2-2初めてのデート

 

 埼玉の水族館って言っても、ほとんど栃木じゃねえか


 都心近郊の家から約1時間半


 日曜日に妹とお洒落して一緒に出掛けるのはまずいかな? と相談、とりあえず大宮駅で待ち合わせる事に。


 当然、妹を待たせるとめんどくさいので(妹にナンパとかナンパとかナンパとか)


 俺が先に出る事にした。


 デートって何着ていけば良いんだと前日から悩み、ジーパン、シャツにパーカーと、なるだけ小ぎれいな恰好をして家をでる。

 ううオシャレになりたい……


 定番だが、少し小綺麗な格好で出掛ける俺を見て母が

「あら高校になってやっと彼女ができた?」と言われたが


「いや、友達と遊びにいくだけだよ」などと誤魔化した所


「あんた友達居たんだ」


 母ちゃん……おまえもか……



 文句の一つも言ってやろうかと思ったが俺の彼女は妹、そして今日初デート、俺と妹の事だからとは言え、やはり親にはかなりの罪悪感を感じてはいる。



 故に肯定も否定もせずに(少しは居るから否定だ!)

「あはははは、まあ少しは……」と気の無い返事をしつつ出掛けた。


 大宮駅に着き、待ち合わせ場所に向かった。


 待ち合わせ場所はインフォメーションセンターとか、豆の木とかあったが、まあ、普通に改札前にした。


「ちょっと早く来すぎたな」

 スマホをポチポチやりつつ、今日の予定を頭で組み立てる。


 しばらくすると

「待ちましたか? おにい……ゆう……くん?」


 春を思わせる花柄のワンピースに黄色のカーデガン、編み込みをしアップにした髪にベレー帽、赤色の伊達メガネ……


 誰だ! このスーパー可愛い系女子は……あ、俺の妹だ……


「えっと、変装?」


「おにいちゃんひどーーーい、おしゃれしてきた女子に最初に言う言葉がそれ?」


「あ、ごめん、めっちゃ可愛くなって、あいやいつも可愛い……あ、いや」


 しどろもどろになりながら慌ててフォローする。


「うん……ありがと」


 真っ赤になって下を向く妹、それを見て俺も真っ赤になって下を向く

 何やら周囲に生暖かく見られてる事に気が付き


「行こうか」

「うん」




 そう言って俺たち兄妹の初めてのデートが始まる。






 ####


 電車を乗り継ぎ最後はバス、それほどかからずに池袋に行けるのに、わざわざこんな所まで……


 しかも、しょぼ……こじんまりした水族館


 イルカもアザラシも居ない、主に川魚中心の展示、近所の幼稚園やら、小学校の御用達みたいだが……


 正直妹が、何故ここに来たかったのかわからない。


 二人で一通り水槽を眺め外に出る。


 外には池があり鯉の餌が売っていた。


「お兄ちゃん鯉の餌やりしていい?」


「もちろん」


 妹が笑顔で鯉の餌をやっているのを見て、ふとデジャブを感じる。


 あれ? 俺ここ来た事あるな。


 ここって昔来たっけと訪ねようと、妹の隣に並び池を眺めていると。


「あのね、ここって小さい頃みんなで来た事あるんだよ」

 鯉に餌をパラパラやりながら妹が懐かしそうに話し出す。


「ああ、ごめん今思い出した」

 俺は最初から何故気がつかなかったのかと、妹に謝る。


「ううん、あのときね、私小さかったし魚ってそんなに興味無かったから、外で池を見てたの、でも退屈だったからお兄ちゃんの持ってたゲームをしてたの」


「そしたら鯉がピシャッと跳ねて、わあって思って池に近付いたら、そのゲーム機落としちゃって」


「お兄ちゃんに怒られるって思って泣いていたら、後ろからお兄ちゃんが来て栞が池に落ちなくて、ゲームでよかったよって言ってくれたの」


「ああ、そう言えばあったな」


 実は家に帰って栞の見てない所で、大泣きしてたんだけど


「お兄ちゃんあの時から、ううん、その前からも……ずっとやさしかったなー」


「まあ……お前のお兄ちゃんだからな」


「うん、私のお兄ちゃん……一番大事な人……」


 うつむく妹、ヤバい何を言って良いか分からない


 なにも言えないまま池に佇む俺と妹……


 何も言えずに、しばらく池を見つめるていると、妹が俺に向かって上目遣いで話し出す。


「あのね……お兄ちゃん、あのね、私ね……私」


 うお、なんだその思い詰めた顔、赤い顔小刻みに震える唇


 ヤバいヤバいヤバい


 妹は下から見上げ、目をつむりそして言った!









「ごめんお兄ちゃん……わたし、さむいいいいいいいいいい」






 4月上旬ヒラヒラワンピに薄いカーデガン


 埼玉って言ってもほぼ栃木……池のほとりで佇んでたらそりゃ冷える




「あははははははははは」


「えーーーーなんで笑うのーーーひどいいいいい」


「いやごめんそうじゃないんだ、お前が可愛くてさ」


「なにそれ嬉しくないーーーー」


 赤い顔でプンプン怒る妹を見て、ここで泣いていた妹と重なる。


「じゃあ帰る?」


「えーーーーもう?」


「うーーーんじゃあさ、服買いに行こうか、アウトレットがそんなに遠くなかったよな」


「うん!」



 や、ヤバかったあのままだったら俺、妹にキ、キス…


 俺はバスで横に座り楽しそうに話している妹の唇を見つめていた。


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