14話 私って重い女です?

 ハロー琴音ちゃんだよ。ていうかおはよう?


 結局保健室に行った後、復帰できなくて無事死亡でした、テヘ。今日は5時限目までしかないので、お昼に保健室行った時点でアウトだったよね。途中で復帰して授業受けられるかなーと少し期待していたのだけれどガッツリ寝込んでいたので気付いたら授業終わってましたよ、HAHAHAHA。はぁ……。


 それにしても女性のアレってこんなにキツイとは思っていなかった。正直なめてた。すこーし情緒不安定になるだけでしょ?程度に思っていたのだけれど、実際に体験してみるとこれが結構しんどい。一般企業で生理休暇っていうのが導入されるところがあるっていうのも頷ける。学校の授業でさえ割と上の空だったのだ。責任のある仕事では、猶更辛いであろうことは容易に想像がつくよ。


 まぁ取りあえず1時間近くも寝たら体調も良くなってきたので、宮先生にお礼を言い保健室を後にした。こんなのただの午後休だよね。お給料下げられちゃう……って今は学生だから大丈夫か猛省。


 若干重ーい体に鞭を打ちキビキビと歩く。ダラダラと歩いたり自分弱ってますアピールをするのは好きではないからだ。変に周りに気を使わせるのも嫌だしね。


 閉まっている教室の扉を開けてみればそこに生徒はもういなかった。帰るの早くね?みんな。私だけ置いてけぼりだよ。琴音ちゃんギザ悲しす……。


 私はショボーンとしながら机から取り出した教材を鞄に詰めていく。うん、ずっしりする……。これを持ち帰るのかと思うとうんざりしてしまう。まぁ前の私は学生鞄だけで11kgあったんですけどね!毎日がトレーニングでしたよホント。


 とは言え、今の私にとってこいつは結構な重さであることは変わらず。うへー重いよー辛いよー誰か持ってー、なんて私の心の言葉は誰にも届かないよね。唯一それを察してくれそうな心の友であるみーちゃんも今日は先に帰ってしまったようだし、踏ん張って持って帰るしかないよねぇ。自転車のカゴに載せてしまおうかとも思ったけど、寧ろ重心が前に寄ってしまいハンドルを取られそうなので、肩にかけたまま荷台に載せる。うん、これなら多少は重さが軽減されるのでいーね。


 にしても、自転車をこいでいると猶更感じるんだけど……なんかパンツに違和感を感じる……。いやね、男だった時はガラパンだったりボクサーパンツだったりと開放的だったりやたらフィットしたりだったりあった訳なのだけれども。今はまぁそのアレを付けているわけなのですよね。するとなんか股に違和感を感じると言いますか……。男では味わえなかった未知の感覚だよね。……あ、なんか少し恥ずかしくなってきた。やめやめ!このお話しゅーりょー!!


 そんな風に一人問答をして勝手に恥ずかしくなっていたりしたら自宅についてしまった。朝学校に行く時よりも距離が短く感じるのは体調が回復してきている証拠だろう。


 私は自転車から降り車庫にしまう。その際に荷台から鞄がずり落ちグエッとなったのは内緒である。重かったの!楽した分重みが増した気がしたんだもん!仕方ないやん!私か弱い女の子ですもの!ですわ!


「ただいまー」


 普段よりも少し元気のない声で帰ってきたぞーと自己主張すると、お母さんがヒョコッと顔を出してきた。


「あら大丈夫?さっき美鈴から連絡あってあんた保健室行ったって」


 お母さんは私の方までよってくると頭や肩などペタペタと触って心配そうに尋ねてきた。ついでに胸を触ったりして大きさを確認するのはやめてください。そこ関係ないので。いや、関係あるかな?少し張ってる感じがするし。


「うん、今は大丈夫だよ。そのアレが、来たみたいで……ダウンしてただけだから」

「アレ?」

「うんアレ」


 あえて隠語で話す。保健室の時は養護教諭が相手だったのであっけらかんとそのまま口に出してしまったけれど、改めてお母さんに言うとなると何故か気恥ずかしくてそのまま言えなかった。ほら、養護教諭って前職がお医者様だったり看護師さんだったりするじゃない?だからお医者様にお話ししているのと同じ感じになっちゃうというか……共感できませんかね?


