8. 陸羽聡易 代表

昨日は一日中、挨拶回り。

近畿選挙区の現職である同じ自公党が支持会派の子爵議員の先生方は社交辞令的だったが、左門飴也先生の後援会の方々の感触は概ね良好で「これからも応援したい」と力強く後押ししていただき、期待感が持てた。

あと、事前に左門飴也先生が電話をしていたらしいことも分かった。楽吉さんが出馬を決心したことは左門先生にもお伝えしてしていたが、それを受けてお電話なさったのだろう。

それと、新たに楽吉さんを支持してくださるであろう子爵有権者の方として、楽吉さんの友人知人関係にもあたった。


さて、今日は。


京都駅から新幹線に乗り、東京永田町へ。

今日は同会派となる現職議員先生へご挨拶に伺う予定。今の時間、先生方は貴族院議員会館にいらっしゃるとお聞きしている。


まずは陸羽聡易代表の議員事務室。

陸羽先生は、日本改新の会の代表を務める侯爵議員だ。現在50代ということで、侯爵議員の先生方のなかでいえば、若いほうの年齢層に分類されるのだけど、お父様が亡くなられたために、若くして侯爵議員になられ、今では侯爵議員のなかでは中堅以上だ。


議員事務室の扉を手の甲で軽く叩く。

「失礼します。左門飴也事務所の西村です。左門楽吉さんをお連れしました」


「あ、永蘭ちゃんね。どうぞ」


中から女性の先輩秘書が出てこられた。


「ありがとうございます」


「そちらが、左門先生のお孫さん?」


先輩は楽吉さんを見てそう言った。


「はい。飴也の孫の楽吉です。宜しくお願い致します」


そう言って、楽吉さんは名刺を渡した。


「陸羽先生は今、お時間よろしいでしょうか?」


「はーい、宜しくてよ」


そう言われて、奥の事務机まで導かれた。


「陸羽先生、左門先生のお孫さんの楽吉先生がいらっしゃいました」


「ああ、お入れしなさい」


低く威厳と安定感のある陸羽先生の声。


「失礼します。左門飴也の孫の左門楽吉と申します。その節は祖父がご迷惑をおかけしまして、申し訳ございません」


「あんなに元気だった左門代表代行が急に倒れられるとはね。去年末は本当に迷惑千万。大変だったよ」


そう言って笑う陸羽先生。

左門先生は会派の代表代行を務めていたが、代表代行が登院できなくなったことで、その皺寄せが陸羽代表の下に波及したことは事実だが、それ以上に陸羽先生はその皺寄せを買って出たところがある。

左門先生と陸羽先生は日本改新の会を結成する以前からの数十年の仲だと先輩から聞いた。


「楽吉くん、お祖父様が仰っていた言葉を借りると『政治家はしんどいときに助けられた仲間のことを心から信頼する』だそうだ。君には既に同世代の仲間がいるだろう。迷惑だと思わず、助け合うことが大切だ。それが本当に信頼できる仲間を作る唯一の方法だ」


陸羽先生は真っ直ぐに楽吉さんを見つめる。

優しくて力強いその視線を受け止め、楽吉さんは言う。


「勿体なきお言葉、心からありがとうございます」


「春の子爵議員選挙は君にとって政界での初めての戦いとなる。頑張りたまえ」


そう言って、陸羽代表は楽吉さんと固く握手をした。

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