19-4 本気のデート


 「ほら危ないから」

 ボーッと自分の左手を見続け、人にぶつかりそうになっている妹に手をさしのべる。

 妹は手を繋がず、腕を絡める。


「えへへへへ、恋人だからいいよねーー」

 恋人じゃなくてもよく絡めてるだろ

 シャツ越しに妹の胸の感触と、体温を感じ心臓の鼓動がはねあがる。


 妹の可愛さに周りの視線が矢のように突き刺さる、ハイハイ釣り合わないよね、そうですよね。


「じゃあ、次に行こうか」


「……え、うんそうだね、どこ行くの?」


「この近くにちょっと面白いミュージアムがあるからそこに行こうか」

「ミュージアム?」


 そう言って赤レンガ倉庫を背に歩き出す。


 10分弱のんびり歩いていくと到着する。


「カップラーメンミュージアム?」

 妹が建物に書いてある文字を読む。


「そう、面白そうじゃない?」


「なにがあるの?」


「ちょっとねー、まあ行こうか」


 某有名カップラーメンの記念館、カップ麺の歴史、販売された種類、パッケージ展示、世界の色々な麺料理が食べられたりする。


 中でも面白いのは、オリジナルカップ麺が作れる。(入場料とは別料金です、名前も変えてます)


 創業者の歴史、歴代のパッケージ等、展示を一通り見て、オリジナルカップ麺を作りに


「へーー自分で作るの?」


「中身の具と味を選んで、カップに絵を描いたり文字を書いたり出来るらしいんだけど、お!、そこにあるペンで書くみたいだな」


「へーー」


 周りは子供が多かったけど、二人でお絵かきタイム


「何書こう、スペシャルラーメンとかかな?」


 何を書いてるのか妹を見ると、大量のハートマークに自分の似顔絵と俺の似顔絵を書いている、しかも似てるし


「栞、絵も上手いのかよ」

 なんなのこの妹、万能なの、弱点とか探しとかないと暴走したときやばいんじゃない?


「えー?うん、お兄ちゃんと私のラブラブ絵日記を、子供の頃から書いてるからねー」


 えーーっとその情報は余り聞きたくなかった……

 この完璧妹の弱点は俺か?(弱点てか致命傷やね)


 カップに絵や字を書き終え、その後具材を選びに行く


「わーー、可愛い、ぜんぶヒヨコにしよっと」

「じゃあ俺は全部肉で」


 最後にパックに入れて、そこに空気を注入し、風船の中に入っている様にして完了


「えーーっと、かさばるなー」


「紐があるか、これでぶら下げろってことかな?」


 これを下げて歩くのはちょっと抵抗あるけど、まあ何処かで入れ物でも買えばいいか。


「じゃあ、さっきパンケーキだけだったから、ここで軽く食べよう」


 そう言って、世界の麺が食べられるレストランに行く。

 入ると、レストランというより、フードコートだった、屋台形式で各国の麺類が並ぶ。


「栞、なに食べる?」


「あ、えっと、うーん、私パンケーキでまだお腹へってないからいいかなー」


「え?そうなの、あーじゃあもっと後にしようか」

 やっぱり、横浜なので、メインは夜だから、もう少しここで時間をつぶしたかったんだけど、うーーん少し散歩とかして、中華街とかかなー?


「いいよ、お兄ちゃん、足らなかったでしょ、食べていいよ、私見てるから」


「いや、それは、栞が退屈だろ」


「えーー、いいよー私見てるからー、あ、なんだったら一口頂戴、あーーんって」

 赤い顔して口をあける


「いや、麺類であーーんは、やりにくいだろ、じゃあ遠慮なく」


「うん」

 とりあえず、適当に座り注文し一人で食べる

 栞は、またぼーーっと赤い顔で指輪をみていた。

 よっぽどうれしかったのか、買ってよかった……


 ミュージアムを出て、腹ごなしに海沿いの近くの公園を歩く

 正面に帆の形のホテルが大きく見え、船から見たのと角度が違うので、また違った形に見えていた。


 栞は俺の腕にしがみつつ隣を歩いている。

 ああ、なんかいいなーこれ恋人同士っぽくない?、と思いつつ、今後の予定を栞に言ってみる。


「うーーん、ちょっと時間が余ったなー、とりあえずここまでは考えてきたんだけど、この後どうしようか?、夜景は見たいよなー、ちょっと遠いけど、港の見える丘公園に洋館とかあって面白そうなんだよなー、栞、洋館とか見たい?」

 バスか、タクシーか考えつつ聞いてみたが


「えっ」


「え?」


「あ、ごめん、お兄ちゃん聞いてなかった」

 え?俺の話しを聞いてない?妹が?


 妹が俺の話しを聞かなかったなんて事、今までなかった、聞き返す事はあっても、全然聞いてないって……


 そういえば、さっきからぼーっとしてたよな、なにか様子がおかしい、絡めている腕がわずかに震えてる。


「栞寒いの?」


「え、うんちょっと」

 妹の顔を見ると、さっきからやはり顔が赤い、


「ちょっといいか」と妹のおでこを触る、明らかに熱い。


「うわ!、栞熱あるぞ」


「え?ほんと?」


「そう言えば、朝、最初に手をつないだときも、なんか熱かったぞ、朝から具合悪かったんじゃなかったのか?」


「え?うーーん、ちょっとだるかったかなー?」


「なんで、言わない……、じゃあ帰るぞ」



「え?やだよ」


「は?」



「帰らないよ?」


「なに言ってんだよ、熱、結構高いぞ」



「大丈夫だよ、お兄ちゃん、私、あれ見たい」



「だめだよ、かえるよ」


「やだ」



「栞」


「嫌だよ」



「しおり!」


「やだ、やだ、やだ、絶対にやだ!」



「栞、だめだよ」


「いやだあ、嫌、やだ、やだやだ!」




「帰らない……帰りたくない……」

 妹は、下を向き俺を見ようとしない



「栞、わがまま言わないで」

 俺は妹の肩を掴んで、こっちを向かせようとした。



「やだ!絶対に……やだ!!」

 妹は髪を振り乱し、頭を左右にふりだす。

 かぶっていた帽子が転がっていく


「やだ、……せっかくお兄ちゃんが、恋人って言ってくれて、久しぶりのデートだったのに、やだよおおぉ、かえりたくないよおおぉ」

 落ちた帽子に見向きもせずに、妹が、ぽろぽろ涙を流し始める。



「やだよおお、お兄ちゃんと、もっと一緒にいたいよおお、帰りたくないよおお」


 俺は妹に近づき、頭を胸に抱いた


「かえろ、ね、また今度来よう、もうすぐ夏休みだからさ」



「ふえええええん、指輪までかってもらったのにいいい、昨日から楽しみにしてたのにいいい、楽しかったのにいいいいい」


「うん……、かえろ……、ね」


「ふえええええ……」


 泣いている妹を胸で泣かし、髪をなでていた。



 しばらくして、落ちついて来たのか、ようやく泣き止む



「……お兄ちゃん、……ごめんなさい……」



「大丈夫だよ、また来ような」


 こうして、俺の本気の横浜デートは夜を待たずに終了した。








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