48 葵と蛍


「にいに大好き!」


 いつもそう言ってくれる妹


 妹は僕の2つ下、母譲りの美しい金色の髪、フランス人形の様な目鼻立ち、最近国際化が進んでいる日本でも、この田舎では異質な存在だ。


 僕は兄として、妹を守る義務がある、妹を誹謗中傷、いじめから守らなければ。


 僕は常に妹と一緒にいた、妹と共に行動した、いつも僕の目の届く範囲で妹を守っていた。


 そんな妹から言われた一言。


「ねえにいに、にいにのお嫁さんにはどうやったらなれるの?」


 小学4年にもなって言われるとは思わなかったそのセリフに僕は少なからず動揺した。


「えっと、兄妹は結婚できないんだよ?」


「何で?」


「僕と葵は血が繋がってるからだよ」


「でも私はお母様にそっくりで、にいにはお父様にそっくり、お母様とお父様さまは結婚出来て、私とにいにはどうして結婚出来ないの?」


 今まで妹のお願いは大抵何でも叶えて上げた、妹は僕が何でも出来るスーパースターだと思っている、そんな妹に僕は出来ないなんて言えなかった、だからこう言ってしまった。


「えっと、お父様とお母様は大人だからできたんだよ、僕と葵はまだ子供だから」


「子供……どうやったら大人になれるの? にいに葵を大人にして?」

 大人にしてって!……変な意味じゃないよな……えっとどうしよう……



「大人にって……えっと……そうだ葵が毎日僕のほっぺにチューをしてそれが2000回になったら大人になれるよ」

 大体5年後位か、葵は高校生なる頃そこまでには分かってくれるだろう、僕はそう思い言ってしまった。


「にいに~~今日の分だよ~~」

 そう言い毎日葵は僕のほっぺにキスをしてくれる、可愛い妹が僕に……僕は葵をどんどん好きになっていってしまった、愛しい愛しい葵……僕の妹……



 そんなある朝、目が覚めると葵が枕元にいた……怖いよ……


「ん? 葵どうした? 起こしに来てくれたのか?」


「ううん、にいにのほっぺにチューしてたの」


「俺のほっぺに……」

 確かに感触がってなんだ? ぬるぬるしてる……

 朝方だろうまだうす暗い、葵の顔がうっすら見える……そして眠気がだんだん冴えて目が暗さに慣れてくる


 葵の顔がはっきり見えて…………!!


「にいにおはよう……」

 そう言って笑う葵の口は血まみれだった……


「葵どうした!」


「何がにいに?」


「口の回りが……」


 葵が口をペタペタと触って確かめる。


「にいにのほっぺに一晩中チューしてたら切れちゃったみたい」

 えへへと笑う血だらけの葵……吸血鬼が血を吸った後の様な恍惚とした表情


「何でそんな事を……」


「だってにいにのお嫁さんに早くなりたいんだもん、早く大人になってにいにのお嫁さんになるの、だから……」


 そう言った葵を僕は抱き締めた……


「にいに? どうしたの」


 この愛しい妹に僕はその時本気で好きになってしまった……


「今1632回チューしたから、あと321回だよ、にいに、にいにのお嫁さんになったらお母様とお父様の様みたいにお口にチューしていいんだよね、あとベットで一緒に寝てもいいんだよね、葵楽しみ」


「えっと……」

 僕は戸惑いの表情を浮かべてしまった、そして一日一回と言うのを忘れていたことに気がついた、このままだと来年中学に入ってすぐに僕は葵と……

 

「にいに? 違うの?」

 僕の表情に葵が気が付き聞いてくる……僕はやはり嘘だ、間違いだとは言えなかった。


「いや、そんな事は……」

 

「じゃあ……にいに葵の事嫌いなの、結婚するの……嫌?」

 泣きそうな顔の妹を僕は抱き締めて言った。


「葵の事を嫌いになるはずないじゃないか、好きだよ、大好きだよ、葵……愛してる」


「にいに……葵も好き……」


「でも葵のお口も大切だから、もうこんなにしちゃダメだよ」


「うん!」


 そして僕は葵のキスの回数が達する前に、僕がこれ以上葵にのめり込む前に、スイスに逃げる様に留学した。




 ###



「って言うのがお兄さまがスイスに行った理由だって、笑っちゃった、私超可愛いけどお兄さまバカだわ~~やっぱり嘘は良くないって事よね」


「えっと会長、スイスに行った時のにいにの話しより、昼休みに突然教室に乱入して、俺の前に座るや否や、豪華なお弁当を広げ、長々と話した挙げ句、あーーんをしてくるこの状況の説明がまず欲しかったんですけど……」


「ほらお二人もあーんをしとるではないですか、我々もあーーんをしましょう栞氏、ささ、あーーーーん」

 俺の隣にいる栞の横に寄り添う様に座るセシリーが栞にあーーんを要求している……何このカオスな状態


「しないから、お兄ちゃんもしちゃダメ」

 栞がセシリーのあーーんを拒否しながら俺と会長にも言う


「しねえよ、て言うか会長は戻って来たのはまだ分かる……、でも何でセシリーが? そもそも飛び級してるんだろ?」


「わたし? そりゃ日本の宝、いや世界の宝がここに4人もいるんでっせ、お宝ハンターのセシリー様がここに来なくて何処に行くと?」


「4人?」


「栞氏に美智瑠氏に麻紗美氏に葵氏ですがな」


「会長もかよ」


「何を言ってるウサギさん、そもそも私が葵殿に一目惚れしたからこそ今ここにいるんじゃないですがな、ちなみに西洋ではウサギはそっち方面のシンボルでhang Like a rabbitって言うのはいつも盛ってると……」


「言わんでいい……」


「まあ会長さんついてはお国の事情で色々あるんで、私が同じ高校に通いたいと言ったら父が協力してくれたデスよ、そもそも日本に飛び級制度はないので私の年だと高校1年でさかい、なんも問題あらへん」


「いやその指……OKじゃなくてお金のサインだろ……」


「あら、お兄さんはこっちの方がお好きで?」


「そんな下品サインをするんじゃない!」


「まあ、とりあえずわても長谷川ハーレムに入って、お兄さんの相手をつまみ食いしに来たとそう言う訳ですよって」


「そんな組織は存在していない……なんだつまみ食いって」


「なんなら、わてもつまみ食いしてもよかですよ」

 青い瞳、妖しい目付きで俺を見るセシリー、一見何を考えてるのか分からないその飄々とした態度


「しねーーから……」

 俺はそれだけ言って弁当を頬張る。


 会長が帰国し、セシリーが転校して来て早速昼休みからこんな状況……ちなみに俺の隣の麻紗美は我関せずで一人黙々とお弁当食べている……本当にこういう所すげえよな……麻紗美は嫌な事は徹底して逃げる、意識を失ってでも……


 あの特技、俺にも教えてください、麻紗美さん……出来れば今直ぐに……







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