ミッション5:リレーで1位獲得後のお話!!

 閉会式を終え、クラスに帰った私たちは、1位獲得祝い&ご褒美に、担任の松林桃香先生からパックのイチゴオレを頂いた。それからほどなくして帰宅時刻となった。


 莉茉は最近バイト三昧だから、一緒に帰宅することはない。だが、”代わりに”というのは失礼なのだが、ここ最近はスーミンとリレー練習をして、必然的に一緒に帰るようになっていた。


 今日は体育祭終了後、全生徒が一斉に帰宅することになっている。当然の如くいつもの習慣から、自然と今日もスーミンと二人で帰ることになった。


 でも、きっと一緒に帰るのは今日で終わりだ。そう思えば少しだけ寂しいが、まったく恋心はない。当たり前だ。いわずもがな、私の脳内の大半は君藤先輩が占めているからだ。


 スーミンはわりと2・3年女子から人気がある。莉茉情報によると、メガネ知的男子風&謎めいた雰囲気がすごく良いのだそうな。君藤先輩ほどじゃないが、とっつきにくい雰囲気の彼ゆえに、いろいろ誤解されやすい。話せば大いに話しやすく、笑えるほどの天然っぷりで、面倒見がいいナイスボーイであることに、私は最近気付いた。お勧めな男の子だけど、なんとなく恋には奥手のような気がする。


 今はなぜか、いや、私がわりといつも隣にいるから、彼女だと思われ始めていることに気付いてはいる。たけど、私は気付かないフリをしている。率直に噂なんてバカバカしく、すぐ消えてなくなるものだと思っているからだ。だからかまわず、今日も私はスーミンと二人で家路をともにしている。


「スーミンのおかげでめちゃくちゃ助かったよ。疲れてるのにほぼ毎日部活終了後に指導してくれたおかげで、今日みんなで有終の美を飾ることができたね!本当にありがとう!!」

「うん。どういたしまして。じゃあご褒美ちょうだい」

「もちろん!何がいい?」

「決めてないから考えとく」


 それからも他愛もない話をして、体育祭による運動疲れもあり、終始まったりとした雰囲気で歩みを進めた。すると。


「あ...」


 と、スーミンは何かを見た瞬間足を止め、ピクリともせず固まっている...。


 スーミンの視線の先を辿るーーーー。


 これは、マズい現場に遭遇してしまった。だからといって、もう引き返すことは無理だとすぐに悟った。なぜなら、その光景を目にし、物申した気な強い眼差しを向けたスーミンが、ここに存在しているから。


 スーミンの鋭い視線の先には、スーミンの元カノで美少女ちゃんこと、志田怜羅ちゃんがいた。


 彼女は、背の高い男の人と買い物をすませ、スーパーから出てきた瞬間を、スーミンと私に目撃されたというわけだ。


(タイミング悪すぎでしょ、怜羅ちゃん...。男性関係、スーミンに疑われてたから、これはマズいんじゃない?)


 なんだかお似合い...というのは不謹慎なのかもしれないが、一見、美男美女カップルだ。兄妹よりも、恋人の方が納得いくというわけだ。そして、その二人に冷やかな視線を向けるこの男、スーミンこと住田くん。


「俺が3回目撃した男はそれぞれ違う男だったんだ。あの男は、多分そのうちの一人だと思う」


 そうなのか。それは怪しい......なんて、私には思えなかった。外見は美男美女ゆえにカップルっぽく見えるのだが、断然しっくりこないことに首を傾げた。だって、カップルってもっとベッタベタにくっついて歩くはず!(←勝手な決めつけ。)なのに、二人の距離は若干離れているような気がする。かと思えば、彼は道路側にいた怜羅ちゃんに、建物側を行くよう促し、自分が道路側を歩くという紳士っぷり。いい雰囲気の男女に見えてしまいがちだが、妹と妹思いの良き兄の方がしっくりくる。


