60-3 スキー旅行


「どうやって食うんだよ……」


 俺達3人は予約をしていた、ホテル併設のレストランにやって来た……しかし……ここは、このレストランは本当に凄かった。


 何がって部屋も料理も何もかも凄かった。


 フランス料理のフルコース……いや、こんな本格的なフルコースを食べるのは初めて……どこぞの某大衆イタリアンでスープとサラダと肉とデザートを頼んで今日はフルコースだぜとか言ってる俺だぞ……なんだこの聞いた事の無いメニュー……舌平目? ヒラメと違うの? ヒラメの舌?

 

 そう、何度も言うが俺は別にお坊っちゃまでも何でもない。親父はごく普通のリーマン、母さんもごく普通の看護士……まあ母さんの実家は普通じゃないけど……

 なのでこんなどこぞの国の宮殿の様な部屋で、ギラギラ光るシャンデリアの下で、食べるとか……何この無理ゲーイベント。

 


「お兄ちゃま、ナイフとフォークは外側から順番に使えば良いんだよ」

 

 美月はそう言ってメイン料理の舌平目のムニエルと言う料理を丁寧に切り分け口に運ぶ。


「へーーそうやって骨を外すんだ……」

 魚用のナイフとフォークを使い骨から身を丁寧に剥がしながら優雅に食べる美月……日頃からこの手の店へ婆ちゃんに連れていって貰っている事がわかる。

 

 一度見ただけで何でも覚えてしまうだけに、婆ちゃんも子供の頃からキチンと教えなければいけないと思っているんだろう。

 ○○賞作家の孫としてかどうかはわからんが、勉強以外も婆ちゃんの英才教育を受けている……うん、さすがは美月、俺の美月♡……でも……美月はわかる……こういう事も出来るってのはわかる、わかるんだ……けど……



「栞! 栞はなぜ出来るんだ!」

 そう栞、いつも俺と同じ物を食べている筈だ。なぜ出来る、美月と同じ様に優雅に……畜生ここでも負けた……何でだ? 育ちは同じはずなのに……


 スキーだってそうだ、俺と同じ数だけしか行ってないはず、なのにあの差はなんだ? 今日おっかなびっくりコブを越えている俺の横を手を振りながら華麗にすり抜け、コブを使ってジャンプし水平方向に一回転したぞ! あれってオリンピックで見たヘリコプターとか言う大技だろ? 


「え~~~私とお兄ちゃんの結婚式で披露宴の時出されるフルコースを、汚く食べるのはお兄ちゃんのお嫁さんとしては失格だと思うの、だから日頃からこういう物を食べる勉強してるの~~花嫁修業の一環だよ」


「だよってそんな可愛く言われても……さいですか……」

 披露宴も何もそもそも結婚できねえし……


「お兄ちゃま、お姉ちゃまは美月とお兄ちゃまの結婚式を想定してるんだよきっと」


「してませ~~~~ん」


「兄妹は結婚できませ~~~~ん」


「知ってますうう、でも私とお兄ちゃんなら法律とか関係ないんですううう」


「関係ありますうううう」

 4人がけテーブルで二人は俺を挟んで左右に座っているため、向かい合って言い争いを始める。いつも通りの子供の言い争いに俺は辟易する……いつもは大人の二人なんだが、俺の事となると途端にポンコツ小学生と化す。


「ハイハイ、良いから食べようよ、折角の料理が冷めるぞ」


「はーーーーい」


 こういう素直な所は可愛いんだけどな……


 デザートを食べゆっくりとコーヒーを飲み席を立つ、旨かったけど緊張した。

 栞も美月も特別可愛い、必ず周りは注目する。その中での食事……しかも恐らく高級食器、いや本気で手が震えたよ……


 今後の事を考えたら、俺もテーブルマナーとか勉強した方良いのかも……


 そんな事を思いながらレストランを後にする。

 栞は俺の右側で俺の腕を自分の腕に絡め歩き、美月は俺の左側で俺と手を繋ぎ歩く。両手に花だが、片や妹、片や従妹いとこ……


 周りの目を気にしながらホテルの赤いフカフカの絨毯に戸惑いつつ部屋に戻る……しかし……高校生が若い女子と小学生とベタベタしながらホテルの廊下を歩くとか……マジでなんて思われてるんだろう……アンケートでも取りたいよね、まあ俺は読みたく無いけど……


 もしかしたら通報されるかもと、気持ち早歩きで部屋に戻った。戻ったら戻ったっでまためんどくさい事が始まるのはわかってるんだけど……


「さあお兄ちゃま、お風呂の時間だよ!」


「お兄ちゃん! 汗を流そう、疲れを癒そう!」


 はい部屋に入った途端に始まりましたよ。そうですお風呂の時間です! 俺と妹、美月が揃ったらお約束だよね。

 

 どうせ俺達はアニメは疎かコミカライズもあり得ない、書籍も無理なんだから、映像や画像としては出ない……つまりやりたい放題だと言う事だ。その証拠に今までBANどころか警告さえも無かった。



「よし! 入るぞ!」


「きゃあああああああ! お兄ちゃまあああ」

「きゃあああああああ! お兄ちゃんんんん」

 



「俺は大浴場に入ってくるから二人はゆっくりとここで入っていいよ」

 喜び跳び跳ねる二人に俺は笑顔でそう言った。


「は?」


うわ……二人の顔が凄い事に……いや、本当お見せ出来なくて残念、いや本当に残念だ……残念過ぎて出来れば俺も見たく無かった。



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