19-5 本気のデート


 横浜からの帰りの電車、妹は俺に寄りかかりずっと寝ていた。

地元の駅に着き、妹を起こして電車から降りる。


「お兄ちゃん抱っこ」


「歩きなさい」


「はーーい」


 妹がすっかり幼児化しているのを何とかしつつ、駅から出て家に向かい歩いていく

夕方になり、うっすら暗くなってきた道のり、人目があるが若干フラフラしているので、腕に捕まらせ歩いている。


「具合はどう」


「うーーーん、ちょっと寝たら良くなってきたから、デートの続きはこれから」


「だーーーめ」


「ううう」


「しかしなんで風邪引くかなーここの所暖かったのに」


「あーー多分昨日お風呂から上がって、裸で下着選んでたから湯冷めしたのかな」

裸で下着選び、やべ想像……


「湯冷めするほど下着選びって、どんだけやってるんだよ」

 裸で何時間もいたらそりゃ今の季節でも風邪引くわ


「えーーーでも勝負下着だしー」


「だから勝負しないって」

想像だけでも負けます。


「だからこの間、選んでって言ったのにー、そうか私が風邪引いたのはお兄ちゃんのせいだ、責任取ってね」


「責任?」


「うん、責任取ってね」


「うーんでもなー栞、立夏も夏至もとっくに過ぎてるからもう夏だろ?」


「うん?」


「夏風邪は何とかが引くって言うしなー、そんな奴に責任って言われても」


「ううーーひどいよーーー」


そんな話しをしている間に家に着く


 

 玄関を入り、2階の妹の部屋に連れていく、母親は今日は夜勤、父は、うーーんいるのかな、寝室でいつもぼーーっとしてるから分からん。


「とりあえず、着替えて寝なさい、今氷枕と薬持ってくるから、あと何か食べる?」


「着替えさせてーー」

妹が万歳する

まじで脱がしてやろうかと思ったが、妹に引き続き俺が倒れるので、やめておいた。


「いいから早く着替えて寝てなさい、今持ってくるから」


「はあーーい、今もうちょっとだと思ったのにー」

 ……はい、もうちょっとでした。


扉を締める前から、後ろで脱ぎ始めてる気配を感じて、あわてて部屋をでた。


氷枕と、風邪薬、水と冷蔵庫に入っていたゼリーを持って妹の部屋に戻る


「はいるぞー」

そう言って扉を開けると妹は素直にベットに入っていた。


「えっと、とりあえず薬、あ、いきなり飲むのは良くないよな、ゼリー食べるか?」


「食欲ないーー」

 

朝食べてからお昼も食べてないし、薬に食後って書いてあるし、うーーん


「ちょっとでも食べた方がいいよ」


そう言ってゼリーの蓋を剥き、スプーンと一緒に妹に渡す。


「えーーっとね、じゃあ、あーーーん」

妹は起き上がって俺の方を向き、口を大きく開き目を瞑る、パジャマ姿、その口と舌、目を瞑った顔にドキドキしてしまう。


「じ、自分で食べなさい」


「えーーじゃあ、いらなーーい」

ああ、もうわがまま過ぎるなーー


「じゃあ、ホレ」

そう言ってスプーンで一口すくうと、妹の口へ

なんか鳥の餌付けみたいだな、と想像していると妹がスプーンをくわえる。


「美味しいー、お兄ちゃんが食べさせてくれたら、もうなんでもご馳走だね」


「へいへい、じゃあもっと食べなさい」


「うん、あーーーん」


何とか全部食べさせて、薬を飲ませる、氷枕を首の下におき、妹を寝かせ布団を肩までかける。


「じゃあ、ちゃんと寝ろよ」

そう言って妹のベットの横から立ち上がろうとすると、妹が俺の服を掴む。


「お兄ちゃん、もうちょっといて」


「栞、俺がいたら寝れないだろ」


「じゃあ、寝るから、寝るまでいて」

うーーんいたら寝れないのに、寝るまでいてって、ずっといるのか?


「とりあえず、あとちょっとな」

そう言って妹の横に座る。



「ねえ、お兄ちゃん、今日夜までいたら、綺麗だったよね」


「あー、うんそうかもな」


「残念だなー、お兄ちゃんと見たかったのに」


「また行こうな」



「うん、……ねえ、お兄ちゃん、手を握って」

もう今日はとことんわがままだけど、しょうがない


「ほれ、今日は、わがままだなー栞」



「だって……、今日は恋人なんでしょー」


「あーー、うん、まあそうだな」

言った、確かに言った。



「えへへへへーお兄ちゃんが……寝てる横で手を握ってくれてるー」

妹は俺が握っている手と、自分の手、それと今日買った指輪を見つめている。



「……今日ね凄く楽しかったの……凄く嬉しかったの、お兄ちゃんがデートに連れていってくれて、……指輪も買ってくれて」


「うん」



「また夢が叶っちゃた、……小さい頃からの私の夢、最近ね、……どんどん叶っちゃうの、私幸せ過ぎて……良いのかなって、昔の私に……ごめんねって謝ってるの」




「でも、……あなたも……もうすぐ幸せに……なれるからねって言ってるんだ……」





「だから……お兄ちゃん、……お兄ちゃんも、ありが…………」


 やはり具合が悪かったのか、そう言って妹は寝てしまった。


 俺は妹の薬指の指輪ごとキスをして、手をそっと布団の中にしまう。

そして、妹の寝顔をチラッと見て部屋の電気を消しそっと出た。



「おやすみ、栞、……ありがとう」




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