63-2 悪夢の転校生


 進学校でもない我が校は、新学期開始日の授業はない……なんかごろがラップだな、チェケラ♪


 と言うわけで、早々に教室を後にしようとしたが先生に呼び止められる。


「えっと……頼むわね~~」

 その一言で全てを悟俺と栞……転校生西園寺 茜を押し付けらた……


「えっとじゃあ、茜さん」


「あなただけ、呼び捨てでいいわよ、ダーリン」


「ダーリンって……じゃあ、茜、学校の案内を」


「えーーー二人きりでは無いの?」


「あ、いや、妹も……栞も一緒に頼まれているから」


「じゃあ仕方ないわね、小姑さんとは仲良くしないとね」


「いや、えっと……ああああ、えっととにかく学校の案内を」

 栞の目の色が変わる、怒りのオーラが……ヤバい……


「一ヶ所だけ、他は必要ないわ」


「一ヶ所?」


「生徒会室に連れていって頂戴」

 そう言って茜が笑う……相変わらず目は全く笑っていないんだが……栞俺の腕を握り潰すのは止めてくれ……



####



「えっと……どちら様」

 

 生徒会室に入ると俺と栞以外のメンバーは既に集まっていた。


「貴女が生徒会長の那珂川 葵、隣が副会長の渡ヶ瀬 美智瑠、書記の酒々井 麻紗美と初瀬川 雫、セシリーマクミランね」

 茜はそれぞれの顔を見ながら順番に名前を言っていく。


「ぜ、全員の顔と名前を覚えているのか?」

 俺が驚きの顔で茜を見ると、茜は俺を睨みながら言った。


「ふふふ……ええ、勿論旦那様の愛人を調べておくのは妻の務めですから」


「あ、愛人!?」


「ええ、裕様はこの学校で選りすぐりの美女を集めて長谷川ハーレムを築きあげているとか、高校1年でその甲斐性……さすが私の旦那様ですわ」


「そんな集団はいない! だ、誰がそんな、って言うか、どこから!」


「──えっと……裕くん? そちらは一体?」

 

「あ、ああ、えっと……うちのクラスの転校生です……」


「その転校生が何故ここに?」


「ここに連れていけって言われたんで……」


「突然失礼致します、初めまして生徒会の皆さん、私、裕様の婚約者、西園寺 茜と申します、正妻としてご挨拶に参りました」


「「…………えーーーーーーーーーーーー!」」

 

「──はあ……またか」

 麻紗美と俺と栞を除く3人が茜の言葉に絶叫する。


「こ! 婚約! こんやく、こんにゃくは、こんこん」


「あんちゃんがこんにゃく?!」


「こんにゃくってぇなんで固まるかぁ謎ってぇ言ってたねぇ~~」


「こんにゃくと言えば、なんでも切れる刀が唯一切れないで有名な奴でっしゃろ?」


 それぞれが勝手なな事を言い始める……教室でも生徒会でも一緒か……

 

「えっと……ご丁寧な挨拶ありがとうございます、でも大変申し訳ありませんが、今から会議を致しますので部外者の方はお引き取り下さい」


「……生徒会長、那珂川 葵……ロイヤルファミリーの一員、そちらのセシリーマクミランもお母様は大使でいらっしゃるようですし……裕さん、随分と素晴らしいハーレムを築いていらっしゃいますね…………成る程これなら早々に手は出せないと言う事ですね……あいつも…………まあ、そんな怖いお顔をしなくても、今日は挨拶に来ただけなのでこれで失礼しますわ」

 

 そう言うと茜はもう一度全員を見回し、最後に栞を見る。栞は俺の隣で俺の腕を掴みながら黙って茜を睨んでいる。

 茜は栞を数秒睨み付け、最後に栞が掴んでいる俺の腕を見ると「ふん」と小さく鼻で笑い、そのまま生徒会室を出ていった。


 茜が出ていった途端に生徒会の空気が弛緩する、そして……


「ゆゆゆゆゆゆ、裕!! な、なんだあいつは!! こ、こんにゃく、こんにゃくってなんだ? 味噌は無いぞ!」


「落ち着け美智瑠、こんにゃくじゃない、婚約だ」


「本当にぃ婚約したのぉ?」


「してない! そもそもあいつとは1度しか会ってない」


「あんちゃん……会ってるんだ……」

 

「雫! そんな最低って目で見るんじゃない! 冬休みにスキー場でちょっとスノボを教えただけだ!」


「Oh、手取り胸取り教えたデスか」


「なんだ胸取りって手取り足取りだろ、いや、手取り足取りもしてない、いててててて栞! 腕をつねるな」


「でも……何故あの人、茜さんは私達の事を知っているのでしょう?」

 生徒会長が某司令官の様に顔の前で手を組みながらそう言う……


「…………そう言えば……そもそも俺……何も教えて無いぞ、住所も電話番号も」


「じゃあ、なんでこの学校に転校してきたんだ!? あいつは僕の名前も知ってたじゃないか!」


「私の母の事も知ってたデース」


「私の家族の事も……」


「あいつ……本当に何者なんだ?」

 

 俺達は暫く何も言わずに茜が出ていった扉を黙って見つめていた。


 

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