56-4 大人デート

 

 俺は最低だ! それって……それじゃあ告白をしてくれた娘達に対して俺はただの性欲の捌け口としてしか思って無いって事じゃないか! 



 俺は本当に最低だ……愛してもいないのに抱きたいとか……


 毎回毎回自己嫌悪に陥る……そりゃ俺だって高校生だ、そう言うのに興味が無いなんて事はない、むしろ興味だらけだ。


 でも愛って分からない、恋って分からない、性欲と違うのか? そんな事さえ分からない。


 それが分からない以上、栞には、いや美智瑠だって麻紗美だって、手を出すわけには行かない。


 考えてしまうだけで最低なんだ、そんな事をしたら俺は……地獄に落ちる、悪魔になってしまう。


「にい……ちゃ…………お兄……ん……お兄ちゃ……お兄ちゃんってばああ」


「うお!」

  栞の顔が突然目の前に……ああ、そうか……俺は栞の様に異世界に言ってたのか……ははは、やっぱり兄妹だな……てかこんな所だけ似ても……もっとあるだろ? 顔とか、頭とか性格とかさーー、なぜこうも……。


「お兄ちゃん大丈夫? こんな寒いのに汗びっしょりで、呼んでも景色見たままボーッとして全然反応しないし、具合悪いの?」


 栞の声で現実に引き戻される、今はレインボーブリッジの上、東京のビルが立ち並ぶ景色が見える。


 何分、何時間、俺はボーッとしていたのだろう、興奮していたのか寒さは感じていない、むしろ暑い、俺は秋風そよ吹くレインボーブリッジの上で汗だくになっていた……そんな姿の俺を見て栞がハンカチで額の汗を拭ってくれる。


「お兄ちゃん高い所苦手だっけ? 飛行機苦手だし無理してくれてた?」

 飛行機は魔の十一分の本を読んで以来苦手になっただけ、だから高い所は別に苦手じゃない、むしろ好きだ…………誰だ! なんとかと煙は高い所が好きって思ったやつ!


「いやごめん、ちょっと考え事しちゃって、大丈夫だよ」

 あの時以来こんな考えが時々俺を襲う、俺はあの時からどうかしてしまったんだ、それだけ俺にとって衝撃的な出来事だった。


 俺はあの時から、あの旅行の時から、あの温泉で、長野のホテルの温泉で栞と裸で抱き合った、あの時から……


 俺は栞の事を……


 栞の肌の感触が、ダイレクトに伝わった胸の感触が、柔らかさが、暖かさが、冷たさが、あの時の事が忘れられない、あの時の感触が忘れられない、あの時の快感が……忘れられなくなっていた。


「そろそろ行こうお兄ちゃん」


「あ、ああ」

 そう言うと栞は再び俺の腕にしがみつく、胸を押し付ける様に俺の腕にしがみつく、あの感触をもう一度味わいたい、でもそうなった時、俺は耐えられない。


 だが我慢しよう、いや我慢しなければ、耐えなければ、今はこれで……これだけで。




 レインボーブリッジを渡りきり、お台場海浜公園に行く、海岸沿いを二人でゆっくり散策、途中にあったお洒落な喫茶店でお茶をして、ビーナスフォートで買い物をした。


「じゃあお兄ちゃん」


「ん?」


「そろそろ帰ろうか」


「え? もう?」

  これからじゃないのか? 大人デートだろ? もうすぐ夕方、この辺なら景色のいい場所はいくらでもある、なんならあの観覧車で…………ってなんだ俺、栞とキスでもするのか? するつもりだったのか? そんな期待を抱いていたのか? いや……でも……


「うん……お兄ちゃんなんかレインボーブリッジから様子おかしいよ? 私とのデートで悩んでるみたいな」


「そ、そんな事は……」

 やっぱりバレる、栞は俺の事を何でも分かる、でもこの事だけは、これだけは隠さないと、俺がそうだと知ってしまったら、栞なら間違いなく俺に身体を委ねる、そうなったらもう歯止めが聞かない、俺は絶対に耐えられない。


「ううん、良いの、平気だよ、それにお兄ちゃん人混み好きじゃ無いしね、お家に帰ろう、お兄ちゃんの好きなまったりティータイムをしよう、帰るだけでデートは続くよ、今から家デートをしようよ」


「栞……」


「ね? お兄ちゃん」


「うん、そうだな……今のコーヒーあまり美味しく無かったしな、栞のコーヒーが飲みたくなったよ……じゃあさ、それじゃあ美味しいケーキを、とびきり美味しいケーキでも買って帰るか!」


「やった、大人買いだね!」


「いや、大人買いってどんだけ食べるんだよ、大人の味で良いだろ、ビターチョコケーキとかさ」


「えへへへへ、大人の味、お兄ちゃんとの甘い一時にピッタリかも~~~~」


「甘い一時ねーー、まあいいや、えっとこの辺にあるかな? 帰る途中に有名店があったような」


「よし行こうお兄ちゃん、美味しいケーキを買って帰ろう、美味しいコーヒーは私が入れるからね」


「いつもので良いよ……いつも入れてくれる栞のコーヒーが飲みたい、俺の大好きなコーヒー」


 大好きな人が入れてくれる大好きなコーヒー、大好きな日常、それが俺にとっての一番の幸せなんだ。


 この日常を壊したくない、だから俺は栞を妹を守る……俺の手から俺の悪魔の心から……

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