53-13 生徒会長選挙


「痛そう……」

 ソファーに腰かけている俺の前でしゃがみ俺を見上げながら頬に手を当てる妹、少し冷たい妹の手が頬に触れる、ああ……気持ちいい……


「取り敢えず、氷タオルと冷却シート持ってきた、シップの方が良いのかな?」


「大丈夫だよ、もうだいぶ痛みは消えたから」

 そう言って冷えたタオルだけ受け取り頬に充てる。


 今日は俺の帰りが早かったせいか、お茶の準備の途中だったらしく、コーヒーはまだ入れていない、お菓子だけテーブルに置いてあるリビングで妹は俺を心配そうに見つめている。

 ちなみにお菓子はシフォンケーキ、ホールで真ん中に生クリームが入っていてテーブルにドンと置かれている……旨そう。


「お兄ちゃん……誰がやったの? 言って、言うって言ったでしょ? 会長選挙の関係者? まさか生徒会室に出入りしている人?」


「いや違うよ、本当に大丈夫だから、あ、コーヒー飲みたいな」


「お兄ちゃん! 私真剣に聞いてるんだよ? 言って! 誰がやったの!?」


「言ってどうするんだ?」


「もう二度とお兄ちゃんに手を出させないようにする!」


「えっと……どうやって?」

 ま、まさか本当に……殺……


「お兄ちゃんに近づかない様に監視をつける」


「は? え?」

監視? は? 俺の妹は何を言ってるんだ? 


「大丈夫、皆にメールで○○を交代で監視してって送ったら一人30分交代でずっと出きるから」


「は? え?」

 30分交代? あれ? 俺の感覚がおかしいのかな? 妹が何を言ってるのか全然分からない……


「200人位で足りるかな? 30分の200人で6000分、100時間だから4日に1回でしょ大丈夫だよね? もう少し増やして週1回の方が良いかな?」



「いやいやいやいや」

 そう言うこと? あまりにとんでもなさ過ぎて、理解するのに時間がって……なんか恐ろしいこと言ってるんだけど、この妹……要するに1週間に1回なら誰でも協力してくれるでしょ? って事で24時間監視を付けると言ってる、いや、深夜もあるから無理だろう……でも妹の友達ならならやりそう……


「学校の人ならクラスの協力者を探せばもっと簡単かなぁ? で、お兄ちゃん、何年何組の人?」


「そ、そんな事言えるか!」


「ふーーーん、やっぱり学校の人なんだね、手の跡を見ても女の人……」


「う!」

また鎌をかけられた……俺の事となるとこの妹はヤバい、推理力は忘却探偵どころじゃない……


「今手伝ってる生徒会の人じゃない……お兄ちゃんを叩くうちの学校の女の人……、今お兄ちゃんに言い寄ってる人は生徒会メンバー以外には居ないし……」


「居ないって……なんで断言する……ま、まさか栞、俺に監視を!」

怖! さっきの監視って俺にも付いてるんじゃ? だから玄関の扉を開けるタイミングも!!


「えーーー? お兄ちゃんに監視なんて付けないよーー」

 妹はケラケラと笑いだす、そんな事するわけないじゃないと。


「あはははははは、そ、そうだよな」

 さ、さすがにな……


「そんな楽しいことを他の人にやらせるわけないじゃない、私が自分でやるよ~~~~」

 ケラケラと笑う妹……でも目は冗談ではなく本気の目で言う。


「……」

 そうだった……妹こそが俺の監視員……ストーカーだった、妹はストーカー……新作書いたら? (それ、ボツになった奴です)



「学校で私の情報網に引っ掛からないでお兄ちゃんにちょっかいを出す人……2年……いや……3年生か……」


 ヤバいヤバい、狭まってきた、どんどん近づいて行く、ど、ど、どうしよう……


「お兄ちゃんが言わないなら、3年の知り合いにメールを」

 妹は携帯を取り出す、ああああ、ヤバい……バレる、妹の情報網なら雫の姉が澪で3年の女王って事なんかすぐだ、昨年生徒会長選挙で澪が出ていることも時期的にバレるだろう……


「えっと…………し、栞、これ実は……美智瑠がやったんだ」


「え? えええええええ?」


「いや、ちょっと俺がつまずいて美智瑠の胸を掴んで……そしたらバチーーーンって」


「えええええええ!」


「セクハラ紛いだったし、ちょっと言えなくて、ごめん」


「………………そうなんだ、それなら言ってくれれば、お兄ちゃんラッキースケベだったんだね」


「ラッキーって……」

 ああ、嘘をついてしまった……妹には嘘をつきたくないんだけど……


「じゃあお兄ちゃんの自業自得って事なんだね?」


「う、うん」


「そか……まあ美智瑠ちゃんもそれだけ強く叩いたんだから気が済んだかな? 美智瑠ちゃんエッチな事苦手だもんね、お兄ちゃん私の胸ならいつでもいいよ、私は叩かないからね」


「いやいやいやいや、触らないって」


「でも……さっき私を羽交い締めにしたとき思いっきり触ってたけどね」


「えーーーーーーーーーー!」


「えへへへへへへへへ、じゃあコーヒーいれるね~~」

 妹はそう言うとキッチンに向かって行く、とりあえず誤魔化せたか……やはり本当の事は言えない……嘘はつきたく無かったが、言ったらどうなるか分からない、栞と澪の全面戦争、最悪1年と3年の女子の戦争になるかも……


 冗談ではなく、妹ならそしてあの気の強い澪なら十分あり得そうで俺は身震いした。


 「とりあえず……美智瑠に口裏合わせてもらわないと……何て言おうか」

 後でメールをしようと思ったが何て言おうか悩む、嘘をつくと更に嘘を重ねないといけなくなる、罪悪感とめんどくささ、嘘は本当に嫌いだ……


 とりあえず妹はなんとかなった、後は澪……そしてその前に雫と話さないと……

 

「ああ……気が重い~~~~」

 俺の日常はいつになったら帰ってくるんだ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る