20話 琴音ちゃんと愉快な仲間たち!

 私は駐輪場に自転車を置きセンターの中に入る。ホールには既に人が集まっていた。皆それぞれ楽しげに雑談を交わしている。その内の一人、みーちゃんが私が来たことに気付き声をかけてくる。


「あ、琴ちゃん来た!」


 そう言うとみーちゃんはこっちこっちと手を振っている。私はそんなみーちゃんに手を振り返し小走りでその輪の中に入っていく。


「ごめーん!時間には間に合ったけど、もう皆集まってるみたいだね」

「うん。なんか初めてのテストでそわそわしてたみたい」

「そっか。みーちゃんは今回どうだった?」

「バッチリ!……と言いたいとこかな〜。琴ちゃんに教えてもらったとこは大丈夫だったんだけど、細かいところで怪しいところがね。琴ちゃんは?」

「ふふーん。私は問題なし、かな。しっかり対策出来たなって手応えバリバリ!」

「さすが琴ちゃん先生だね!」

「くっふふふ〜。もっと褒めるがよいぞー美鈴生徒よ」

「あはははー!」


 私とみーちゃんが周りにお花を浮かばせながらほのぼのと会話をしているとそこにニュッと人が入ってくる。誰だ?と思い顔を向けてみればそこにいたのは真だ。


「おい琴音遅いぞー。言い出しっぺなんだから一番に来なきゃいけないんじゃねーの?」

「むっ、時間は守ってるんだからいいじゃない」


 真のいちゃもんに少しむっとする。女の子なんだから仕方ないじゃない。着替えとか髪とか色々やることがあるんだから。それに今日はちょっとしたアクシデント?があったわけだし。それさえなければここにはもっと余裕を持ってついたはずだもんね。


「まぁまぁ、女の子には色々準備があるんだから仕方ないでしょ」

「そういうもんかー?」

「そうだよっ。それにしても今日の琴ちゃん可愛いね!」


 みーちゃんが真と私の間に入りまぁまぁとなだめてくる。あぁ、ほんとみーちゃんいい娘やぁ。この気遣いの出来ないあんぽんたんとは違いますよ〜。


 しかもしかも!私の今日の服装について感想もくれるなんて……やっぱり家族以外にもこうやって感想を貰うと嬉しくなっちゃうよね!


「っ……まぁいいや。取り敢えず始めようぜ。学習室ならこの人数でも問題ないだろ」


 私たちはゾロゾロと学習室へ入っていく。中は小さな図書館といったところか。壁に沿うように本棚が数個設置されており、様々な学習用の本が置かれている。基本はこの学習室内での使用になるけれど、許可をとれば持ち出すことも可能だ。まぁそんなに種類ないから借りるまでのものはそうないんだけどね。


 部屋の中央辺りにある長テーブルにそれぞれ腰を下ろし鞄から問題用紙や筆記用具、ノートを取り出す。私の付近に座っているのはみーちゃん、澪ちゃん、真、一馬、誠治だ。他にも数名のクラスメートがいるがその人たちは隣の長テーブルに陣取っている。


「さて早速始めるか。順番としてはテスト順でいいか?」

「うん、それでいいと思うよ」

「じゃ、そゆことで」


 テスト順となると、国語、数学、英語、理科、社会の順になる。そうすると一番に例の問題しかない問題用紙の件が出てくるわけだけれど。シュミレーションはバッチリ!ここで私は問題用紙を探すふりをして、ハッとした表情を作る。そして用意していた言葉をホイッと。


「あ……ごめーん。私国語の問題用紙忘れちゃったみたい。みーちゃん一緒に見させて」

「うん、いいよー」


 くっふふふ。完璧。完璧な演技ね私。これに疑問を持つ者などいないだろう。こりゃ将来は女優になれるかも――。


「おい琴音。他人の問題用紙を見るのはセクハラになるんじゃなかったのか」


 くっ!いたよ!いちゃもんつけてくるやついたよ!こいつ、さっきのこと根に持ってるな!心の小さい男の子は嫌われちゃうゾ!