 あともう一つ、関係性を示唆する彼の行動に注目する。


 以前、心理学について興味があり、参考書で調べたことがあった。ある一例でこう記されていた。


 性別は関係なく、二人で歩いている時、相手側に鞄を挟む形で持つ場合、距離を置きたい心理が働いているーーーー


 彼が仕事の鞄と買い物バックを一緒に持っているのは道路側。つまり、それらの荷物を怜羅ちゃんがいる側ではなく、反対側の手で持っている。怜羅ちゃんは学校鞄を間に挟む形で持っている。心理学的には、彼の方が距離を縮めたいと思っていることがわかる。(※あくまで心理的傾向である。)


 この前怜羅ちゃんが言っていた。スーミンが目撃した男性たちは”兄”だと。


 あながち嘘ではないような気がした。


「スーミン、尾行するよ」

「あっ、おい!嘘だろー!」


 私はスーミンの腕を力ずくで引っ張り、二人のあとを程よい距離を保ちつつ尾行した。


 会話はすんなり耳へと届く。


「そういえば、今日は遅くなる予定じゃなかったっけ?お兄ちゃん」

「ああ。今日夜9時に彼女と会う予定だったけど、急用で彼女が会えないって言うから急きょ家族孝行でもしようかなーって。どうよ、できた兄ちゃんだろ?」

「だね。でも急用なら仕方ないよ」

「まあね。...お前の方は?この前言ってた恋は進展ないの?元彼との恋!」

「シーッ!はしゃがないでよ。...全然脈ナシ。でもね、もう絶対に諦めたくないんだ。だからまた相談にのってくれる?」

「おー!もちろん!!俺ら3人の兄ちゃんが総動員でかわいい妹の応援団になるって言ったろ。だてにお前より長く生きてねぇっつの。任せとけ!」

「うん!頼もしい兄をくれた親に感謝だよ」

「そうだよなー。一緒に住まわせてくれてる今の両親に最大限の感謝だよな」

「ほんとそうだね!」


 その仲良しな義兄たちの存在が、怜羅ちゃんの恋の障害になっているのに、義兄たちに心から救われているのだと感じ取れる。


 それは、黙って二人の会話を聞いているスーミンも然り。


 かなり重そうな買い物袋をもつ義兄とは対照的で、学校鞄を前後に揺らしながら軽やかにスキップをし、帰路を急ぐ怜羅ちゃん。そして、後ろ姿しか見えないから表情は窺い知れないが、きっとそんなかわいらしい怜羅ちゃんを目を細め見守っているであろう義兄。そんな二人の姿に、私はもちろんのことだが、きっとスーミンも胸がほっこり温かくなったに違いない。


 義兄たちのことをスーミンに誤解され、辛くて腹も立っただろうに、まだ怜羅ちゃんはスーミンに好意を寄せている。


「俺の誤解だったんだな。...なんかすごくカッコ悪いし、情けないよね。俺」

「スーミンってば、本当にどうかしてるぜ!...なーんていうのは冗談でさ。情けないとは思わないよ。確かに言葉はキツかったし、彼女を傷つけたとは思う。だけどね、ヤキモチがそうさせたんだから、愛情があってのことだと私は思うよ」

「ユーミンは俺に甘すぎ。だけどさ、あいつ...めちゃくちゃ綺麗だし、男めっちゃ寄って来そうじゃん。案の定、目撃した相手の人たちは俺よりかっこよかったから、ムカついて嫉妬して傷つけてしまうほど意地悪言って、遠ざけてしまいたくなったんだ」

「愛するがゆえにってやつなんでしょ。その心理は普通なのかもね。彼女と別れた理由は嫉妬かぁ」

「彼女がモテすぎてムカついたから」

「スーミンも普通の男の子なんだね」

「顔面偏差値が高い彼女を持つと苦労します...」

「大変だね。...よしっ!スーミンの恋愛相談には私がのってあげる!」

「よろしくー」

「軽っ!...でもさぁ。羨ましいなー、 怜羅ちゃん」

「美少女っぷりが?」

「もちろんそれもだけどさ。私も嫉妬されたい!!嫉妬で狂ってほしい!!」

「は!?何突拍子もないことを今言ってくれてんの?」


(だって、私の大好きがすぎる君藤先輩は...。)


