま、薬剤師の軍団が育て屋さんの前にやってきた。
「育て屋さん、あんたいったい何が目的なんだ!」
「……」
「見たところ武器も装備もコンプしている。
なのに権限コンプしようと、ユーザー狩りするわけでなく
こんな場所でずっと引きこもっている。何が目的だ」
「……」
「まあいい。あんたの目的はわからないが、
俺たちはあんたを倒して現実に戻る目的があるんだ! いくぞ、みんな!!」
薬剤師たちはなけなしの戦闘力でもって、
すでにレベルMAXにして、究極武器を持つ育て屋さんに立ち向かう。
お世辞にも勝算はない。
育て屋さんが襲い掛かるユーザーを蹴散らそうと構えたとき。
「いまだ!!!」
先頭部隊とは別の、後方部隊の薬剤師が調合を行った。
このゲームでは薬剤師のみ、自分でアイテムを作ることができる。
自分で作ったアイテムは千差万別の効果と、自分でアイテム名も決められる。
「……!!」
育て屋さんはたったいま生まれた新アイテムの回収へと方向転換。
どんなアイテムであれコンプしないと気が済まない。
「第二部隊、調合はじめ!! 他のやつらは攻撃だ――!!」
さながら、初めて銃の戦術を取り入れた織田信長のごとく
調合部隊がアイテムを生産して時間をかせぎつつ、その裏で調合の準備を進める。
育て屋さんが片っ端からアイテムを回収している間に、
戦闘部隊が育て屋さんの体力をちくちく削っていく。
「みんな諦めるな!! 調合の手をとめるなーー!」
そして、ついにそのときはやって来た。
YOU WIN!!
【†キリト†】の権限を勝ち取りました!
生産されたオリジナルアイテムの名前が思いつかなくなるころ、
ついに育て屋さんの体力が尽きて倒すことができた。
「はぁっ……はぁっ……戦闘職じゃなくても……勝てるんだ……」
育て屋さんの持っていたすべてのアイテムと武器およびスキル。
そして、所持していた権利を手に入れた。
目の前にウィンドウが開く。
【 ゲームをクリアしますか? 】
はい いいえ
「やった! クリア権限の引継ぎも成功した!!」
迷わず「はい」を選ぶとユーザーたちの体が光に包まれる。
転送されて目を開けた場所は、自宅の天井――ではなく。
「え……? これ、最初の街……!?」
消えていったユーザーも再度復活している。
クリアしたはずなのに、最初に巻き戻されていた。
慌てふためいた運営がホログラフで映し出される。
『 不具合でゲームクリアしないとログアウトできないのが、
どういうわけか、ゲーム内で修正されて……
普通にログアウトできない仕様になってる!! 』
育て屋さんが作ったパッチのおかげで不具合は解消。
かくして、俺たちユーザーは完全な監禁状態にされた。
ゲーム育て屋さんの最後の大仕事 ちびまるフォイ @firestorage
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