53-7 生徒会長選挙

 明日から始まる選挙戦、妹と戦う事になったわけだが、一番の心配はこれから家での過ごし方だ。


「栞はやっぱり嫌だろうな……」

 俺が会長側に付く、実の妹を差し置いてだ、そりゃ多少は裏切られたとかって思うよな。

 今まで妹と喧嘩をした記憶がない、常に俺の味方で居てくれ、いつも見守ってくれている様に感じていた……まあ、行き過ぎてストーカーみたいになってたけど。


 そう言えば、俺が親に何か買って欲しい物があった時によくさりげなくフォローしてくれてたよなー「私もお兄ちゃんの言ってたゲーム欲しい」とかって……


 小さい頃は偶然だなって思ってたけど……


 いつも俺の味方で居てくれて、常に俺を立ててくれて、俺に我が儘を言わず、そして……俺の事を好きで居てくれて……


 そんな妹を今回敵に回す、そんな妹を裏切って会長側に付く……


「ううう、気が重い……顔には出さないだろうけど、栞……怒ってるよな」


 家に着き重い気持ちのせいか玄関の扉も重く感じ…………軽!


「お兄ちゃん! お帰り~~~~~」


 俺が扉を開けると同時のタイミングで妹が扉を開ける……


「お、おい栞、俺じゃなかったら危ないだろ、ちゃんと誰かを確認してから鍵を開けようよ!」


「え? 私がお兄ちゃんと他の人を間違える分けないよ?」

 何言ってるの? という顔で俺を見る妹……いや、まあそうなんだろうけど、俺が帰って来るのが匂いで分かるとか……しかも今日は偶然なのか分からないが扉を開けるタイミング迄同時とか、もう何この超能力?


「いや、まあ、でも……もしもって事があるだろう」

 可愛いし、スタイル良いし、有名人だし、ストーカーに狙われかねない。


「大丈夫だよ! ほらお兄ちゃん、良いから早くお茶にしようよ~~」


「ああ、うん」

 俺の手を引き楽しそうに玄関を上がり、階段で背中を押して着替えるように言われそのまま部屋に行く。


 選挙の会議で遅くなったけど、妹はお茶の準備をして待っててくれた。

 いつも通りの妹……でも……内心は……

 なんだろうこの感覚……うーーーん、よく分からないこのモヤモヤした感覚……しいて言えば……不安?

 

 何でこんなに不安なんだろうか? そう思い首を捻りながらいつもの通りにリビングへ。

 

 またもやドンピシャのタイミングでコーヒーとお茶菓子が用意されている。


「これは?」

 何かヨーグルトの様な白い物の上に茶色いココアパウダーがかかっている、えっとなんだっけこれ?


「ティラミスだよお兄ちゃん」


「ああ、そうか」

 言われてみるとそうだ、四角く切られていなかったので一瞬なんだか分からなかった。


「クリームチーズと生クリームで簡単にできちゃうんだよティラミスって」


「へーーそうなんだ」

 ソファーに座ってコーヒーの前に一口、クリームの食感、市販の物よりフワフワとろける口触り。


「うん、旨い」

 いつも通りに俺好みで甘さ控えめに作られていた。


「えへへへ」


 俺が食べると妹も一口、ティラミスを口に入れニッコリと笑うその顔を見てホッとする、いつもの時間、いつもの妹。


「えっと……ごめんな……」

 ティラミスをもう一口食べ、コーヒーで甘さを流してから俺は妹を見て言った。


「ん? 何が?」

 ティラミスを口に入れスプーンを咥えたまま妹がキョトンとした顔で返事をする。


「いや……その……今回、栞を敵にする様な状況事をしちゃったから」


「私の敵?」


「え? あ、いやほら……今回の会長選挙で俺は、会長の応援に回っちゃったから」


「ああ……うん……そうか~~お兄ちゃんは私の敵になるのか」


「ああ」

 なんだ? この全く敵と思ってないというか、眼中にないというか……それほどまでに自信満々なのか?


「うーーん、そうだね、お兄ちゃんは今回私の敵になるんだね」


「うん……なんか俺なんか眼中にない感じだな」

 まあ……そうなんだろうけどな……俺なんかじゃ妹の相手にならないだろうから

 心ではそう思っても兄としては胸中複雑な思いになる。


「えーー? うんとねお兄ちゃんが私の眼中に無いわけないじゃない、私の目にはお兄ちゃんしか見えてないの! 後はね、お兄ちゃんは私を敵と思ってるのかもしれないけどね、私はお兄ちゃんを敵なんて思わないから」


「え?」

 眼中にはあるけど、敵とは思っていない? それってどういう事をなんだ?

 そう聞こうとした瞬間妹が先にその答えを俺に言った。


「お兄ちゃんがたとえ私の事を嫌いになっても……私の事を憎んだとしても……私は、お兄ちゃんの敵にはならない……お兄ちゃんが私を敵と思っても私はお兄ちゃんの味方で居続ける、世界中がお兄ちゃんの敵でも私はお兄ちゃんの味方、死ぬほど辛くても、死ぬほど悲しくても……私は……お兄ちゃんの味方で居続けられるの……」


「栞……」


「お兄ちゃんが誰の味方をしてもいい、私の事を敵と思ってくれてもいい……でも一つだけお願い…………今日みたいに帰ってきて……最後には…………私の所に帰ってきて……ね?」


「…………うん」

 そう言うと妹は笑顔で俺を見た、でもいつもの様な満面な笑みではなく、少し儚げな、少し悲しげなそんな微笑みで俺を見続けていた。

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