「アレ……あーもしかして生理?」


 しかし私の努力空しくお母様には伝わらなかったようで。


「う、うんそうだけど……もうちょっと伏せて言ってくれても――」


 私はせめてもの抵抗として直接的じゃなくて伏せて言うよう抗議しようとした時だった。全てを言い終わる前に目の前が真っ暗になったのだ。決して意識を失ってバッドエンドていうわけじゃないよ。お母さんに抱きしめられたのだ。それも少し痛いくらいに強く。だけど不思議と嫌悪感も苦しいという思いも存在しなかった。寧ろとても温かくて気持ち良い。


「良かったじゃないー!これであんたも一人前の女の子だ!今は少し辛いかもしれないけど、これからあるたびにもっともっと綺麗に可愛くなっていくんだよ!素晴らしいことよ!おめでとう、琴音」


 お母さんが優しく、そしてとても嬉しそうにそう言った。それを聞いた時、私はなんで恥ずかしがっていたんだろうと思ったのだ。そうだ。前も言っていた。生理は女の子にとって大切なもので、これからもっと綺麗になっていくのに必要なものなんだよって。だから辛くても決して悪いものじゃないんだよって。今こうして改めて言われたことで思い出・・・が蘇っていく。そうだよ、これは忘れちゃいけないことなんだ。


 私は無性に泣きたくなっちゃってお母さんに抱き着く。お母さんが喜んでくれてる。祝福してくれてる。それがとても嬉しくて、愛されているんだなと思ったら涙が出て止まらなかった。


 お母さんは私が落ち着くまで片手で抱きしめ、もう片方の手で頭を撫でてくれた。




「うぅ……は、恥ずかしいぃぃ……恥ずか死しそぅ……ぅぁ……」


 私は自身の机で両手で顔を覆っていた。


 ねぇ!なんで!なんであんなに感極まっちゃったの私!泣いちゃったよ!ナチュラルに号泣しちゃったよぉ!いくら精神が不安定だったからってあんなの、あんなの!あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁあ!穴があったら入りたい!!なんならサンゴ礁でもいい!私カクレクマノミになるぅ!!


 まさかのまさかだよ。自分でも思った以上に感情の振れ幅が大きいというか……本当女の子って大変なんだね。何度でも言うよ。女の子って大変だよ。ある意味男だった時の方が遥かに気が楽だったよね。男ならではの困ったこととかもあるけど。主にピーーーーーーーーーーー


*****自主規制*****


 ――とかねー。これは本当に男時代嫌だったよ。そういう意味だとその悩みが無い分気が楽ではあるけど、それ以上に肉体的にも精神的にも大変なんだもん。それだけは声を高らかに言えるよ、うんうん。


 さて、今は少し体調が良い。お母さんに癒されたというか泣いたおかげでスッキリしたというか。まだ体の気怠さはあるものの、何かするにあたっては特に気にならない程度だ。


 というわけで今日も今日とてお勉強です。特に学校ではほとんど身にならなかったので猶更だよね。まぁぶっちゃけ今はまだ勉強するほどのものでもないんだけど、どうせならテストでいい点数というより……トップ狙いたいじゃん?私は知識チート(笑)でかなり優位に立ってるわけでしー?それを活かしたいじゃないですかー。え?前はそれで優越感に浸ってるのは人間のクズとか言ってた?ナンノコトカナ?大人はずるいんだよ。そしてそうしなければ生き残れないのが社会の厳しいところなのです。あぁ汚い汚い。


