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「お待たせ。熱いから気を付けて」

 ふわん、と湯気の立つマグからは爽やかな香りがする。

「ちょっと生姜も入っているから温まるよ」

「わーい。あ、これ、あれだ、よく見る奴! 本当に使ってる人居るんだ」

「ずっと前から使ってるっつーの」

「へぇ、可愛い。私も買おうかな」

 梓が手にして喜んでいるのは、ハチミツをすくうやつ、ハニーディッパーだ。ハチミツをすくう時に垂れなくて便利な一品。

「好きな分だけハチミツ入れて良いから」

「いいのっ?」

「サービス」

 他のお客様にはしないけど、梓ならいいかなって。長い付き合いだし。好きなだけ入れてくれ。

「・・・入れ過ぎじゃない?」

「家でもいつもこんなもんだよ?」

 まぁべつに梓がそれを好きならそれでいいんだけど・・・こんなに甘いものが好きなのにどうして太らないんだろ? 昔からの不思議だ。

「はぁ、美味しい」

「そりゃぁ良かった。あ、今貰った土産、開けていいか?」

「もちろん」

「じゃ、一緒に食べようぜ」

「その言葉を待ってた」

 語尾にハートが付きそうな仕草だ。全く。

「どれがオススメ?」

「んー、やっぱりフランスはちょっとおしゃれな味付けが多い気がするな、私はベルギーの方が好き」

「じゃ、ベルギーね」

「やった」

 リボンを解いて箱を開けると、宝石のようにチョコレートが並んでいる。いつも店で出しているチョコレートとは全然違う。さすが本場だ。

「いただきます」

「まーす」

 ぱくん、と食べたと同時に舌の温度でとろっと溶けだす。選んだのはトリュフだ。ほのかにリキュールの香りと滑らかなチョコが、脳を喜ばせているのが分かる。美味い。

「あーん、おいしー! 幸せぇ」

 買ってきた本人が俺よりも幸せを感じているように思える。

 妹がいればこんな感じかな、とふと優しい気持ちになる。

 梓が幸せなら、それでいいか。

「次、何食べる?」

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