「いいんですぅ!女の子同士だったら無効ですぅ!」

「問題用紙見せるのってセクハラなの?」


 みーちゃんは可愛らしく首をコテンと傾けながら聞いてくる。みーちゃん!いいんだよ!疑問を持たなくて!君は常にホワイトカラーでいて欲しいの!!


「よくわからないケド……私が見せてもいいって思ってるんだし良くない?」

「美鈴は琴音に甘いよな……」

「そうかな?寧ろ真が琴音に対して厳しくない?」

「それこそだ。俺は誰にだって一緒だぞ。ただ琴音が俺に対して冷たいだけだ」

「私も誰にだって一緒だよ?ほら真と一緒」

「どこがだよ!絶対俺の扱いが雑だ!」

「ないない♪さて、真はおいといて……みーちゃん不安なとこある?私で良ければ教えるよー」

「やったー!じゃあ問題5の読み解きかな~。ほらここ」

「だからそれが雑だって言ってんだよ!そしてそこは俺も自信なかったとこだ!一緒に教えろ!!」


 真は本当に騒がしい。昔は私がいじられキャラと化していたけれど、私って過剰にいじられるの好きくないんだよね。ストレスがたまるというか。だから出来るだけいじられないように立ちまわっている。


 そう、マウント取られたら終わりなんすよ。いじり好きなやつというのは目敏くマウントを取る機会を虎視眈々と狙っているのだ。そしてマウントを取ったら、後はKOするまで殴り続ける……。いじりいじられってちょっと間違うとイジメに発展しちゃうくらいデリケートなものだからね。それがよく知らない他人なら即刻イジメとなるだろうが、仲の良い友達と来れば複雑だ。だからこそ煮え湯を飲まされるとなるのだよ。


 流石に今生でもそうそう煮え湯は飲まされたくないので、いじられ役には回ってやらんぞ!寧ろ君をいじり倒してやろうか!くっふふふふふ!


 ていうのは置いといて、真面目に答え合わせと勉強をしていくよ。今日の目的あくまでテストの答え合わせだからね。まぁ私の場合は教師役として教えるのが基本になるんだけどね。今回のテストでは、言ってはなんだけれどわからないところなんてなかった。寧ろ超楽勝。なので今更勉強をしてまで覚えなきゃいけないことはないんだよね。なので私は教えることに集中できるというわけだ。


「――で、そこのところを解釈するわけ」

「おぉーなるほど……」

「ん?じゃあこれはどうなるんだ?」

「あぁ、そこはこことここの文を合わせてごらん。そうすれば意味がわかると思うよ」

「あっホントだ……うわー見逃してた」


 あれだけ煩かった真もスイッチが入ればこの通り。そして真が集中しているということは周りの人間もつられる。いまいち集中出来てなかった誠治や一馬もふむふむと私の話しを聞いている。澪ちゃんもノートにまとめている。


「と……ちょっとお手洗いに」

「あ、俺も」

「何故一緒のタイミングで」

「仕方ないだろ。生理現象だ」


 催したのでお花でも摘みに行こうと席を立ちあがると真も行くと立ち上がった。昔はよくつれしょんしたものだけど、女子とトイレに一緒に行くってどうよ真君。それってデリカシーないと思うのは私だけ?てか、そもそも私は前世でもつれしょんはそんなに好きではなかった。なんていうか、人が隣にいると出るものが出ないんですよね。もしするなら便器一個分あけてくれないと。そんなのお前だけだって?いやいるでしょ!絶対私と同じような人いるよ!私だけじゃないし!!……と思いたい。


