19話 琴音 神代君と 不思議な空間! 〜目指せ学校へ〜
「へぇ……今は東京に住んでいるんですかぁ」
「うん、そうなんだ。だからここに来た時驚いたよ。こんなにも広々としてて人も少ないんだってね」
私と謎のイケメンこと神代優君は仲良く?歩いている。流石に一人だけ自転車に乗るのも変だし、何より歩くスピードに合わせて自転車をこぐとか、某お笑い芸人のディ○ンのモノマネじゃないので無理だ。なので自転車のハンドルを掴みながら押して歩いているというわけだ。時間にはある程度余裕があるし、歩いても特に問題もないしね。
あ、転んだ件だけど特に怪我とかはなかったよ。買ったばかりの服が……みたいな悲劇もなかったし。ただ少し膝が擦りむけてしまったよ。膝に矢を受けてしまってな……こんなもん唾でもつけとけば治るがらねぇ〜。へぇ〜きだよぉ〜。ぺぇっ!!
で、折角一緒に歩いているのだしこうしてお話をしている。無言で送るとかそれは無理ぽ。私沈黙って苦手なんですよね。
「あぁ~、まぁ確かにそうですよね~。向こうだとどこもかしこも人と車だらけ。建物も密集してますし窮屈な感じしますもんね」
「あれ?川田さんも東京行ったことあるの?」
ハァッ!!!しまった!!!東京のこと聞いてたらつい懐かしくなって(1週間前)答えちまった!!そうだよ!!琴音ちゃんまだ行ったことないよ!!少なくともこの体では東京まで行ったことないじゃないですかやだぁー!!と、ととと取りあえず誤魔化さなきゃ!!
「あぁいや!その、ネットで調べたというか!!ほら!画像見るだけでも窮屈そうに見えるじゃん!!!」
「あぁ、ネットね。確かに画像見てもテレビで見てもその辺のとこ映ってるもんね」
「そそ!テレビのニュース見てても凄いな~と思ってね。あーゆーの見ちゃうと田舎の方がゆったりしてていーなーって思っちゃうよね!」
「ふふっ、そうだね」
ふぅ、何とか誤魔化せたか……。いつもギリギリだぜぇ……ぎりぎりあーい。にしても習慣って怖いね。私みたいに特殊な人間だと、今ある習慣と前までの習慣があるわけで。すると、油断しているとすぐに前の状態で話したりしそうになるので怖い。
にしてもこいついつまで笑っているんだろう?いくらなんでもちょっと失礼じゃないかな?そんな私の心情が顔にでも出ていたのだろうか。神代君は私を見て慌てて身振り手振りを加えて話し出した。
「あーいや。やっと普通に話してくれたなと思ってさ」
普通に?あぁっ、そういえばずっと丁寧語だったからねぇ。とは言えいきなりラフに話をするなんてできないでしょ。それに前世の癖ってやつだ。気付けば私は初対面の人には丁寧語で話すようになっていたよ。普段だったら気を抜こうが丁寧語は抜けないのだけれど、今はこの体ということもありこっちの精神に引き摺られているということだろうか――。
ん?いやそうじゃなくて。
普通初対面の人相手だと丁寧な言葉にならない?そんなもんだと思うけど。それにしても神代君は私がラフに話す方がいいらしい。馴れ馴れしいなぁとか思わないなんて凄い出来た子だ。これがイケメン(ry。
「そうかな?」
「うん、そっちの方が君らしいと思うよ」
「そ、そう」
なんで一々歯が浮く感じの言い方するかなぁ。むー、むずむずする。
「あ、あれが学校かな?」
私が言いようもない感覚にむずむずしていると、神代君は指をさした。その先にあるのは私の通う学校があった。
「うん、そうだよ。で、感想は?」
神代君は校門まで歩き学校を見上げると口を開いた。
「そうだね。うん。想像していたよりずっといいよ。安心した」
「そっかどうせなら中も見学する?先生にお願いすればもしかしたら入れるかもよ?」
「……いや、今日は遠慮しておくよ。まだ確定したわけじゃないからね」
「そっか。ならまた別の機会だね」
「そう、だね」
神代君は満足げに笑顔を浮かべる。これがイケメンスマイルか……本当に眩しいな。私のスマイルも負けてはないと思うけど。
「そうだ川田さん」
「ん?」
「もし僕がここに転校してきたら、その時は僕と友達になってほしい」
いきなり真剣な顔をして何を言うかと思うば友達になれとな?別にまぁいいけど。それって改めて言うことだろうか。
「え?いいけど」
「よかった。ならさ、その時には僕のことを優って名前で呼んでほしい。僕も君のことは琴音って呼びたいからさ」
「はぁ……まぁその程度なら全然いいけど」
