29-1 二人のタイトルマッチ
その後夕方まで近くの河原を散歩し家に帰る。
妹は物凄く機嫌が良くなり、俺は言ってしまったはいいが、最大のピンチになることに気がつく……
約束通りなんだが、更に約束をしてしまい、本当にヤバい事に……ギリギリ押さえられるとは言ったが、出来るのか?
「ただいま~~」
「お帰りお兄ちゃま、栞姉ちゃま!!」
玄関の扉を開けると、美月が仁王立ちで待ち構えていた。
「……いつからそこで待ってたの?」
妹が美月に問いかける。
言われて見れば帰るって連絡はしていない、つまりずっとここで待っていたと言う事に……
「そんなに待っていないよ、そろそろかなって、ってそんな事はどうでもいいの!栞姉ちゃま!!勝負よ!!」
まだやるんですか、そうですか……
そう思ったその時、美月の後ろから弥生さんが書斎から出てきて俺達に声をかける。
「ああ、栞、裕、仕事に目処が付いたから、明日あたな達の入学祝いを買いに松本まで一緒に行くよ」
「え!!」
その言葉に美月が振り返り弥生さんを見る。
「ん?美月どうしたんだい?あんたもいくかい?、先に用意しときたかったんだけど、本当に忙しくて、ごめんよ、折角だからあんた達の欲しいものにしようかと思ってね」
美月が再びこっちを見る、超涙目で…………
「美月……」
「じゃあそう言う事だから明日は出掛けないでおくれよ」
そう言って弥生さんは書斎に戻っていった。
「えっと、じゃあ勝負は明日で……っていうか明日入れなければ、ここにいるのは、あと2日で最終日は帰るだけだし、実質あと1日なんだから明後日は3人で……」
「え?お兄ちゃま達1週間居るって……」
「ああ、今週居るって意味で、実質は6日間だね」
「えええええええええええええええええ」
「いや、いくら夏休みって言ったってそんなには……」
「ええええええやだああああ」
「ごめんよ~もう帰りの新幹線も取っちゃったし、だから明後日は最後に3人で……」
「いや!!!お兄ちゃまと二人きりになりたいいいいい!!!デートに行きたいいいいい!!」
美月が俺の前で駄々っ子の様に振る舞う。
それを見た妹は俺の後ろから前に回り込み両手を広げ、おれを守るような体勢になるって、なんだこれ……
「させないよ、絶対に負けない!!」
妹にそう言われた美月は不適な笑みを浮かべる。
「つまり、明日の夜が最終決戦って事ね栞姉ちゃま!!」
「一勝一敗一引き分け、決着を着けましょう美月ちゃん」
いやいや、なんか戦闘シーンでも出てきそうなんだけど、何これ?
「お兄ちゃま!種目をお願いいたします」
二人が俺の方を注目するって、なんでそんなに危機迫ってるの?、え?ただのデートだよね、1日二人で遊ぶだけだよね?なんか命のやり取りしそうなくらいの気迫なんだけど?
「いや、そんな改まって言われても、ウーーーン、残ってるのは、将棋、動物将棋、囲碁、ガ○スターだっけ?、最後の勝負に伏せ字は嫌だな~でも確か動物将棋も登録商標だよな、じゃあそれもなー、残るは将棋と囲碁か、囲碁は正直ヒ○ルの碁を読んだ位の知識しかないんだよな~そうなると、おれ自身楽しめるのは将棋か……流行りだしな……」
「じゃあ、将棋で……」
「よし!!!」
「うん!!!」
あら、また二人ともに自信を持ってる感じ
「二人とも将棋なんて打てるんだ」
「お兄ちゃま、将棋は指すです!!」
「あ、そうなの?、でも確か手持ちの駒の場合は打つって言ったような……」
「お兄ちゃま気をつけて、ニ○生の将棋中継でそんな事言ったら、将棋は指すだ!って弾幕で埋め尽くされるから!!」
「いや、コメント書かないし、見ないし……」
「ちなみに美月は24でレーティング2400出してるよ!」
「24とか、2400とか言われてもわからんけど、なんか強そうだな」
それを聞いた妹がスマホ操作し始める
「私このソフトで五段だから」
そう言って妹はスマホのソフトを俺に見せる。
きゃにがこーーーいとか言ったりするソフトで、俺のにも入ってる、3級だけど……
段位の差が恥ずかしいので惚けてみた
「へーー、そのソフトって将棋のソフトなんだ~~?」
「え?お兄ちゃんのスマホに入ってたから私もインストールしたんだけど……お兄ちゃん今3級でしょ?」
「………………!!!、な、な、な、なんで知ってるうううううううう!!!栞、お前、い、いつの間に!!部屋だけじゃなくてスマホまでもか!!!」
「私はお兄ちゃん事はなんでも知ってます、スマホなんて見なくてもわかります、そういう能力の持ち主なんです!!」
「うわああああああ、マジか、え?なんで?、おれパスワードいれてるぞ、え?」
そんな俺を無視するかの如く二人は更に戦闘体勢に入っていく……いや俺のパスワード……
「じゃあ実力は同じくらいって事だね栞姉ちゃま」
「そうね美月ちゃん、後はどちらがお兄ちゃんを愛しているかの勝負ね」
「美月絶対に負けないよ!」
「私だって!!」
二人は握手を交わすって、おい本当になんだこれ……
「対局はどこでする美月ちゃん」
「集中したいし、美月の部屋か、客間かだね」
「じゃあ客間にしましょう、2階だと色々不便だし」
「うんそうだね」
「じゃあ、お兄ちゃん、検分を」
「は?けんぶん?なにそれ?」
「なに言ってるのお兄ちゃん、対局前日に検分をするのは当たり前でしょ、これは私達のタイトルマッチなんだから」
「いや、タイトルマッチって……あなた達プロ棋士じゃないんですけど……」
「お兄ちゃま!賞品はお兄ちゃまなのよ!、プロのタイトルマッチなんか、ただのお金と名誉だけじゃない、そんなものとお兄ちゃまを比べたら、この対局はタイトルマッチ以上よ!!!」
「え?、なんか俺自身が賞品って事になってない?、俺と1日一緒にいるってだけだよね?」
「将棋盤と駒持ってくるね栞姉ちゃま」
「わかった、私、座布団とか用意してくる」
「おーーい、聞いてます?、おーーーい」
俺の声を無視して二人は明日の対局の準備を始めるって、マジでなんだよこれ……
そして、てきぱきと二人が動き呆然とする俺の目の前に、どこかで見たことのあるような対局場が完成する……え?マジで?
プロが使うような将棋盤、あの分厚い奴ね、そして綺麗な駒、なんか彫って書いている高級そうな奴、駒台もちゃんとあり、ひじ掛けまである、そして更に時計が2つくっついている物まで、ってなんであるんだ?
「本榧5寸将棋盤に榧の駒台、本つげ盛り上げ駒、高級脇息とチェスクロックよ栞姉ちゃま」
「うん、完璧だね、持ち時間はどうする?」
「多分弥生ちゃまは仕事があるから夕方前には帰ると思うの、帰って来てから開始して、夕食休憩1時間、持ち時間は各自2時間で後は1分でいいと思うけど、どう?」
「うん!、それでいいよ、じゃあ明日勝負だね!!」
二人は再度固い握手を交わした、もう好きにしてくれ……
え?風呂はって?いや、今日も別々に入ったよ、そして客間で3人で寝たしね
美月は不思議そうな顔ををしてた……、ごめんよ美月、俺達、一つだけ嘘をついているんだ……
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