「いつも何考えてるかわからないし、容赦なく酷い発言多めだし...」


 ぷっと顔を背けて笑うスーミン。意味不明だ。終いには私を見てため息をつき、オーマイガット的な身振り手振りをして見せた。


「マジなの?それはちょっと男心わかってないんじゃない?」

「...へ?スーミンは君藤先輩の何を知ってるの?」

「俺はあの目ですぐに気持ち、理解できたけどね」(リレーの練習風景を見てたあの目は、典型的な...そう。ユーミンが泣いて喜びそうな目をしてたよ。)


「スーミンは意地悪だ。君藤先輩の気持ちを理解できてたんなら、友達のよしみで私に教えてくれてもいいじゃん!!男心がわかってない鈍感な私に!」

「あー、拗ねてるし...。あのさ、そんなの教えちゃうと、ジレ恋の醍醐味である”もどかしさ”が半減しちゃうじゃん。見たくもないリア充と化すじゃん。簡単に!」


 スーミンは意外にも、ジレ恋推奨派らしい。ていうか、やっぱり私には君藤先輩の心の内というものは理解できていない。



 その時だったーーーー。


 私とスーミンがやいのやいの言っている後方からーーーー。



「相変わらず仲良しだな」



 私の大好きなイケボが聞こえてきて、心臓が跳ねる。


 二人して振り返ると、まさかまさかのーーーー君藤先輩の姿があった。



「君藤先輩!?!えっ??まぼろし!?」


(会いたすぎて幻覚を見るほどに!?...ん?相変わらずって...何度かスーミンと私の仲良しな場面を見てたの!?)


 ※その通り。君藤海李はあれからも何回か二人のリレー練習現場を目撃していた。そしてその度に、逆に住田もそんな君藤海李を目撃していたのだ。


「相変わらずうるせー女」


 そんな意地悪なことを言われ、なぜ君藤先輩がここに!?いつからいたの??と不思議に思っていると、スーミンがとんでもないことを...。


「君藤先輩、この子を俺からさらいに来たんでしょ?」

「は?勘違いすんな。たまたま凛子...親にジュースのおつかい頼まれただけだから」


 スーミンとともに無言で視線を下ろし、君藤先輩が持っている白いビニール袋にうっすらと浮かぶジュースらしきシルエットを確認。そして、二人して「あっ」と軽く驚きの声をあげるというシンクロニー現象を起こしていた。


 君藤先輩が言ってること(おつかい)は本当だったのだろう。そして、よりによって恋人でもないスーミンと一緒にいるところを見られるなんて...と、ツイてなくて落ち込むところだけど...。


 ふつふつと喜びが湧き上がる。


 昨日も君藤先輩に会っているとはいえ、 ”君藤先輩断ち”が解除された早々、先輩に会えた喜びの方が勝ってしまっていることをまざまざと思い知る。本当単純に嬉しいのです。


 そんな私の内心事情を知ってか知らずか、マイペース&マイウェイボーイ・スーミンに振り回されることに。


「ユーミン。おれさ、怜羅とより戻すわー。で、コーチしたご褒美に、俺らがうまく成就する魔法の言葉ちょうだい」


 想い合う二人の幸せな未来は、間違いなく訪れるはず。自分のことのように嬉しくなって、スーミンに、魔法の言葉を囁く。


「大丈夫!スーミンはきっと、思い通りに進んでいくよ」

「うん!サンキュー」


 私の確信めいたその言葉は、本当のところ確信ではなく、願望からくるものだった。だけど、あえて願望を確信として断言すれば、それが魔法の言葉と化し、必ず現実のものになると思った。


 晴れ晴れとしたニッコリ笑顔のスーミンは、やや距離が開いた怜羅ちゃんwith兄の元へと走り出した。青春だ!!!