「ん、約束だよ」
「いいよ」
何だかよくわからないけど、約束しちゃった。別に最初から名前で呼びゃーいいじゃないのと思うのは私だけ?社会に出たら基本は苗字呼びだけど子供社会だったら別にねぇ。私だってどっちで呼ばれようが気にしないし。ほんと、約束するようなことでもない気がするけど。
「さて、学校を見ることができたし満足かな。川田さん、今日はありがとうね」
「ううん、全然。それより帰り道とか大丈夫?また送ろうか?」
「あぁいや、道はもう覚えたから大丈夫だよ」
「わお、記憶力いいんだね」
「まぁね」
少し得意げにすました顔をする神代君。ふーん、そういうところは年相応って感じがするなぁ。
「それじゃ、ここでバイバイかな」
「そうだね。今日は本当にありがとう。助かったよ」
「ううん、どういたしまして」
「またここで会おう。その時は友達として」
「うん!楽しみにしてるよ!」
私は神代君に笑顔を送り、手を振る。すると神代君も
「やっぱり、君は僕と一緒だ」
ふと声が聞こえた。それとハッキリと。まるで耳元で言われたかのように明確に。今のは確かに神代君の声だ。イケボだもの聞き間違えようのない。先ほどまでの優しそうな声ではない。まるで同士でも見つけたかのようなそんな安心した声だ。私はバッと振り返る。だが、振り返った先には既に遠く離れた神代君の後ろ姿があっただけだった。
聞き間違いだろうか?
でも私は確かに彼がそう言ったのを聞いた。しかも一言一句ハッキリと、くっきりと、きっちりと。どこかのシンメトリー教のツートン君のように虫酸が走るくらいに。嫌に私の中に響く言葉だったのだ。
一緒。何が一緒だと言うのだろうか。アレか?彼はイケメンだけど所謂メンヘラと呼ばれるタイプの人間なのだろうか。私メンヘラにもトラウマがあるので……出来ればそれは避けたいのだけれど……。
でも、あれだけの距離が開いていながらあんなハッキリと言うには無理がある。ということはきっと私の聞き間違いということだろう。ちょっとイケメンが苦手だからと悪く意識しすぎたのかもしれない。琴音ちゃん最低だよもう……。
私は気にしないことにし、当初の予定通り学習センターへと向かった。集合時間まであと10分だ。十分間に合う。ちゅーか、1分もしないでつくし。
さて、着いたらシミュレーション通りシレッと「忘れちゃった!テヘペロッ☆」と例の問題用紙の件は誤魔化そう。それが出来なければ今日わざわざ学習センターを指定して一旦家に帰った意味がないのだから!あ、でも新しいお洋服に早速袖を通すっていう意味もあるから全くの無駄ではないよね!
◇◆◇◆◇◆◇
今日俺は学校を休み、父と一緒に弘前市へ来ていた。普段は才色兼備な人間を演じている俺だが、今日ばかりはどうしても学校を休まざるを得なかった。この日を逃しては次に来る時が転校した日となってしまうからだ。だから俺は父に無理を言いここに連れてきてもらった。
弘前市は中々にいいところだと思う。雑多な人や車、ビルなんて存在せず、必要なものだけが揃っているそんな感じだ。いつもの東京なら歩道だろうが車道だろうが何かしらに埋まっているはずだが、ここには閑散と車や人がまばらにいるだけだ。実に素晴らしい。人の目が少ないということはいつものように気を使い続ける必要もないということだからな。
俺は監視の目から逃れた気持ちだ。わかりやすく言えば動物園の檻の中にいる動物が様々な視線から解放されてようやく眠りにつける、そんな感じだ。
「ふぅ……」
ため息をつく。向こうでは間違ってもこんなことは出来ない。後々ここでもそんなことは出来なくなるだろうが、今は俺を知る人物などここには存在しないのだ。唯一俺が心休まる時間であるとも言える。しかしこの時の俺はあまりにも気を抜き過ぎていたのだろう。普段は気にしている十字路を何も確認などせず、ヌッと出てしまったのだ。するとどうだ。左からはしってきていた自転車が急にハンドルをきり、そのままバランスを崩し転んでしまったではないか。俺はやっちまったと思い急いで自転車に乗っていた人物のところまで駆け寄る。
「あ、と。すみません!大丈夫ですか?」
駆け寄ってみればそこにいたのは自分と同じくらいの少女だった。勝気そうな瞳を歪ませうっすらと涙を浮かべている。これはめんどくさそうな手合いか?と一瞬身をこわばらせるが、それでも手を差し伸べないわけにはいかない。何故なら、それが優等生であり才色兼備な理想の息子だからだ。