 まぁトイレは別だしいいかと諦めトイレ前まで一緒に歩く。距離はそんなないので特に会話もない。そして用を足し、手を洗いハンカチで手を拭きながらトイレを出ると真が既にトイレの入り口に立っていた。私なんて待たずさっさと学習室に戻ればいいのに。そんなことを思っていると真が口を開いた。


「なぁ琴音」

「ん、なぁに?」


 改まってなんだろ?と思いながら真の言葉を待つ。真は言い辛いのか若干眉間に皺を寄せ逡巡している。


「お前さ……ここに来るとき……」


 そこまで言って真は口を閉じる。


 なんだいなんだい。さっさと仰りなさいな。ちょいちょい区切られると気になっちゃうでしょ。


「いややっぱいいや」

「……?変なの」


 真は頭を振るといつも通りの子憎たらしい笑みを浮かべた。一体なんだったというのか。こう勿体ぶられてやめられるとすごーく気になるのだけれど、本人が言いたくないなら無理に聞かないでおく。私は大人だからね!


「それより膝大丈夫か?なんか赤くなってるというか傷ついてるぞ」

「膝……?あぁ、そういえばここに来る途中で転んじゃってさ。その時についたんだよね。かすり傷だから大丈夫だよ。唾でもつけてれば治るし」

「転んだって。まだまだお子様だなお前」

「なにおぉ!誰だってうっかりしちゃうもんでしょ!」

「しかも唾つけとけば治るって女らしくねぇな。寧ろ男らしい」

「だ、だだだ誰が男か!」


 ムキー!本当この男は憎たらしい。なんて憎たらしいのかしらっ!(黒柳〇子風)ええそうですよ!転ぶなんてお子様ですよ!!でもねぇ!!こっちゃ人轢かないようにしたら転んだだけで名誉(?)の負傷だごらぁ!!


 なんてぷりぷりしてると、真はズボンのポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。そしてそれを私に差し出す。


「そこまでは言ってねぇし。ほら絆創膏。これ付けとけよ」

「え?あ……うん」


 私は少々茫然としながらも真から絆創膏を受け取る。嬉しい。嬉しいけれど……なんというか。


「なんで絆創膏なんか持ってるのよ」

「まぁたまたまだな……っていうのは冗談で、ほら、俺ら外で遊ぶと大抵傷つくるだろ。だからこうして常備するようにしてんだよ」

「なによ……あんたの方がよっぽど子供じゃない」

「うるせぇな!それが恩人に対する言葉か!なら返せよ!」

「でも……うん。ありがとう」

「……ふん」


 真はムスッとした表情でそっぽを向いた。確かに今のは私の方が酷かったか。でもまさか真が絆創膏なんて持ってると思ってなかったし、まさかそれを渡されるとも思わなかったからついね。ただ、嬉しいのは確かだしきちんとお礼は言わないとね。


 ていうかよく私の膝に傷がついてるなんてわかったな。スカートで見えるか見えないかのギリギリなとこなんだけど。


「でもあれだよね。よくわかったよね」


 というわけでついでに聞いてみる。なんて答えるかはもうわかってるんだけど。それに対して言うことも決まってるんだけど。


「そりゃお前、見てたからに決まってるだろ」

「へー何を?」

「何ってスカートの……」

「スカートのぉ……何?」

「い、いいだろ!別に!たまたま目に入っただけだ!」

「ほほぉ、ふぅーん、なるほどぉ。うんうんたまたまね」

「そ、そうだ!たまたま!さっ、早く学習室に戻ろうぜ!」


 真は言うやいなや、足早に学習室に戻ろうとする。しかーし!そうは問屋がおろさないぞっ☆


「す・け・べ♡」

「~!!!やっぱ絆創膏返せ!!」

「あっははは!やーだよ!もう貰ったもーん!!」

「琴音のくそったれ!!」


 真は顔を真っ赤にし捨て台詞を吐き学習室へ行ってしまった。私はそんな真を見て爆笑する。こうして見ると真も結構可愛いやつなんだねぇ。くふふふふ。

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