47 会長は永遠に……


 俺は部屋を飛び出し、エレベーターも使わずに階段を駆け降りた。


 入り口には、俺と同い年位の男が立っている、自動ドアを開けるとその男はゆっくりと近づいてくる。


「長谷川 裕さんですね、妹を……葵を迎えに来ました」


「本物か?」


「はい……那珂川 蛍です……」


「なんでここに?」

 そう何故葵がいることが分かったのか、そしてあのマンションではなく、なぜここに来れたのか……


「一昨日、とある方が私の所に来ました、ここに妹が居ると」


「とある方?」


「一応名前は伏せるように、それが条件だったので……」


「副会長……市川瑞希でしょ?」

 俺の後を追って来た美月が後ろから副会長の名前を言った。


「そうなのか?」

 俺は美月を見て再びにいにの顔を見る。


 にいには眉一つ動かさず表情も崩さずに俺を見つめ返し言った。


「それが条件だったので……すみません」

 しかし、それが、そのセリフ自体が肯定しているという事は言うまでもなかった。


「何故今まで?」


「恥ずかしながら、妹は死んだと騙されておりました……」


「それは誰に?」


「まあ、聞かない方が、言っても仕方ありませんし」


「お兄ちゃん」

 妹の声が聞こえる、俺は再び振り向くと妹は会長を連れて降りてきていた。


「葵……葵……」

 にいにの冷静だった声が突然嗚咽混じりに変わった、俺は振り向きにいにを見るとその目から涙が溢れている。


「葵!!」


 俺を突き飛ばす様に、にいには走りだす、そして葵に抱きついた。


「葵! 葵!! 良かった、生きていてくれて、良かった!! あおいいいいい」


 会長はボーーっとしていた、にいにに抱きつかれて嫌がりもせず、逃げもせず、ただボーーっしている。


「ごめん、ごめんよ葵、寂しかっただろ、もう一人にはさせない、一緒に居よう、葵!」


 ボーーっしている葵、顔も表情も変わらない、俺は一瞬駄目かと思った。


 今、葵のにいには俺だから……


「葵!」


「きゃああああああ!」


 いつの間にか全員が下に降りてきていた、俺達が見つめるその先、にいには俺達の存在を無視するかの如く、葵に……キスをした!!


「ええええええええええええええ!」

 女子の歓声、そして妹にキスをするにいに……え? なに?……この状況……


 そしてキスをされた葵……その葵の目から涙が一粒落ちた。


 そして……葵はにいにを………………ぶん殴る……ってえええええええええええ!!


「なに……、なに、すんだ、バカにいに!!!」


 もんどりうって倒れこむにいに……ひええええええグーパンだよグーパン


「勝手にスイス留学ってなんだよ!!、酷いよ!! 私の事好きって言った癖にいいいいいい」


「ごめんよ葵」

 葵に殴られた頬を押さえ、にいにが泣きながら葵に謝る。


「やだ、許さない、絶対に…………ゆる、ゆるさないん…………だからああああああああああ」


 そう言うと会長は倒れこむ、にいにに抱きつき号泣する。


 にいにはその葵を抱き止め金色の髪をゆっくりと撫でていた。



 ###


 落ち着いた所で先生の家に入って貰い詳しく聞いた。


 にいには葵が……実の妹が自分になつきすぎる、そして自分も葵の事が段々と……、中学になると同時に兄妹離れをしないと、今後自分が葵と、どうなるか怖くなったそうで……それを危惧して留学したいと言った所、自分の出生の秘密を聞かされたそうだ。


「祖父は母に悪い事をしたと、僕は祖父の紹介でスイスの学校に、そこで震災を知りました、すぐに駆けつけようとしたんですが、止められました、代わりに行った物が全員死んだと報告が、祖父はそのショックなのかそれからすっかり元気がなくなり、実質家の事は他の者に任せるように……、僕はそれ以来監視をされ、こちらに来る事が出来なくなりました……」


