61-2 明けまして……おめでとう

 

 栞の顔が見れない…………なんでだ?


 スキー旅行からの帰り、電車に揺られながら美月の実家であり、俺と栞の母の実家でもある婆ちゃんの家に向かう途中、俺は美月とイチャイ……楽しくお喋りをしながらそんな事を考えていた。


 昨日の夜美月に風呂場で言われた「ううん、そうじゃない……お姉ちゃまの事が、好きって、一人の女性として愛しているって事に気が付いていないの?」という言葉が頭の中で処理出来ていない。


 俺が栞を愛している……一人の女性として恋愛感情を抱いている?

 そんなバカな……でも……美月はさらに言った。「誰かにお姉ちゃまを取られたくない、自分の物にしたいって思ったんだよ。そして皆の前でお姉ちゃまにきちんとした形でウエディングドレスを着せてやれない、その悔しさで泣いたんだよ!」と……


 あの時泣いた、学園祭で泣いた理由……栞のウエディング姿を見て泣いたのは……俺もよくわかっていない、でも一つだけ、一つだけ言える事は……嬉しくて……では無い、悲しくて泣いたという事だけは分かっている。あの涙は悲しくて溢れ出た物……それが、それだけが嘘偽り無い俺の気持ちだ。


 でも悲しい? なぜ悲しいんだ? 栞のウエディングドレスを見て、何故……悲しくなるんだ?


 分からない……嬉しいはずなんじゃないのか? 美月は誰かに栞を取られるからと……確かにいつかはその可能性も……確かにそれを考えたら胸が苦しくなる……でもこれって普通の感覚なんじゃないのか?

 父親が娘を嫁にやる時と同じ感覚なんじゃないのか? 身内として当然の気持ちなんじゃないのか? 


 だって現に今美月が誰かに取られるって考えたら、泣く…………美月が誰かの物に……や、やらねえからな、特にお前にはやらねえぞ、お前だよお前、これを読んでいるロリコンのお前だよ! ドキッとしたお前、ロリコンだからな自覚しろよ!


 おっと、話が逸れた……いや、だから……違う、違うんだ……俺は栞を愛してる、愛してるけど……人を好きになるって、こういう気持ちじゃない……はずだ。もっとこう、何て言うか……好きって愛してるって、ビビって来るんじゃないのか?


 そもそも俺は……栞だけじゃ無い、美月だって、美智瑠だって、麻紗美だって、会長だって、先生だって、雫だって、それこそセシリーだって、皆好きだ、皆失いたく無い、大事な大事な俺の仲間だ……友達だ。


 ただ……ただね……俺は……この中で、一人を選べと言われたら間違いなく栞を選ぶ。


 一昨日見た夢、あの3人で遭難した夢、あの時斜面を落ちた時に最初に名前を呼んだのは美月ではなく栞だ。いとこで子供の美月よりも最初に無事を確認したのは栞だ。当然美月も大事だ、美月にもしもの事があったりしたらって思ったら……俺はどうにかなってしまうだろう。でも……それでも……俺は最初に栞の名を呼んだ……栞の無事を確認した。


 美月よりも……誰よりも……栞が一番大切だ、一番大事だ。


 でも、だからって……これが恋なわけがない……そう、俺にとって一番身近な身内、親よりも長い時間を共にしている大事な大事な身内……俺の妹……俺を好きと言ってくれた大事な大好きな妹……妹……が好き……まさか……


 でも、それでも……一番大事な人……誰よりも………………大事な人……


 俺は前に座っている栞の顔をチラリと見る。


 俺をじっと見つめている栞、俺の視線に気がついたのか、俺が見るとニッコリ微笑む…………!


 その笑顔を見て俺は慌てて目を背けてしまう、顔が火照る、心臓の鼓動が早くなる……な、なんだこの状態は? なんだこの感情は?


 栞から慌てて顔を背けると再び美月が視界に入る、ニッコリ笑う美月……ああ可愛い 可愛いいなあ、俺の美月、俺の天使……ああ本当に癒される…………っていや、癒されている場合じゃないよ、どうすんだよこれ、栞の顔が見れないって……なんなんだ?


 ああ、ほら栞が困惑してる……様な空気が、でも……顔……見れないんだよ……マジで……


 今は都合良く美月が隣に座って俺に構ってくれているからまだ良いけど、このままってわけにはいかないよな……これが一体なんなのか? なんで俺はこんな事に、こんな状態になっているのか原因を突き止めなければ……


 しかし……どうやって?


 俺は美月を見ながら、美月と話しながら、美月の手からお菓子を食べながら、美月の身体をペタペタと触りながら、そんな事を考えていた。


 ああ美月可愛い、可愛いな~~~♡ マジで誰にもあげないんだからね!



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