51-12 妹の座争奪戦


 今日は土曜日、学園祭まであと二週間、個人的な準備の為に俺と妹と美月の3人で日暮里に来ていた。


「繊維街?」

 そこは繊維街という名前が付いている通り、様々な布やらボタンやらの店が建ち並んでいた。


 「昔から生地とかソーイング関係の問屋さんが多かったからそう呼ばれてるみたい、今はコスプレ関係のお店とかもあるね」

 長野出身の美月に東京の事を教わるって一体……


「学園祭でコスプレするの?」


「うーーんコスプレと言うか衣装だね、作るんだよ」


「作るの?」


「うん、美月は元からある物を改造するだけだけど、お姉ちゃまはロックミシン持ってるから全部作れるし」


「ロックミシン?」

 俺は妹を見てそれが何か聞いてみた。


「かがり縫いとか出来るんだよ」


「まず、かがり縫いが分からねえ」


「えっとね、生地の縫い代の端を始末するの、ほらこういうの」

 妹は履いていたスカートの裾を持ち上げ俺に見せる、ちなみにミニスカート……やーーめーーてーーーー


「捲るなって」

 パンツはギリギリ見えないけど、太ももがかなり上まで……ああ周りの視線が気になる、ほらそこの男が電柱にぶつかってるし……


 スカートの縫い代の部分は数本の糸で規則性があるような縫われ方をしていた。

 て言うか、女子のスカートの裏地とかってなんかドキドキしちゃうよね……え? しない?


「他にもニットとか伸び縮みする生地を縫う時とかに使ったりするの」


「へーーーー」

 まあ要するに特殊縫い方をするミシンね、


「お姉ちゃまは型紙から作れるから、美月には無理~~」


「型紙?」

 型紙とは? 次から次に知らない言葉が出てくる……俺は再度妹を見て聞いてみる。

 ちなみに妹は俺の右隣でいつもの様に俺の腕を抱いて歩いている。

 今日の妹の格好はピンクのニットにチェックのフレアスカート、シンプルで可愛い。

 そして左隣で手を繋いで美月が歩く。

 美月はいつも通りのゴスロリファッション、コスプレの街らしいがあくまでも材料を売っているだけで、コスプレして歩いている奴は居ない……なので少々目立つ、まあ美月と妹二人揃えば嫌でも目立つけどね、滅茶苦茶可愛くて、そして両手に花の俺が浮く……うん知ってる、ほっとけ。


「うん、服の設計図みたいな物かな~~紙に書いてそれを切ってその形に布を切るの、そうそう私言って無かったけど、お兄ちゃんの服も何枚か型紙から作ってるよ」


「へ?」


「お兄ちゃんが今着てるそのシャツも私が作ったの~~」

 突然とんでもないことを言い出す妹、は? 作った?


「これ? 栞が作ったの?」


「うん!」


「えええええええええええええええ!」

 何の変哲もない普通の白いシャツ、でもなんか凄い着心地が良いから結構お気に入りのシャツなんだけど……マジか……


「それ着やすいでしょう? 実は私特製のオーダーメイドだからね~~」


「いやいやいやいや、いつの間にか部屋にあったから母さんが買ってきたのかと、そういうのは言ってくれ」

 シャツを捲って洗濯タグを探すがない……マジか……あ、ちなみに下にTシャツ着てるから道端で腹出してる訳じゃないから。


「えーーーだってお兄ちゃんにどんどん着て貰いたいから~~実は他にもなん着かあるよ」


「なん着……また勝手に部屋に入ってそっと置いたのか……いやそれにしたって……」

 こわ! うちの妹怖い……いつからあったっけこのシャツ、1年位前からあったような……いやそれより型紙から作ったって俺のサイズをいつの間に? 


「高校入学迄お兄ちゃんの事好きなの隠してたからね~~プレゼントでもないのに服なんて作って渡してたらバレちゃうって思ったし、それにお兄ちゃんの誕生日でシャツってなんか普通? って思ったし」


「いや普通のシャツって、これ結構着やすいしぞ、俺にとっては特別だよ」

 今年貰った制服のブックカバーより全然良いんだが……いやブックカバーも使いやすいけど色々と重い……


「えへへへへ、じゃあこれからもどんどん作るね~~」


「いや、ありがたいんだけど、程々にしてくれ……あと作ったら言ってくれ」

 後から聞くと心臓に悪い……


「今は冬のコート作ってるの~~楽しみにしててね」


「えっと…………はい……」

 せっかく作ってくれているのを無下に断る分けにもいかないし、て言うかコートってシャツより遥かに難しいんでは?……どんだけ凄いんだうちの妹は……


「お姉ちゃま美月にも今度教えてね」

 負けず嫌いの美月が素直に教えを請う。


「美月は作れないの?」


「うーーん本で読んだけど、やっぱり実際に作るとなるとね~~生地は真っ直ぐ切れないし、ミシンは歪むし」

 

「なるほど」

 知識があっても技術が伴わないか、そこはやっぱり経験とか必要だもんな、天才美月に今一番必要な物か……なるほど婆ちゃんがあまり美月に手を貸さない、好き勝手にやらせているのはそういう理由何だろうか?

 

「うんいいよ美月ちゃん、今回の衣装一緒に作ろっか」


「本当! ありがとうお姉ちゃま、あ、着いた」

 安売りで有名な生地屋に到着すると二人は俺から離れ楽しそうに色々な生地を見始めた。


 

 一応今回美月とはライバル同士だけど一緒にやることを快諾する妹、度量が大きいのか? 美月を敵と思ってないのか?


 違うか……美月なら負けても良いと思ってるのか?


 争っているのは妹の座、妹は勝たなくても俺の妹何だから、もし勝ちを譲るとしたら美月しか居ない。


 この勝負に美月が勝てばをこれをきっかけにこっちに住む事になるかも……少し意固地になっている美月の背中を押す事になるかも知れない。


 ひょっとしたら妹はそう思って美月と一緒にやるつもりなのか?


 俺はそんな事を考えながら生地を探す二人を眺めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る