64-8 これからが本当のハーレム展開?


 とりあえずカレーを皆で食べる前に先に栞には風呂に入って貰った。

 泣き腫らした顔を俺だけじゃなく美月に見られるのは嫌なのだろうか、栞は素直に風呂に向かっていった。


「美月……助かったよ……」


「全くお兄ちゃまは……」


 俺と美月はキッチンのテーブルで向かい合って話し始めた。

 お互い思い詰めた表情で……。


 一体どういう事かと言うと、俺は全てを美月に話していた。

 栞を愛してしまった事……二人きりでどこまで耐えられるか自分が抑えられるかもうわからないと言う事、全てを美月にだけ打ち明けていた。


 勿論美月が俺に好意を抱いている事は承知の上でだ。でも……俺が唯一甘えられ、信頼を置ける相手は栞と美月だけだったから……。


 家族だから……親以上にそう思っていたから……。


 そして美月は言った……。

「お姉ちゃまとお兄ちゃまがそう言う関係になるのだけは駄目、それは、それだけは許さない

もしそうなったら美月は……言うよ……弥生ちゃまとお父様お母様に報告する」


 怒りにも満ちたその言葉に「あり得ない」と俺はそう美月に言った。


 しかし美月は俺の言葉に納得してなかった。


「私が一緒に住む」そう言ってきた。


「いや、でも」


 美月のその提案に俺は直ぐに返事が出来なかった。

 一度はそう言う話もあった。苛めに近い状態だった美月の逃げ道としてこっちで俺達と一緒に暮らそうと……しかし美月は長野に帰って皆を変える、逃げるのは嫌だとそう言った。

 それを俺の事で覆すのは駄目だと、俺が耐えれば良い、それくらい当たり前だ。実の妹に手を出すなんて……そう言って美月の提案を笑って跳ねのけた。


 しかし美月の表情は固く真剣な顔で俺に言った。


「美月を舐めないでお兄ちゃま、お兄ちゃまとお姉ちゃまはもうそう言う状態じゃない……悔しいけど、でも高校1年でそれは駄目、しかも兄妹でなんて絶対に駄目」

 小学生で俺に迫って来る美月におまいうってのはあるが、確かにその通りだ。

 俺は栞を求め始めている。栞は常にそうだ。


 だから俺は美月に言った。


「わかった……もうどうしようもなくなったら……俺が自分を抑えられないと判断したら必ず美月に連絡する……俺を助けられるのは俺を抑えられるのは、美月……お前だけだから…………まあ、そんな事は無いだろうけどな」


 そして今日……栞のあの言葉で……俺の子供を作るのが夢というあの言葉で俺の理性は脆くも崩れた。


 約束通り俺は美月にメールを打った『もう駄目』と、間に合うかどうかわからない、今夜にも俺は栞と……という状況の中、俺の前に美月が救世主の如く現れた運びとなった。



「いや、お兄ちゃま……私は救世主ではなく恐らくお兄ちゃまにとっては悪魔になると思うよ」


「悪魔……」


「お兄ちゃま……はっきり言うね、駄目だよ、美月はお兄ちゃまとお姉ちゃまが遊びで恋愛ごっこを楽しむ程度なら許すけど……でも本気なら、とことん邪魔するよ」


「美月……」


「この国にいる限り、ううん……今やどの国でも兄妹での恋愛、ましてや結婚を認めてくれる国は無いの、そう言う法律の国は無いの……この国で生きていくなら、そう言う事は認められないの、法治国家とはそう言う物なの」


「いや、でも……」


「日陰で、一生人目につかない様にお姉ちゃまと暮らすの? そう言う覚悟があるのお兄ちゃま?」


「…………」

 俺は何も言い返せなかった……そう……俺と栞がそう言う関係になったら、恐らくもう二度と引き返せない……一生人目につかない様に兄妹ということがバレない様に親からも、親戚からも友人からも離れ、二人きりで暮らさなければならない……俺はまだ良い、友達少ないから……少ないから、大事な事だから二回言った。

 でも栞は……あの友人関係を全て断ち切るなんて出来るわけがない……友人の友人迄広がれば、この国から出る事も視野にいれなければならない。


 つまり俺と栞は一生人目を気にして生きていかなければならない。


「美月とだったら、後7年で皆から祝福されるよお兄ちゃま」


「いや……それもどうかと……」


「7年秘密にするだけで良いんだよお兄ちゃま、美月は口が固いよ」


「いやいやいやいや、俺はロリじゃないから!」

 誰だダウトって言った奴、違うから!


「それで、とりあえず、この後どうするんだ?」


「まあ、当然お兄ちゃまとお姉ちゃまを二人きりにはもう出来ないよね」


「まあ、だから美月に連絡をしたんだからなあ」


「とりあえず、お母様とお父様が帰って来るまで美月がここで一緒に暮らします」


「…………へ?」


「大丈夫、弥生ちゃまの口聞きで都内の小学校にはいつでも通える事になっているから」


「そ、そうなのか?」


「って言うか、早く来てくれって言われてるから」


 天才少女美月……田舎の小学校では煙たがれるが、一流の人間なら、教育者なら美月を手元に置きたいと思う輩は一杯いるだろう……でも……。


「良いのか? 美月はそれで……」

 俺の為に、こんな下らない事の為に美月の人生が変わるかも知れない、俺は自分が情けなくなって来る。


「お兄ちゃま、だから言ったでしょ、美月は天使じゃない悪魔だって、本気だよ、今まではお姉ちゃまに遠慮していたけど、美月だって本気だから、私だってお兄ちゃまを愛しているから、だから人生をかけてお姉ちゃまに宣戦布告する。お兄ちゃまをお姉ちゃまから奪う、その為にはなんだってするから」

 美月そう言うとウサギの様にテーブル飛び越え俺の首に抱き着く。


「うわあああああああああ!!」

 俺と美月は椅子ごとそのまま後ろにひっくり返る、ドーーンという凄い音がキッチンに鳴り響くも美月は気にせずそのまま抱きつく……。


「お兄ちゃま好き好き大好き~~~~」


「いや、ちょっ美月!」


「ああああああああああ! やっぱりいいいいいいいい」

 大きな音を聞いてなのか、バスタオル姿の栞がキッチンの入り口に立っている。

 そしてそのまま俺達に近づくって、ヤバい栞その格好ヤバい、見える、見ちゃいけない物が見えちゃう!


「ずるい美月ちゃん!!」

 栞はそう言うと俺と美月の間に割り込む様に、バスタオル姿で抱きついて来るってらめえええええええ……。


 柔らかい感触が、良い匂いが……愛している妹と可愛いいとこに抱きつかれ身動きが取れない俺…………。


 これが……ハーレムか……いや違うから、とりあえず離れてくれえええ。


 こうして栞と美月と俺の新たな生活が始まった。そしてあいつが、更なる魔の手が伸びている事をこの時俺はまだ知らなかった。



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