第10話 ライダーズジャケット

自分が、30代に入った時だった。

都内の高校の時の同級生と、たまたま、仕事での出先の駅で会った。

それも、北関東の駅でだった。

急に声をかけられても、、彼には、失礼だが、あまり目立たない存在だったのか、すぐには、思い出せなかった。

浪人の末、当時、学費の安い国立の大学に進学したそうだ、それは、母子家庭だったからかも知れない。

彼は、はじめは、都内の信用金庫に勤めたが、今は、母親の実家で暮らし、地元の職業訓練校に1年に通い、職安で見つけた北関東の建築関係の会社に勤めていると言う。

そして、大型二輪免許を取って、今日は、ライダー用の革のつなぎを上野へ、特注で作りに行くと言う。


そして、小柄な彼は、照れ臭そうに、私に言った。

「君ら、オートバイに乗ってたろ、、その話を、いつも、そばで、聞いていただろ、オレ」

「あっ、そうだったけか・・」

「その話へ、入れなくてさ、、、なんか、羨ましくてね、、いつか、自分も乗りたいって、ずっと、思っていたんだ、そんな矢先に、こんな駅で会うなんてさぁ・・」

彼は、事務から、営業、そして、オペレータさんの休んだ時の重機の運転まで、やってるそうで、無口な彼が、ずいぶん雄弁になったな、と感じた。


「ライダーズジャケットって、キャロルみたいじゃんか」

「キャロルって言えば、、、君ら、バンドもやってたよね・・・」

「曲がほとんど、GSだもんね、それって、思い出すと、はずかしいよね。」

「学園祭の時、キャーキャーだったよね、はっは」

「そんなことあったっけ、忘れたよ、、」

「あったよ、あった、はっはっは」

 ヤバイな・・・話題変えなくちゃ、、しかし、ずいぶん、昔のこと、よく覚えているな・・

「で、ライダーズジャケット、特注って、お金、余ってるの・・」

「それがね、特注じゃないと合わないのよね・・こういう体形してるから、はっはっは、、、」

「あのねえ、、うちは、今、二輪と言ったら、子供席の2つ付いた自転車だよね」

「はっはっは、、」

東京に向かう常磐線の中のボックスシートで、2人で笑った。


彼にとっては、久しぶりの東京だと言う、この寒さが過ぎたら、あと少しで桜も咲き始める、ツーリングにも良い季節だろう。

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