34話 何も練習風景があるのはスポコンに限ったものではない!
はろー、最近運動週間と入った琴音ちゃんだよ!
運動会が迫りくる中、私が担当することになった種目はリレーと徒競走。本当はリレーだけでいいかなーと思ったのだけれど、徒競走の立候補者が足りなくて凩先生の推薦でねじ込まれました。職権乱用ェ……。
まぁまぁ、どちらもある意味一番盛り上がるであろう花の種目であることは間違いない。理想の姉たるもの、そういったもので良い結果を残せなければあかんのです。やっぱ文武両道だよね!
ちゅーわけで、私、小野田さん、九条さんの三人は体育の時間、及び放課後とリレーの練習をすることになった。あ、勿論男子の三人もだよ。
「よーし。今日も放課後は空いているか6人共」
『はい!』
凩先生は帰りのHRが終わると、どこからか取り出したハチマキを額に巻き気合十分だ。その瞳には炎さえ宿っている気がする。なんだろ、スポコンの波動を感じる。
私たちは鞄に物を詰め、ジャージに着替えると凩先生に連れられ校庭まで向かった。本日も陸上部が使用しているのだけれど、凩先生が陸上部の顧問に頼み込み、一部貸して頂けることとなったのだ。
「さて、諸君らは私の生徒だ。つまりリレーでは勿論好成績を取ってもらう。練習期間は短いが、諸君らの元の能力が高いため、バトン渡しのスムーズさと配置さえ気を付ければ問題ないだろう。本来であれば同じ白組の選手がいた方がよいのだが……如何せん外せない用事があるとのことで練習に参加できていないのが痛いところだが……」
凩先生は顔を顰めながら言った。
そう、リレーに関してだけれどこれは学級対抗というわけではない。一応種目名は学級対抗リレーとなっているが、その本質は違うんだよね。どういうことかと言うと、白組紅組に分けた対チーム間リレーになるのだ。うちの学校は基本学年毎に1~4組まであり、各学年で赤と白の2チームに分かれるわけだ。1年生であれば1、3組が赤組であり、2、4組が白組になる。
うちの学校は特殊なのか、リレーは男女混合となっている。一応学級毎のチームとはなるのだが、白組が二組と紅組が二組となるので、仮に同じ白組の4組に負けても白組としては問題ない。寧ろ、2、4組が如何に1位と2位を独占するかによって点数を突き放せるかが運動会における肝となる。
その為、練習をするのであれば同時に4組の生徒と一緒にやった方が効率が良いのだけれど、そこは部活動とは違い強制力がない為、練習に関しては任意となっている。
「まぁ来れないものは仕方ない。取りあえず私の直下である諸君らには4組の分も頑張ってもらう。具体的には1位以外許さない」
「えぇ……」
凩先生の気合の入りように一馬が顔を引きつらせながらそう呟いた。しかし、そこを凩先生に睨まれ慌てて顔を引き締める一馬。うん、凩先生の睨みの視線て怖いよね。
「そうだな……1位を取れたら私からご褒美としてお昼の購買で好きなものを買ってやろう」
『マジすか!?』
凩先生は少し思案するそぶりを見せながらそう言った。すると男子生徒たちは皆揃って顔を輝かせた。ふ、食べ物という釣り針にかかるとは愚かなものよ……。私にはブラザーズという至高のおんかたかた……ん゛ん゛!!しこーの恩方々がおわすからね!噛んでないよ!!
「ふふ、頑張った者にはしっからと飴……じゃなかった。褒美をやらなければな。が……」
和やかな雰囲気が漂い始めたところで空気が一転する。そんな凩先生に皆固まる。うん知ってるよ。凩先生がご褒美だけを提案するわけがないもんね。
「1位を取れなかった場合は……そうだなぁ……1週間教室掃除をしてもらう。更に、最下位を取ろうものなら……わかっているな?」
『ひゃい!』
ギロリと瞳が私たちに向けられる。
まるで肉食獣の様な鋭く獰猛な眼光に、捕食される側、草食獣よろしく震えあがりながら返事をする。蛇に睨まれた蛙とは正にこのことよ。これで私たちは1位を取るしかなくなったというわけだ。勿論私はやるからには1位を取るつもりでいたし、何より応援に来てくれるであろうブラザーズの手前無様な姿は見せることはできないと思っていたけれど、こう来ると何が何でも1位を取れなきゃやばいね。
「では、まずは100mを走ってもらうか。全員でレーンに並べ」
というわけで、まずは100mを走ることになった。理由としては皆、実際にどれだけ走れるのか見たいと言ったところだろう。口や過去の記録からはある程度わかるとはいえ、現状がそれに見合っているとは限らない。特に私なんかは唯一の文化部だし、それなりに劣っているかもしれないもんね。
「みな位置についたな。それでは私のよーい、ドン!の合図で一斉に走り出してもらう。男女のハンデはなしだ。どっちにしろお前たち全員でリレーをすることになるからな」
『はい!』
皆、レーンに立ち各々スターティングポーズを取る。私はここにスターティングブロックがあればなぁなんて思いながらも、立ったままの姿勢で走り出しやすい格好をする。前傾姿勢で、ひょっとすれば転んでしまいそうな程に体を傾ける。正直今すぐにドン!って言ってくれないときついぐらいだ。周りの生徒からは「あいつ体勢やべぇw」みたいな風に見られているけど……仕方ない。始まればそんなのは後方へさよならだ。
「ほぅ……やる気は十分だな。では行くぞ。よーい………」
凩先生が右手を上げよーいと言う。しかし!ドン!が遅い!早く!私の足がぷるってぃしちゃうから早くぅ!!!!
