36-1 合法!


 『ごめん、ちょっと見たい映画があったので先に帰ってて』


 送信ボタンを押して、スマホの電源を切る……別に見たい映画なんてない、ただ少し一人になりたかった……


 なにがあったか知らないが、この間羽田から帰ってきて以来、妹と美月の二人の仲が妙に良い……というか、良すぎる……本当の姉妹の様な雰囲気まで出ている……


 いや、いいんだ、仲が良いのはいいんだけど……、いいんだけど、何か結託しているような……


 もう四六時中二人の波状攻撃にあっている感じがする……、何も出来ない……

 今日も買い物に付き合わされ、下着売り場で延々キャッキャと仲良く買い物をし始める二人……


 流石にそこには居られない、ちょっと本屋にいると言って二人と別れ、デパートを出ると目の前に漫画喫茶が……ああ、ゆっくり本が読みたい……そんな欲求が押さえきれなかった。


 申し訳ないと思ったが、スマホの電源を切る口実の為に映画を見たいと嘘をついて漫画喫茶に入る。



 男ならいや、女の人も分かって貰えると思うんだけど、どんなに仲がよくても、やはり少しは自分一人の時間が欲しいんだよ……いや、身体的にって意味じゃないよ、精神的にって意味でね……


 そう言う訳で今一人まんが喫茶に来ている……ようやく来たよ読書の時間が……

 自分の持っていた本と手頃なマンガをテーブルに積み、コーヒー片手にネットを繋いでヘッドフォンから音楽を聴きながら誰にも邪魔されることなく読書の時間……


 ああ、至福の時……中学時代はこんな時間ばかりだったのに……、今こんなにも貴重な時間になるとは……


 贅沢者と言いたければ言えばいいさ……ああ、最高……




 ####




「やっべえ、5時間も居てしまった……スマホの電源入れるの怖い……」

 辺りはすっかり暗くなっていた、うちは特に門限とかないけど、あまり遅いと妹に怒れられる、もうそんな時間。

 うちの妹優しいと思うだろ?結構怒るんだよ……、まあその怒り方がまた可愛いんだけど……


 足早に駅に向かうと何やら目の前で警官と誰かが言い争ってる。


「君、中学生位だろ、お酒飲んでいるのか?」


「わらしわあ、おとなですううぅう、だからあ、飲んでもいいんですううぅ」


「そんな格好の大人がいるか!、そこまでいうなら身分証を出しなさい!」


「えーーーーなんぱああ、ざんねんでしたああ、わらしわーー好きなひとがあ、いるんですうううう」



 うわー絡まれたらめんどくさそう……そう思い横を通り過ぎる、その時制服の間からチラリと見えるツインテールの髪…………あのツインテールどこかで…………「せんせい?」


 そう言った瞬間全員がこっちを見る……あ、やべえ


「あああああああああ、ゆうくんだあああああああ」


 あああああああ、失敗した……



 とりあえず乗り掛かった船、事情説明をしたが……

「高校教師?、んなバカな…………本当に?」

 俺がうなずく……


 ニコニコ、フラフラしながら、こっちを見ている白井先生……ジャッ○メントがアン○スキルに絡まれてるって……


「先生、何か身分証持ってないの?」

 この人身分証ないと絶対に補導されるだろ……しかも私服がまた……


 大きな赤のリボンを着けたツインテール、ピンクの花柄ワンピース……身長140センチあるかないか、ヒールを履いているがたいして変わらねえ……相変わらず中学生以下にしか見えない……



「教員免許なら、持ってるよ~~」

 …………なんでそんなもん持ち歩いてるんだよ……


 とりあえず俺が先生と言った事と免許を持っている事で納得したのか、アンチス……警察の方々は去っていった。


 そして先生の方を見ると、少しでも身長を高く見せようとしているのか?高いヒールを履いてフラフラしている……

 もう見るからに危ない……俺は近寄り先生の手を取る


 その手を見つめ満面笑みになる先生……何だろう子供と手を繋いだらニッコリ笑って貰えるような幸福感が……ってこの人俺より10歳位歳上だよな?……なんかある意味美月より年下に見える……



「うふふふ、ねえゆうくううううん、飲みにいこおおよおお」

 駄目だこの人完全に出来上がってる……


「高校教師が生徒を飲みに連れていったら一発で懲戒免職ですよ……」


「え~~~免職が怖くてえ~~教師なんてやってられるかあああ」


「いやそれは駄目でしょ」


「え~~~じゃああ、なにかあ、食べに行こう~~お姉さんがあ~~おごってあげるうう」

 ドンと何も無さそうな胸を叩く先生……美智瑠といい勝負かな?


「いや、俺帰らないと……」


「ええええええ、じゃあいいもんその辺のおじさん誘っちゃうからあああ、あ、そこのひとおお」


「いやいやいやいや、なにしてんのあんた、教師が生徒の前でそんな事しちゃ駄目でしょ、ほら引いてるじゃんあの人」

 このご時世怖くてこんな小、中学生みたいな姿の女子の誘いになんて乗るわけねえだろ……


「じゃあいってくれるうう」


「本当に俺帰らないと……」

 美月と妹をおいていって更に遅く帰るとか本当に何されるか……


「うう、ううううううう、ううううううううううう、ふうえええええええええええええええええん、ゆうくんがあああああ、ゆうくんがまた私のお願いをことわったあああああああ、あんなに可愛かったのにいいいい、結婚してくれるってえええ言ったのにいいいいい」

 また始まった……繁華街で小、中学生みたいな姿の見るからに子供を泣かす俺……なにこのシチュエーション……子供泣かすとか確実にジャッ○メントが来ちゃう……まあここに居るけど……


「ハイハイわかりました、どこへでも行きますよ、行けばいいんでしょ」


「本当?」

 泣き顔で俺を見上げる……

 なにこの可愛い生物……本当に歳上?


「ハイハイ、どこへ食べに行きますか先生」

 ああ、もうどうせ妹と美月に怒られるんだから今更少々時間が遅くなってもたいして変わらねえ……


「わーーーーいいー、こっちだよおおお」

 先生は俺を引っ張って行く、まあかなりフラフラしているので支えているのは俺何だけど……


 そうして駅とは反対方向に歩いて行く、10分ほど歩くと大きなマンションがありそこに入る……マンション?


 オートロックを鍵で解除しエレベーターに乗りとある部屋の前で先生が鍵を開け中に引っ張られ入る……


「……えっと、こんな所にレストランが?……ってそんなわけあるか!!ここ先生の家じゃないかああああ」


「いらっしゃああああいい、ゆうくうん」


 先生が振り向き笑顔で俺を部屋に迎え入れる…………


 ああ、まためんどくさい事に…………



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