 と、おちゃらけるのはこの変にして、真面目なはなしをすると、優越感に浸るというよりも『やりなおしたい』という思いが強い。勿論一番の目的と動機はブラザーズにとって恥ずかしくない、誇れる姉でいたいというものなのだけど、やっぱり個人の欲もあるわけで。すると過去何の努力もせず後悔するだけの日々を送っていたあの時を思えば、今から努力して改善するように頑張らなければいけないのだ。その上で私にはアドバンテージがあるというのならば、私はそれを迷わず使うよってだけのはなし。まぁそれでもずるをしてると言われればそうだねとしか言えないんだけどね。


 とにもかくにも、私にはチャンスがあるんだ。だったらそのチャンスは掴むしかないでしょ!今でしょ!……古い?でも今の時代なら先取りですぅ。未来に生きてますぅ。最前線ですぅ。




「うぎ……お腹痛い……」


 どれくらい経った頃だろうか、少しでも学校にいた時間分を取り戻そうと集中していたのだけれど、数分前から下腹部の鈍痛に悩まされていた。今なんか鈍痛というより、普通に痛い。我慢できなくはないけど、我慢したくない痛み。


 これは遂に始まったということなんでしょうか……いたた。朝からの気怠さも大変だったけど、今度はそれに腹痛までくるんでしょ?やばいよ。私女の子なめてたよ。厳しいぜ。思った以上に厳しいぜこいつぁ……。


 私は我慢できなくなってトイレに駆け込む。


 そして便座に座るのにパンツを下せばそこには……。


「わー……赤……」


 あ、私の履いてるものが赤いパンツってわけじゃないからね!そこ勘違いしないように!


 まぁ何が赤いかと言うと、はい、えと、察して……?あえて言うならそう、始まったとだけ。


 ここがねぇ、TSあるあるで言えば「ひぇー!血!血が出てるー!うやー!!」みたいな展開なのでしょうけど、私はテンプレクラッシャーなのでそんな程度じゃあたふたしないですよ。特に事前に血が出るってこと認識してますし、はい。驚いたことがあるとすればやはりアレの最中は非常に辛いのだということ。あれだぞ!ちゃんと期間中の女性には優しく気遣ってあげないとダメだぞ!本当に辛いんだからね!ま、個人差はあるらしいけど。


 秘め事を終えた私はトイレを出る。なんかにおいが……気になる気がするので(?)消臭スプレーを盛大に振りまいておく。よし。


 うぅ……でもなんかまだお腹に鈍痛が……マジ最悪……。あ、そう言えばお腹を温めておくといいってどこかで見たな~。タオルでも巻いておこうかな。


 さて、まだ痛みはするけど今日は少し頑張ってお勉強しないとね。明日は待ちに待った土曜日だし。土曜日と言えばお買いもの。そしてお買いものと言えば私の服っ!もうね!可愛いの買っちゃうもんね!TSなんて関係あるか!私は今女の子なんだ!おしゃれしたいもん!


 あー何買うかなー!ワンピース?それともフレアスカートを使ったロリ系?それとも少し大人びた清楚系?あーん!ヤバい!考えたでけで楽しくなってきた!ポジティブになってきた!元気な琴音ちゃん復活した気がして――。


「あ、いたたた……」


 うぅ……今日は終日こんな感じかなぁ……。


 ま!でも明日は待ちに待ったお楽しみ日だしおk!こんな痛みになんか屈する琴音ちゃんじゃないですぜ!……明日もこんな感じじゃなきゃいいけど、いたたた……。


 ブラザーズが帰ってきたら後ろから眺めて癒されよう。今日はお母さんがご飯作るって言ってたし、その時間をフルに使って癒しタイムにしてやるぅ!あ、でもお母さんのお手伝いぐらいはしないと。全部任せっきりって凄く嫌。できることはしないとね。


 んー!そう思ったら凄く楽しい気分になってきた!いつものふるぱわー琴音ちゃん再臨だよ!いえー!


 あ、みーちゃんに今日助けてもらったお礼言っておかないと。こーゆーのって大事だよね!!

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