パンッ!!
そこで心地よい音がなる。私は思わず走り出しそうになるがすんでのところで堪える。一体何事?と音のした方を見ると凩先生が合掌をしていた。
「あ、季節外れの蚊か……忌々しい虫め。すまんすまん、それではもう一回だ」
くそったれぇぇぇぇぇぇえええ!!!紛らわしいわっ!!!!
私が睨むようにして凩先生を見ると、凩先生はニヤリと笑っていた。あ、これ先生の茶目っ気だ。そう思った瞬間、先生は再度右手を振り上げよーいと言いだした。私は慌てて前を向き走り出せるようにする。不思議なことに体からは余計な力が抜け、今にでも軽快に走り出せそうだ。
「ドン!」
凩先生の張りのある合図と共に私たちは一斉に走り出す。
走り出しが一番肝心だ。100mという短い距離において、どれだけすぐにトップスピードまで持っていけるかが肝となる。それは走り幅跳びをしていた私にとっては一番の課題で、一番力を入れていた部分でもある。だからこそのやりすぎ前傾姿勢なんだ。転びそうになる手前での前傾姿勢では否応がなく体勢を崩さないためにスピードを出さざるを得なくなる。
私は初めの数歩を横に大きくぶれる様な形で踏み込んでいき、徐々に横のぶれを無くしていく。腕を大きく振りその勢いさえも利用し前へ前へと進んでいく。見るのは前だけ。脇目もふらずただひたすらにゴールの一点を見つめ走りぬく。景色が流れていく中、私の体感時間は引き延ばされる。なんだろう。すごーく早く回転するタイヤがゆっくり回ってるように見えるやつ。だからこそ、競争しているという時はそこで焦りを感じるのだけれど、今の私はそんなことでメンタルをやられる程やわじゃないぞごるるぁー。
肺が酸素を求めて引き攣り、足もそろそろキツイ……そう感じていた時だった。遂に私はゴールの白線を踏んだ。周りを見ればどうやら私が一着のようだ。
「ふ、川田が一番か。大方予想通りだな。タイムは……14.1か。鍛えれば陸上大会でいいところにいきそうだな」
凩先生の声が隣からした。辛い呼吸の中視線を向けてみればそこにはやっぱり涼しい顔をした凩先生が……あ、あれ?この人さっきスタートラインに立ってたよね?何故ゴールにいる。なんか走ってる最中隣を猛スピードでナニカが通り過ぎて言った気がするけど……まさかあれなのか。だとしたらこの人なんでこんな涼しい顔してんだよ。ヤバいよ。
「はっはっはっ……お前、女子のくせに、早、早すぎだろ……陸上部入れよ」
続々とゴールに入ってくる選手たち。私の次にゴールしたのが一馬だった。一馬は息も絶え絶えという感じで膝に手を当てぜーはー言っている。おい、現役陸上部。それから気にするなら隣で涼しい顔した凩先生を気にした方がいいよ。
「ふむ……到着順は、川田、渡部……春藤、北原と小野田が同着、九条か」
ふむふむ、と凩先生はメモを取っていく。その間に私たちは呼吸を整えていく。
「では一番の走り手を春藤、二番手を渡部、三番手が小野田、アンカーは川田でいく。問題はないな?」
淀みなく凩先生が宣言するとみな一様にうんと頷く。
にしても私がアンカーか。こりゃ本格的にミスは許されませんね。間違ってバトン落としたりだとか、怪我でもしようものなら大顰蹙間違いなしですわ。しっかり練習してスムーズに受け取れるようにしないと。
「川田すげぇな……本当にあんなに早いと思わなかった」
私が心の中で(ryしていると北原君が声をかけてきた。そこには僻みなどはなく、純粋に尊敬しているかのようなそんな感じだ。凄い(慢心)とは思っていたけれど、こうして他人に褒められるとやっぱ嬉しいね。
「そうかな、ありがとう!」
お礼にシャイニースマイルをプレゼントしよう。最近は出番がなかったからね。ニパッ。
すると北原君は顔を赤くし「お、おう」と言ってそっぽを向いてしまった。照れてるのかね?愛い奴め。でも私の心の一番はブラザーズだからね!
「本当だよー!私全然追いつけなかったー!」
今度は小野田さんから賞賛を受け取った。正直意外なところだったけれど、ここは素直に受け取っておこう。疑ってばかりでは人として悪いしね。
「小野田さんもありがとー!」
少々目が笑ってない気がしたけど気のせいだよね!
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