53-12 生徒会長選挙

あの雰囲気の中会議出来るわけもなく、本日の活動は辞めようとしたが……


「もう時間があまりない、取り敢えずチラシやポスター作らないか?」と美智瑠が提案する。


「うん……そうね、ありがとう、それじゃ準備します」

 会長がそう言って立ち上がり、ロッカーからマーカーやら紙やらを取り出し作業の準備を始める。


 濡らしたハンカチを頬に充てながら俺も手伝おうとしたが、麻紗美がニッコリと笑って言った。


「そんな顔でぇ作業したらぁ気になってぇしょうがないよぉ、裕はぁ今日は帰りなぁ」


「いや、でも……」


「僕達は僕達の仕事をやる、裕が自分で言ったんだぞ、雫ちゃんと二人で澪さんを説得するって、裕は自分の仕事をやればいい、いや……やらなきゃいけないんだ」


「うん、私たちがぁ頑張ってもぉ、澪さんの協力がぁないとぉ勝てないよぉ、だからぁ私達の協力がぁ無駄にならない様にぃ、裕はぁ説得を頑張ってぇ」

 

 確かに3年の票が入らなければ絶対に勝てない、地道にポスターやチラシ、登下校で演説や挨拶をしても3年生に票を入れて貰うのは難しいだろう……

 俺は少考しここで作業しても色々考えてしまい何も手につかない、居ても余りプラスにはならないだろうと判断し、今日は言われた通り帰ることにした。




 俺は家に向かって歩きながら幼稚園の頃の雫をうっすらとした記憶の中から思いだそうとした。


 某吸血鬼の様に頭の中に手を突っ込んで思い出せたらいいんだが、生憎不死身ではないのでそんな事をしたら死んでしまう。


 なんとか幼稚園の頃の記憶を掘り起こしながら家に帰る。


 「うーーーーーん、雫ねえ……雫、雫、しずく……しずく、しずか……しずかに……しなさい………………あ」


「そうだ! 思い出した」

 俺は唐突に思い出した、いや逆に思い出せなかった事を思い出した。


 この間雫と会った時に、幼稚園の頃の雫とあまりにも違い過ぎて思い出せなかったんだ、と言うことを思い出した。


「そうだ……雫って……小さい頃は物凄く明るくて、お喋りで、先生にいつもしずかにしなさいって怒られてた……」


 あんなうつ向いて下ばかり見ている子じゃなかった……妹は今と同じで幼稚園の時も明るくて友達が一杯いた、そして雫は妹よりも更に明るくて良くしゃべる子だった。

 

 だから妹と雫の二人は幼稚園で双子だと思われたんだ……


 しかし今は似ても似つかない……暗い性格、人見知り、いつもうつ向いてばかり……妹と正反対の性格。


 顔は今でも似ている……でも……


 前髪は長く顔を隠すようにし、更にうつ向いてばかり居るため、誰も似ているなんて思わない、同じ学年に居たのに生徒会室に来て名前を言われるまで俺も気が付かなかった……


 俺達と雫は幼稚園を卒園して違う小学校に通った、学区が違う為だけど、そんなに遠いわけではないはず、それなのに高校迄一度も会う事はなかった。


 そしてその会わなかった9年の間に雫の性格は真逆になってしまった……


 それが姉、澪の影響なのかは分からない……だが、今日の様子を見ると少なからず雫の性格が変わった原因の一つの様な気がする。


「初瀬川 澪……」


 俺の記憶では、バレンタインのチョコを貰った後に一度だけ会った、幼い頃に一度だけながらその出会いは強烈で今でもはっきり覚えている。


 「確か……あんたのせいでって言ってたような?」

 あれは卒園式間近だったかな? そう言って突然殴って来たんだっけかな?

 物凄い形相で俺に掴みかかって来た、何発か殴られて俺は訳も分からずに逃げた。

 当時は幼稚園と小2、女子は成長も早いので俺よりも凄く大きく見えた。


 相手が女子でもやり返す事は出来なく、無我夢中で逃げた記憶がある。


「今日もそうだけどなんで俺を……」

 ほっぺがまだヒリヒリする……


 家の前で叩かれたほっぺたを擦りながら扉を……


「お兄ちゃんお帰り~~~~~」

 相変わらずドンピシャのタイミングで玄関の扉を開ける妹、本当に匂いなの?

俺何処かに発信器とか付けられてるんじゃない?



「ただいま」


「お、お兄ちゃん! どうしたの、そのほっぺ」


「え? あ、いや……」

 あああ! し、しまった……そうだった、妹にこのほっぺたの事、なんて言うか考えてなかった。


「手の跡……誰かに叩かれたの!」


「あ、いや……まあ」

 俺がそう言うと妹は玄関から飛び出し外に出ようとする、スリッパで……


「ちょ、ちょっと栞!」


「何処? お兄ちゃんを叩いた奴は!」


 そう叫びながら外に飛び出す妹を俺は慌てて押さえる。


「お兄ちゃん! 誰なの! 離して! そいつ殺せない!!」


「いやいやいやいやいや」

 何物騒な事を言ってるんだ!


「落ち着け栞!、ここには、この辺には居ないから!」


「何処? 学校?! お兄ちゃんを叩くなんて絶対に絶対に許さない! 誰なの! お兄ちゃん!」


「分かった、話すから落ち着け、取り敢えず中に入ろう」

 俺は妹を羽交い締めにしてズルズルと家に連れ戻す。



 ど、どうしよう……正直に言うべきか……言ったら澪と妹の全面戦争になるかも知れない…… 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る