無垢な少女に罪はない

小枝

第1話


初めて彼女を見たときに思ったのは、私とは「違う」タイプの人間だということ。



生真面目が制服を着て歩いていると例えたのは誰だったか。化粧もしない、スカートは膝丈、規律も乱さない。学校が決めた枠から逸れる様な生き方をする選択肢を私は選ばなかったし、そもそもそんなこと思いもつかなかった。

真面目。変なことしない。信頼おける。制服が、見た目が乱れていないだけで、放っておいてもそういう評価を得られるのは良いことなのかよくわからない。

そうやって私は、半ば押し付けられるかのごとく、生徒会という雑用係に入ることになった。特に異論はなかった。見た目故に押し付けられる雑用の内容が変わっただけだ。内申、推薦。その単語は頭をよぎったが。


ただ誤算だったのが、会長がこの学校始まって以来と噂されるほどの美男子だったことだろう。


「白尾さんは本当に信頼が置ける。君が副会長でよかったよ」


そしてにこっと笑うのだ。こんないわゆる陰キャラに。撃ち抜かれるなという方が無理である。


「白尾さん、これお願いしてもいいかな」

「白尾さんがたまに笑ってくれるとやったって思うよね」

「明日放課後空いてる? 頼めるの白尾さんしかいなくて」

「あ、ちょっと前髪切ってる。新鮮だね」


彼が聖人君子ではないことはわかっていた。うまく使われているなと思うときもあったが、それ以上に彼に褒められるのが、微笑まれるのが私を堪らなくさせた。ただ、時間とともに信頼は得ていると感じた。あわよくば、それがいつか恋になれば、私をなくてはならない存在と思ってくれれば、とも。



彼女の存在を知ったのは、1年の秋に生徒会に入ってから半年、夏の手前だった。



「職員室ってここですか……?」

「どうしたの、君。ここは生徒会室だよ」

「え、嘘! どうしよう、迷っちゃった……?」

「もしかして、転校生?」

「そうなんです!実は……」



目の前で繰り広げられるやり取りに、耳と目は奪われつつ手は止めなかった。

麗しい会長に、可憐な少女。

いやいや、迷ってこんな奥の教室ピンポイントで開けないでしょう、とは言えなかった。私はこの世界に割り込むには不釣り合いなのだ。


「白尾さん、ちょっとこの子送ってくるから少し抜けるね」

「ごめんなさい、邪魔しちゃって」


大丈夫だよ、行ってらっしゃい。

それさえも言えないほど、私は心が狭かった。


花が咲いた様に笑う彼女。膝小僧が見える丈のスカートはきちんとプリーツがきいていて、そこからは細い足がすらりと伸びていた。化粧気は少なそうだが、笑顔が何よりも可愛く見えた。

今までにも会長のことを好きな美人な人、可愛い人はたくさんいた。うまく言い表せないが、何故か彼女は「違う」と思った。



初めて、自分の膝丈のスカートを恥ずかしく思った。

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無垢な少女に罪はない 小枝 @moudame

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