「そして一昨日妹の所在が明らかになり、僕がそれを祖父に報告し嘘の報告をしていた者を祖父は処分しました、そして僕の監視は解かれ急ぎこちらに」


「だってさ」

 俺は会長を見て機嫌を直せと促す。


「ふん……」


「あおい~~」


「にいになんて嫌い!」


「葵……」


「ずっと、ずっと許してやらないんだから、だから、ずっと、ずっと私に、一生をかけて永遠に謝り続ける事……、分かった? にいに!」


「永遠にって……うん……分かった、ごめんよ」

 二人が納得? いった所で、凄く気になる事を聞いてみた。



「ところでさ、会長って今はどういう状態なんだ?」


「え?」


「えっと……俺達の事覚えてる? 副会長は? 自分が会長って分かる?」


「えっと、うーーーーん、なんとなく?」


「なんとなくって……」


「記憶はあるの……ある程度だけど……、そしてなにか夢を見ていた様な、他人の事を見ていた様な……そんな感じ……色々思い出したり、色々思いだせなかったり……」


「記憶の混濁……、暫く続くと思う、でも段々と色々思い出したりするよ……人間って寝ると記憶が整理されるから」

 美月がそう言う、暫く時間が必要だと


「副会長の事は?」

 会長の6年間を奪い、そして……会長を守り抜いた女……


「ぼんやりとだけど……あの人は私に嘘をついていた、私の人生を変えた、酷い人……でも、それだけ……それ以外は優しい人だった……」


「そうか……」

 副会長が居なかったら、どうなっていたか……そんな無駄な事は考えない方がいい、今はこれからを……



「お兄ちゃま! 美月終電!」


「あ!」

 そうだった美月は今日中に長野に戻らなければ行けなかった。


「僕が送ります、外に車を待たせていますので、僕も今夜の飛行機で戻らなければ、葵も一緒に来てくれ、お爺さまに会って欲しいんだ」


「え! ……うん……分かった」


 全員が慌ただしく準備をし、皆で先生の家を出る、それぞれがそれぞれの居場所に戻る為に……


 

 大変な夏休みが終わってすぐにまた、こんな事に巻き込まれるとは……

 

 そう思いながら俺は妹と一緒に歩いていた、キャリーバックを引きながら家までの道を。


「お兄ちゃん、お疲れ様、凄いね……やっぱりお兄ちゃんは、また一人助けちゃった」


「いや、俺は全然凄くなかったよ、美月と栞、いや……皆が居てくれなかったら、何も出来なかったよ……」


「ううん、皆お兄ちゃんが好きだから、お兄ちゃんの為に協力したんだよ、お兄ちゃんが居なかったら会長さんはどうなっていたか……」


「そうかな?」


「うん、絶対にそう……」

 妹の頭を撫でながら家までの道を歩いて行く。


 そして俺は副会長の事を考えていた。


 副会長、いや……市川瑞希……あいつは一体何者なんだ?

 俺達はあいつに遊ばれただけなのか、それとも……




 ###




 そして会長が去って1週間が経ち、俺達もようやく落ち着きを取り戻してきた。


 先生は相変わらず生徒会が全員居なくなってしまった事を校長にグチグチと言われているらしく憔悴しきっていた。


 そのうち臨時会長選挙が開かれるんだろうか?


 俺と妹はそんな話をしながら、いつもの様に学校に向かっていた。


 そしていつもの様に妹への朝の挨拶、俺はついでに挨拶される……うう……たまには誰か俺に挨拶しろや!


「あら、おはよう、裕君」


「そうそう、ちょっと気取ってるけど、そんな感じ…………ん?」

 誰だ? いやどこかで聞いた事のある声、俺は振り向いてその声の主を確認する…………!


「か、か、会長!!」


「なんで幽霊を見た様な顔をしているのかしら?」


「いや、イギリスに帰ったんじゃ……」


「帰ったわよ、でもなんか私には合わなかったの~、なんか皆気取ってて、バーーカって言って帰って来ちゃった、それに、こっちの学校辞めた訳じゃないし」


「はああああああ?」


「お爺様は大笑いしてくれたわよ、お母さまにそっくりだって、お兄さまには泣かれたけどね」


「お兄さま?」


「うん、変?」


「にいにじゃないのか?」


「うん、だってにいには……あなたでしょ?」


「え、ええええええええええええええええ?」


「私の裸まで見たんだから、責任取って貰いに帰って来たのよ、よろしくね、裕にいに~~、じゃあ先生に挨拶しないといけないから、バイバーイ」


 そう言うと、会長は金色の髪をなびかせて走って行く……マジか……


「お兄ちゃん……何見とれてるの……」


「いや……」


「また長谷川ハーレムが大きくなって……良かったね、ふん」


「ハーレムって、作ってないよそんなの、おい、栞、待てって」


 ああ、俺の穏やかな日常はいつ来るのか……

 妹を追いかけながら、俺は大きなため息を一つ、ついた。






 そして俺は……教室にてさらに大きなため息をつく


「えっと……、転校生です…………」げんなりした顔の先生がおざなりに転校生を紹介する。


「はーーーい、どーもおおきに、セシリーマクミラン言います、皆さんどうか、お見知りおきを~~」




 マジか…………もう俺が転校したい……

 

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