「あ、うん……」
しかしどうだろう。俺の予想とは反して少女はその見た目に不釣り合いな可愛らしい声でおずおずと手を取った。俺は少しそんな少女にドキリとしながらも平静を装い立ち上がらせる。サラッと体を見てみるが、どこにも怪我はないようで安心した。自分のせいで女の子が傷をつけるのはあまりにも忍びないから。
そこから俺は少女と軽いやりとりをし、お互いに名前を名乗った。
少女の名は川田琴音だと言う。琴音。いい名前だ。名前の通り、琴の音色のように良く耳に響く心地よい声だ。表情も明るいし、そもそも彼女から伝わる雰囲気が明るいのだ。俺は気付けば琴音と一緒にいるのが心地よく感じていた。そして楽しい時間というのはあっという間に過ぎる。俺の一緒にいる為の口実であった学校への案内は等々終わってしまった。これから数ヶ月は会えないだろう。いくら将来的には同じ学校に通うことになるとは言え、数ヶ月も先のことだ。ちょっとしたやり取りしかしていない俺のことなど忘れてしまうだろう。だから俺は約束をする。次にあったら友達になろうと。その時は名前で呼び合おうと。すると彼女は快く承諾してくれたではないか。不意に俺は飛び上がりたくなる衝動に駆られる。彼女との間にこうしてつながりが出来たのだそりゃ嬉しくもなるというものだ。
こうして約束もした俺は名残惜しくも琴音と別れることにした。お互いにバイバイと在り来たりな言葉を口にして。そしてそこで琴音の笑顔を見てわかったのだ。この人とは本当の意味で友達になれるだろうと。
道化の自分と同じように、彼女の笑顔からは演技をする人間の雰囲気を感じ取ることが出来た。いや、作り笑顔など誰でもするものだが、彼女のそれを見た瞬間わかってしまったのだ。これはもう直感と言ってもいいのかもしれない。同族が発するオーラだとか波動みたいなのを感じ取ったというオカルト的なものになるが、俺にそう確信させたのだ。理屈でも科学的でもなんでもない。ただの直感。だが、俺はこの直感が正しいとこの時ばかりはそう感じた。
「やっぱり、君は僕と一緒だ」
思えばこうして彼女が気になって心地が良かったのもこういうことだったのだろう。同族を見つけた安心感と心地よさ。だからこそ、普段人との関わりを積極的に持とうとしない俺がこうして約束まで取り付けたのだ。
俺は道化だ。
誰から見ても才色兼備で完璧な人間。成績優秀でスポーツもできて家事も気遣いも何もかも上手く、要領よくこなせる。そんな人間。俺はそれを演じる。中身の俺なんてそんなことはこれっぽっちも大事だとは思っていない。本来は他人になど興味はないし目立つようなことだってどうでもいい。女子からわーきゃー言われようとどうだっていい。先生からの評価や周りの評価もだ。だが、それをすることで救われる人がいるのだから俺はこれを演じ続けなければいけない。
俺は演じて来た。これまでずっと。物心着いた時からずっとだ。だからこそわかるのだ。人の演じている時が。琴音からもそれを会話の端々から感じていたが、それが確信となったのはやはり去り際の笑顔だ。アレは何かを演じているに違いない。しかし不思議なもので彼女からは負の感情は感じなかった。演じている人間は漏れなく二面性を宿しているもので、大抵の者は表層、演じている人物とは真逆になることが多い。例えば明るくて気の利く人ならば、裏では怒りっぽく嗜虐性の高いとかね。そしてそういうのはどこかしらに滲み出るものだ。俺ならばそれを感じ取ることができる。
そこで、琴音は明るく楽しい人物を演じているのは確かだが、彼女の裏側に潜む二面性というのが不思議と見つからなかった。今の琴音が演じているのは確かなのだけれど、その二面性がないのだ。だからこそ俺は興味を持った。彼女が気になる。もっと沢山会話をしたい。もっと彼女の内面を見てみたい。ここまで人に対して夢中になったのは初めてだ。
俺は帰り道もひたすら彼女のことを考える。これは異常だ。自分でも変なやつだと言う認識もある。しかしこの胸の奥にある感情とでも言うのだろうか、それが刺激されて止まない。こんなことは初めてだ。
「川田琴音……琴音か。ふっ、君とまた出会える日が待ち遠しい」
俺はキザッたらしくそう呟く。
――この日、
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