 そしてーーー。


 一瞬中断された君藤先輩とのひと時に戻るべく、私は若干フリーズ気味の君藤先輩へと向き直った時。


「わっ!」


 このタイミングで突風が吹き荒れ、サラサラな髪を靡かせた君藤先輩は、射抜くような目でじっと私を見つめていた。


 そんな色気漂う君藤先輩に、ドキドキがMAXでクラクラしてしまい、当然私の心臓はとてもとても忙しく騒いでいる。


 そして、君藤先輩がこんなことを言うものだから、なんだかニヤけてしまう。


「なあ...今俺の存在、忘れてたよな」


 これはとてもいい傾向じゃないですか。遠回しに、『俺の存在忘れんな』って訴えてるような気がして、なんてかわいいんだって抱きしめたくてーーーー。うずうずが収まりそうもない。だけど、君藤先輩にハグ魔だと思われているし、開き直って飛びつく手もあるが、人通りの多すぎるここでは憚られる...。


 君藤先輩は、寂しい思いをしていた

 幼少期を引きずったまま成長してしまっている。昔も今も、一番甘えたい人に甘えられないもどかしさのせいで、不器用な甘え方しかできないのかもしれない。それがとても不憫に感じる。


 だからこそ、当然愛しさが募るーーーー。


「何ニヤけてんの?」

「いや...まさかこんなところで君藤先輩に会えるなんて思わなくて。サプライズだなあ〜って」


「さらいに来た」



 君藤先輩は無表情を崩すことなく、真っ直ぐに私を見つめ、そんな言葉を紡いだーーーー。


「ふぇ...!?」


 君藤先輩が思いがけない言葉をさらっと口走ったものだから、私は驚いた挙げ句、変声を発していた。


 さっきは、『この子を俺からさらいに来たんでしょ?』というスーミンからの質問に対し否定していたくせに。


「本当はジュースのおつかいなんて、されてねぇから」

「え。じゃあ...」


 推測だが、君藤先輩は私たちを学校から尾行していたのかもしれない。


 君藤先輩が持っているビニール袋の中身は本当にジュースだったけど、”おつかいのジュース”ではなかった。先輩たちも学年別リレーで1位を取り、ご褒美にジュースを頂戴していた。荷物でパンパンの鞄に入りきらなかったから手に持っているのだという。


 それではここでおさらいします。


 君藤先輩はおつかいでここに現れたのではなく、おつかいと見せかけて、私をさらいに来たーーーー。(らしいです。)


 事実ならニヤけるどころではありません!!それって、恋愛感情があってのことなのでしようか。前みたいに期待をさせて落とすパターンなのでは?一度振られてるから慎重な見極めが必要なのです。


「お腹空いた。ハンバーガー食べたくない?」

「食べたいです!...って、ひょっとして先輩、ご飯時の連れを探してて、たまたま見かけた知り合いの私をさらってまで一刻も早くハンバーガー食べに行きたかったとか?」

「は?...それ、無理ねぇか?」

「もう!じゃあ”さらう”にどんな意味があるんですか?」

「そのままだけど。行くぞ」


 君藤先輩はちろりと私を一瞥。不敵な笑みを浮かべると同時に私の腕を掴み、自分の方へと私を引き寄せ、歩みを進めたーーーー。


「まあいいです。先輩断ちは今日で終わったので、明日からまた覚悟しといてくださいね♪」

「うわータイヘンソー」


 そんな風に余裕ありげな君藤先輩が恨めしい。いつになったら余裕をなくすほど私に夢中になってくれるのだろうか。


 君藤先輩のことになると、途方に暮れることばかりだ。



「もう...時間の問題だね。由紗」



 とても小声だったが、なんとか聞き取れたあゆみくんの呟き。その最後は、またも私の名前を呼び捨てしていた。


(何が時間の問題なの?あゆみくん...。)


 そのあと何度もあゆみくんに声をかけるも、翌朝まで応答がなかったーーーー。

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